あい・らぶ・いんそん

告白6



やがてイヌクが戻ってきた。

「かなり傷が深かったようだが、手術は成功した。数日は集中治療室で

様子を診る事になりそうだ。」

スジョンに説明しながら、イヌクは苦悩の色を隠せなかった。

「本当にすまない・・」

手術が成功したときき、スジョンは少しほっとして聞いた。

「どうして・・こんな事に・・」

疲れ切ったスジョンの様子に、イヌクの心も痛んだ。

「ソフィアの仕業だ・・。俺のせいで、おまえにもジェミンにも苦しい

思いをさせた・・・すまない・・。」

「彼女もあなたを愛していたんだわ」

「ああ・・そうかも知れない。だが、俺にとっては淋しさを紛らわすた

めの・・それだけの女だった・・。」

「それなのに何故・・・」

「あいつとは場末の酒場で知り合った。バリを離れ、ロンドンで仕事を

始め1年半前にニューヨークに来たとき、仕事が次々にうまくいって周

りの誰もがちやほやし始めた。作り笑いも嫌になって、一人で場末の飲

み屋で飲むのが俺の息抜きだった。ある晩酔いつぶれた俺を介抱してく

れたのがソフィアだった。」

イヌクは冷蔵庫から水を取り出して、一口飲んだ。

「気がついたとき、俺はあいつの部屋にいた。いつかおまえがバリで住

んでいたような粗末な部屋だった。」

スジョンは黙って聞いていた。

「俺が目を覚さますと、あいつは俺をのぞき込んでいた。その胸元に、

おまえがいつもしていたようなクロスのペンダントが揺れていた・・・そし

て俺は・・・。」

とぎれとぎれになるイヌクの言葉に、スジョンは目を閉じた。

「あいつもまた、貧しい女だった。心のどこかで、おまえにしてあげた

かったことを、変わりにしていたのかも知れないな・・。」

気を取り直すように、水を飲んだ。

(ソフィアを愛せたら、俺もすくわれたのだろうか・・)

イヌクの心にふとそんな思いがよぎった。

スジョンは、自分たちが過ごした幸せな時間に、苦しみ続けていたイヌ

クの存在があった事を、改めて思い知らされたのだった。

そのとき電話が鳴った。

「本人は眠っていますが、少しだけ会えますよ」

看護婦からの電話だった。


二人は急いで集中治療室に向かった。

ジェミンが酸素吸入器をつけたまま静かに眠っていた。

スジョンはそっと額に手をやり、

「いたかったでしょ?」

とささやきかけた。

イヌクは小さな声で

「何故俺なんかのために・・・」

と言って、言葉を詰まらせた。


何事もなかったかのように静かに眠るジェミンの顔が、二人の胸に切な

さを増していった。

そのとき一人の医師が近づき

「ミスター・カン、お話が・・」

と言って、二人は出ていった。

スジョンは許された時間までジェミンの手を取りじっと見つめていた。

そして改めて、ジェミンへの深い愛を確認したスジョンだった。

「あなたがいなくなったら、私も生きていけない・・・。」

そう思うと、涙が自然と伝って落ちた。


それから2日間ジェミンは目覚めることがなく、スジョンは3日間控え

室にイヌクといた。

「たまには少し横になったらどうだ・・」

イヌクはジェミンに後ろめたさを感じつつ、スジョンと共に過ごせる時間

と、スジョンの世話をやける事が嬉しかった。

そのとき電話が鳴って、ジェミンが気付いたと知らせがきた。

二人は慌ててジェミンのもとに駆けつけると

「やぁ・・」

と力なくジェミンが笑っていた。

「あなた・・」

スジョンはジェミンに抱きついて泣いた

「あっいたぁ」

スジョンは驚いて

「ごめんなさい・・」

と離れると、

「壊すなよ・・」

力のない声で、笑って言った。

イヌクはほっと肩をなでおろした。

「明日から一般病棟に移りますよ・・。」

看護婦の言葉が嬉しかった。

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