あい・らぶ・いんそん

別離10



ドアのチャイムを押してもいっこうに出てこないスジョンを、具合が

悪く眠っているのかと思い、急いで鍵を開けて入った。

しかし、静まり返った部屋にはすでにスジョンの姿はなかった。

ジェミンは胸騒ぎを覚え、すぐにジュリに電話をした。

「スジョンなら来てないわよ・・いったいどうしたの?」

「何か言っていなかったか・・。」

「別に・・ただ・・」

「ただ?ただ何なんだ」

ジェミンが苛立って聞いた。

「この前スジョンが倒れたって連絡したでしょ・・・あのとき、スジョン

は妊娠しているのかなって・・・そう思ったの」

ジェミンは昨夜のスジョンの様子を思い出していた。

わざと明るく振る舞っていた、スジョンの笑顔が浮かぶ・・・。

電話をきって、思わずソファに座り込んだ。

スジョンと過ごした幸せな時間が、遠くなっていく。

どれだけ自分がスジョンを求めていたか・・・どれほど愛していたか・・・

スジョンを失いかけてなお、いっそう愛の深さを思うのだった。

イヌクの苦しみが、ジェミンの心に渦巻いた。

『おまえも・・ほんとうに苦しんだんだな』

両手で顔を覆い涙をぬぐう。

そのときテーブルの上に置いてある手紙に気がついた。

それはスジョンからの手紙だった。



愛するジェミンさん

何も聞かないで、私を行かせてください。

もうこれ以上あなたを苦しめたくないのです。

だから・・お願いです、私を探さないでください。

私はもう、あなたに愛される資格がない女です。

あなたをたくさん苦しめてしまって、ほんとうにごめんない。

ただ、私が愛した人はあなただけだと言うことを忘れないで・・。

私もあなたという素敵な人に愛されたことは一生忘れません。

体には気をつけて・・・さようなら

        スジョン



「馬鹿な・・・」

ジェミンは一瞬呆然としたが、思わず我に返りサムに電話をかけ、藁に

もすがる思いでスジョンの行方を探して欲しいと頼んだ。

ジェミンは、いつになく明るかった昨夜のスジョンを思い出していた。

あのときすでに心に決めていたに違いないスジョンの心を思うと、

ジェミンは胸が張り裂けそうに悲しかった。

何故・・気付いてやれなかった・・・ジェミンは思わず自分自身を

責め立てた。

もう苦しむことも苦しめることもたくさんだと言って、自ら生きる

可能性を棄てて旅立ったイヌクの心を思い、イヌクとの過ちを一人

胸にしまい込んで苦しみ続けていたスジョンを思うと、何も知らず

にいた自分自身を恨んだ。

二人の想い出がつまったこの部屋を、スジョンはどんな気持ちで後

にしたのだろうか。

スジョンの頑な決心を感じたジェミンだった。

暫くするとサムから連絡が入った。ジェミンは祈るように電話をとると、

スジョンがバリに向かうチケットを買ったらしいと言うことだった。

ジェミンは急いで空港に向かった。


スジョンは搭乗待合室で、アナウンスを待っていた。

誰にも知られず・・一人で生きていくためにはバリで生きて行くしか

ないとスジョンは思っていた。

『俺とおまえの家だ・・』

イヌクの言葉が思い出され、そこで母子ひっそり暮らしていこうと

覚悟を決めていた。

やがてアナウンスがかかり、スジョンは搭乗ゲートに向かった。

あのときはイヌクと一緒だった・・・しかし、あのときは最後に

ジェミンの姿を求めながら、心を残してバリに向かった。

そして・・・多くの苦しみが始まった。

今はイヌクの忘れ形見と共にバリに向かう・・・今度は絶対に振り

返らない・・心を残せばまた不幸を招くから・・・スジョンはそう

思っていた。

『もう・・振り向かない』・・スジョンは、そっとおなかをなでて

「行こうね」と言った。

すべてを捨てて、イヌクの生きた証を大切に育てていくことが、今の

自分の運命だと信じたかった。

溢れそうになる涙をこらえ、振り返ることなくゆっくりとゲートに

向かう。

思わずジェミンが自分を呼んでいるのではないかと、振り返りたく

なる心と闘いながら、ただまっすぐ前を見つめて進んでいった。

泣くまいと思ってもこみ上げてくる涙を、うつむいて隠すスジョンだった。

愛再び~最終回へ


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