あい・らぶ・いんそん

告白8



スジョンは、イヌクに背を向けて泣いていた。

「どうして・・こんなひどいことを・・」

素肌の肩を震わせて泣いているスジョンを、イヌクが後ろから抱き寄せた。

「すまない・・・ゆるしてくれ。」

スジョンはもう抵抗をする気力もなく、抱き寄せられたまま泣いていた。

もう・・・あの人のもとには帰れない・・。

あの幸せだった時間を、取り戻す事ができない・・。

あの人の笑顔には・・・もう逢えない・・。

ジェミンへの愛を誓った心が大きく傷つき、そこからすべてが流れ出そう

としていた。あれほど愛してくれているジェミンに嘘をついて生きること

は、スジョンにも辛い選択だった。

しかし、ジェミンとの別れを思うと胸が張り裂けそうに、なお苦しい。

絶望の中に堕ちていく運命をただ恨んで泣いた。

「私・・・初めてあなたを憎いと・・思ったわ。」

スジョンがイヌクに言った。

イヌクは静かに目を閉じると、涙が次々に頬を流れた。

静かな沈黙の時間が流れていった。

そして、愛さずにはいられなかった気持ちを、スジョンに伝えたいと

イヌクは心に決めた。

「スジョン・・俺を憎んでも良い・・だから俺を忘れないでくれ」

そう言うと、イヌクはスジョンを強く抱きしめて泣いた。

スジョンは、驚いてイヌクの顔を見た。

イヌクもスジョンの顔をじっと見つめて、スジョンの涙をぬぐいながら

静かな声で言った。

「俺の命がもうじき・・・尽きるそうだ」

スジョンは目を大きく見開いて、イヌクを見つめた。

今イヌクが言った言葉の意味が理解できず、心の中で何度も繰り返していた。

「い・・いま、なんて言ったの?」

イヌクは涙を浮かべながら

「末期の肝臓ガンだ・・・だからもう、おまえ達の邪魔はしたくてもで

きないよ・・・心配するな」

と、言った。

「俺の命がもうじき尽きると知った時、無性におまえに会いたくなった。

そんなときニューヨークに来て、逢えるはずのないおまえにまた偶然に会え

た。神様からのプレゼントだと思ったよ。」

イヌクは天井をじっと見つめながら話をしていた。

スジョンに腕枕をするように、片腕にスジョンを抱きかかえていた。

「俺は、もう故郷にも帰れない。誰も知らないこの地で誰にも看取られ

ず逝くのかと思うと、急に恐くなった。こんな事なら、おまえに憎まれ

ても良いからおれのそばにいて欲しかった・・・・だから、おまえをこ

れほど苦しめてしまった・・。許してくれ。その変わり、もう二度とおまえ

達の前に現れないから・・・約束をするから・・・俺を許してくれ。そし

て・・・俺を・・・忘れないでくれ。おまえの憎しみの中にでも、そっとし

まっておいてくれ・・おれの生きた証を、おまえの想い出の中にしまってお

いてくれ・・」

イヌクは言葉を詰まらせながら、スジョンに想いを伝えた。

今までで初めて見るイヌクの悲しく切ない姿だった。

いつも強い意志を持って生きてきたイヌクの、弱い姿をスジョンは初め

て見た。

孤独の中で死と向き合い、誰にも助けを求められず苦しみもがいてきた

真実をスジョンは知らされた。

「ジェミンがこんな事になって・・俺は恐ろしかった。あいつに何か

あったらおまえが一人になってしまうと・・それが恐ろしかった・・。

消えるのは俺だけで良い・・。」

スジョンはイヌクの愛の深さを知った。しかし、その愛の深さを知れば

知るほど、その愛にこたえられない苦しみが募るばかりだった。

これも運命なのだろうか・・・スジョンはイヌクの心を思うと、抱いた

憎しみが静かに哀れみに変わっていくのだった。

「スジョン・・・お願いだ。今夜だけでいい・・俺の腕の中で眠って

くれないか・・明日になったら、おまえを今度こそ手放すよ。だから・・・

今夜だけで良い・・俺のそばにいて欲しい」

そう言ってイヌクはスジョンを抱きしめた。

スジョンは泣いた。

3人に与えられた運命を呪って泣いた。

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