魂の叫び~響け、届け。~

パピヨン PHASE-5


「・・・イ、ザークっ!どこまで引っ張ってくの」

「いいから黙ってついて来い」



「いっ・・た・・・!」


痛みを訴えるキラの声に、イザークはひたと足をとめて振り返った。


「どうした?どこか傷めたのか?」


紫玉を覗き込むようにして確認すれば、
みるみるうちにキラの顔に熱が集まった。


「う・・う・うん!大丈夫!ちょっと躓いちゃっただけ。ゴメン」


ああ、もう・・・
そんなにブンブンと音がしそうな程に左右に首を振るやつがあるか?


「躓いた?何もない平らなとこでか?
 ・・・ふっ・・・全くお前は・・・
 伝説のMSフリーダムを軽々と動かしていたパイロットの台詞とはとても思えんな」


「どーせ僕はイザークと違ってニブいですよっ」



参ったな。


ぷうっとむくれた横顔も可愛いだなんて、反則じゃないか?



これはもう重症だ。



認めねばなるまい。

完全なる敗北なのだと。



「もうじきプラントに到着だ。
 その前にお前にきちんと話して置きたい事があってな」



「話・・・?」





キラの声が不安気に揺れる。


「僕の事・・・面倒みるの、イヤになった・・・とか?」






「―――は?」


なんて突拍子もない考えをするんだ、こいつは。




「何故だ?」


「だ・・・・って、・・急にそっけなくなったし、
 前みたいに・・・笑ってくれないし!さっきだって・・・」


イザークはココア色の髪をふわりとなでた。
その柔らかさに目を細め、指を絡めて感触を楽しむ。


「すまなかった。
 不安にさせるつもりはなかったんだが・・・

 あまり俺が構うと、贔屓だコネだと仲間から浮くんじゃないかと思ってな。
 だがそれも俺の杞憂だったようだな。
 お前には周囲を納得させられる魅力がある」



俺はいつも“足りない何か”を捜し求めていた気がする。



求めて、

もがいて、


必死に手足を動かしてるのに掴めずに苛立つばかりで・・・・


でも何故だろう。

キラが傍にいると胸に灯がぽうっとともるような優しい気分になる。



こんな気持ちは初めてだ。









イザークはその場に膝を折り、
キラの左手の甲薬指に唇を落とすと身じろぐ相手を仰ぎ見た。



「イザー・・・ク?」




「キラ・・・



 いいか、一度しか言わん。


 ―――――――――お前が好きだ。


 だから、おとなしく俺のものになれ」




零れんばかりに見開かれた紫玉の瞳はみるみると潤い、
せり上がっては次々に溢れた。


重ね合わせた2つの手に、ポツリと雫が落ちる。



「だが、俺はお前を子猫のようにただ可愛がるだけの扱いはしたくない。
 肩を並べ、顔を上げ、前を向いて共に歩く。
 お前はそれが出来るヤツだと・・・俺は信じている」


イザークは立ち上がると、震える華奢な身体を柔らかく抱きしめた。


「・・・っ・・・そんなコト言って、
 後悔しても知らない・・・よ・・?」

「後悔?お前こそ後悔するなよ?これからは、ずっと一緒だ。
 もっとも、後悔したところで無駄だがな」


口元には傲慢な笑みを刷きつつも、、
暖かく、ぎこちなく、壊れ物を両腕で守るような抱擁。



そんな彼らしさが、やっぱり大好きだとキラは思った。





瞼を持ち上げると、
息づかいが聞こえそうな距離に淡い微笑みがある。


時間を忘れて見惚れてしまう高貴で優美な笑顔。



僕の・・・・

いちばん、大好きな笑顔。



「イザークありがとう・・・僕、も・・キ・・・ミが・・・」







「ええぃ遅いっ!」



大好き、だよ。



せっかちな唇は最後のひとことを待てずに・・・

恋人の言葉ごとそれを塞いだ。









*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  







触れるだけだった口付けが少しずつ深くなると、躊躇いがちにキラの唇が開かれた。


溢れる甘い蜜を追って、
唇から顎、顎から首筋へとイザークは舌を滑らせる。

なめらかな肌の感触を確かめるように軽く吸い上げれば、
キラの薄い皮膚に緋色の華が小さく、咲いた。




――――その時、




けたたましく鳴り響いたアラートが否が応でも意識を覚醒させる。


「エマージェンシー・・・?!」

「っ・・くそっ、一体何事だ!先にブリッジへ行くっ」



壁をひと蹴りしたと同時に身体を捻って振り返ると、
重力の抵抗を受けない白い長衣が蝶の羽ばたきのように翻った。


「続きはまた今度だ。
 襟元はきっちりしめてから来いよ?皆には目の毒だからな」





首を押さえてその場へうずくまったキラの耳は、
纏う服のそれよりも赤く染まっていた。




*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

■PHASE-6■へ続く


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