魂の叫び~響け、届け。~

パピヨン PHASE-8





どーにも気になるのだ、
あのオーブから来た補佐官のキラを見る目つきは普通じゃなかった。



自分に対する、あの冷酷過ぎる視線も。



「くっそ、無理矢理にでも行かせなきゃよかった」

シンは幾度目かの寝返りをうつと、ベッドに座り込んで膝を抱える。



ツー・ツー


来訪を告げる電子音に、
シンはモニターが反応するより早く扉に飛びついてスイッチを押した。

「なんだ・・・ルナか」

勢い余って扉から飛び出して来たシンに、
ルナマリアは室外へと弾き出される。

「なんだとは何よ!
 射撃訓練付き合ってくれって言ってたのはシンじゃない」

「・・ごめん・・・

 オーブから来た変な野郎にキラが連れて行かれてさ・・・
 それで戻って来たのかと思ったからつい」

「―――オーブの?あのアレックスって人?」

「うん。すぐ戻るって言ってたのに遅いから気になって」

「そう」

「なぁルナ、俺、すげー気になるんだよ!
 キラだって凄くイヤそうにしてたのに・・・
 俺、俺やっぱり探してくる!」

「シン!ちょっと落ち着いて!・・・とにかく、隊長に報告するのよ」



「―――その必要はない」


突如響いた声の方へ、2人は弾かれたように顔を向けた。


「今の話、詳しく聞かせてもらおう」


白服に身を包んだ上官はアイスブルーの目を静かに燃やしていた。










*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  











「ねぇ、キラはいつからそんな悪い子になっちゃったの?」



「アスラン・・・小さな頃からずっと君が好きだった。
 でも、僕達はこのまま一緒にいてもきっと・・・お互い、駄目になる」



「イザークならいいのか?」


昏い翳りを帯びた眼は、獲物を前に輝きを増す。



「イザーク、は暗闇にうずくまっていた僕に光をくれたんだ。
 沢山の人を傷つけた僕に仕方がなかったって笑ってくれて・・・

 つらい時は我慢しなくてもいいって事を教えてくれた」

「そんなの俺だって何百回でも言ってやる!!」


「違う、違うんだアスラン!
 うまく言えないけど・・・イザークは僕を明るい場所に導いてくれる。
 彼が僕を好きだと言っくれる度に、
 僕も自分を好きになれる気がするんだ」




「ふーん・・・


 イザークは知ってるのか?俺と、お前の事をさ」




ほんの数歩を、殊更ゆっくりとした歩調でその距離を縮める。







「っ、やめ・・・!」


覆い被さるように抱きすくめられ、キラは身を硬くして抵抗した。



「俺達は昔、こうして数えきれない程に抱き合ってた事、とかさ。
 ・・・キラはここが好きだったよね」


耳朶を舐めあげられ、肌が粟立つ。



「っ、やめてアスラン!」



必死で身をよじって哀願する姿が、深い場所を撫であげて刺激する。


見慣れた赤服を一気に組み敷き、
膝の間に脚を割り入れると襟元のホックを乱暴に外した。




甘やかに香るそこに咲く、緋色の華。



アスランはココア色の髪を後ろから掴み、
強く引いて上向かせると細い顎を捉えて覗きこんだ。



「・・・もうこんな悪戯させちゃってるの?」



少しずつ吐息が近づく気配に、キラの全身を戦慄が走る。



イヤ、だ。


イヤだ!

イヤだイヤだ!




唇にも、

肌にも、

まだイザークの温もりが残っている気さえするのに。




「イヤだ――――!!」



「貴様あぁぁぁぁぁ・・・っ!!」




怒声とともに、鈍い音が部屋中に響き渡る。









わかったのは、ふっと身体が軽くなった事だけ。






視界いっぱいに映る――――――白い、影・・・・





キラを背に庇うようにしたイザークが全身から闘気を揺らめかせたその時、

「イザーク!」

再度振り下ろそうとした拳は飛び込んできたディアッカに掴まれた。


「気持ちはわかるけどさ・・・もうやめとけって」



「・・・っ・・くそっ!」



部屋の隅で頬を押さえるかつての戦友の姿に、
言葉にならない苦いものが胸に込み上げる。


掴まれた腕を乱暴に取り返すと、
イザークはキラの傍らに膝をついた。





イ・・・ザー、・・・ク・・。




それは、声に出せたかわからない程に小さなつぶやき。





愛しい相手の名を呼ぶと言う行為は、
呪縛からの解放に似ている。





「・・・キラ・・・すまなかった。お前を一人にするべきじゃなかった」




イザークの優しい抱擁に、凍り付いていた全身が解けていく。





全てを委ねてしまいたくなる恋人の腕の中、

甘く髪を撫でられ、




―――キラはそっと目を閉じた。









*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

■PHASE-9■へ続く


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