気のみ気のまま

気のみ気のまま

アマノガワ-エピローグ



確か、2ヶ月前もそうだった。

あのときは、蝉時雨がすごかったけど、

今はもう、トンボがちらほら見えているくらいだ。

その、透き通った秋の空を仰ぎながら、

僕は、あの白い建物を目指す。

そしてこれからも、こうして通うんだろう。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


あの後僕らは、
延期された、"本物の"花火大会へと行った。
だから、人も多かったし、ちゃんと花火も上がった。
唇がかすれて、上がらない、なんてこともなかった。

彼女は、また、あの緑色の浴衣を着てきてくれた。
制服姿が一番似合う、といつも自負しているが、

うん、こっちもこっちでいいや。

花火が終盤に迫ると、
僕らの目の前には"本物の"ナイアガラが現れた。

名前は『今田製薬提供ナイアガラ』だった。

あまりのギャップに、
僕は彼女と目を合わせて笑いあった。

端から順繰りに点火してゆき、
火花を湖に落とす、ナイアガラ。
色こそ黄色一色だったものの、
それはそれで、とても綺麗だった。

と、ふと、
今田製薬提供ナイアガラに横顔を照らされている彼女が、こう言った。

『ねぇ、見て・・・・・・・』

ゆっくりとした口調で、彼女は言葉をつなげてゆく。

『あんなに星がいっぱい・・・・・』

彼女の意図することは、すぐに理解できた。

『まるで、さ・・・・・』

『あの時みたいだね・・・・・』

僕はただ、コクッと、頷いた。
暗がりで、彼女にそれが見えたかどうか分からないけど、
きっと、分かってくれたと思う。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
僕は今、自転車をこいでいる。

あの、白い建物を目指して。

『織姫』を目指して。


そして、今日、ついに僕は、こう書くつもりだ。

"拝啓 織姫様☆"

"来年の7月7日、また『天の川』を見に、あの丘まで行きましょう。"

"15.9光年先から from 彦星"

こう、書くつもりだ。

わざと、背表紙の黄色い、ホントに小さなノートに書いて。

わざと、彼女のカバンに、そっと。


もう、怖くないから。

すれ違いなんて、もう、起こるはずがないから。





"次に見るのは、『アマノガワ』じゃなくて『天の川』だから。"




© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: