In limited space and time

砂漠の偶然


向き合い、語る。

「お前は何故、ここに居るんだ」
緑もない。水もない。
一面は砂。
何人もの旅人を、見送ってきたのだろう。
表面に、幾つも皺が刻まれているのが分かる。

「お前は何故、ここに来たんだ」
目的もない。意味もない。
手には一振りの剣。
幾許の血を、拭ってきたのだろう。
鋭い眼差しが、獣のように光っている。

偶然だ。俺達がここで、出会ったことは。

血が好きな訳ではない。
それが自分の宿命だと、分かってはいても。
ただ、斬らなくてはならなかった。
自分の存在意義は、そこにしかなかった。
戦って戦って…その先に何がある?
そんなことは、どうでもよかった。
問おう。
「お前は、俺に斬られたいか?」

好んでここに居る訳ではない。
ここが私の生まれた場所であるだけだ。
自ら動くことは出来ない。
だが、外の世界を見るつもりもない。
留まり続けて…その先に何がある?
考えようとも、思わなかった。
逆に問おう。
「お前は、私を斬りたいのか?」

理由なんかない。分かっている。

「俺達は、まるで違うな」
俺は、死にたがっている。
お前は、生きたがっている。
「私達は、まるで違うな」
私は、水を求める。
お前は、血を求める。

それでも、何処か似ている気がする。

「斬る」
「そうか」
短い言葉を交わす。
理屈じゃない。
出会ったという偶然。
「俺は」
「もういい」
「…」

しばらく見つめた後、剣を横に払った。
ほんの数秒の沈黙を過ぎ
老獪な樹木は、倒れていった。
薙いだ剣を鞘に納め、青年は呟いた。
恐らく、樹木には届かなかっただろう。
音は、全て砂が飲み込んでいった。

「また会おう」と
言ったつもりだった。
今度は偶然ではなく。
この、砂の上で。


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: