アルバム売りさん

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7人の魔女


「妃は恐ろしい人だわ。美しい白雪姫に嫉妬して、私達魔女にむごい魔法ばかりをさせる。
 重い病で苦しめたり、ヒキガエルのように醜い姿に変えてしまったり。それでも足りずに、姫の声を、宝石を、視力を奪い、ついには笑顔まで奪ってしまった。お気の毒な白雪姫。
 王に仕える私達七人の魔女は、王と妃に逆らってはいけないんですって。こんな魔法はやめましょうと、他の魔女達にお願いしても、聞き入れてもらえない。
 今日もまた、妃に城に呼び出されているけれど、今度は何をさせられるのかしら」 
 若い魔女はため息をついて立ち上がり、マントをひきずるようにして城へ向かいました。
 城に七人の魔女がそろうと、妃が艶やかに赤いりんごを高く掲げて、こう言いました。
「おまえたち、一人ひとつずつ、このりんごに、永遠にとけない呪いをかけなさい」
 七つの呪いのかかったりんごを、姫に食べさせるというのです。
 一番年長けた魔女が進み出て、りんごを受け取りました。口の中で呪文をとなえ、隣の魔女にそれを渡します。りんごは、魔女達に次々回され、最後に若い魔女が呪文をとなえました。妃は、その手からりんごをむしりとり、高笑いして姫の寝室へと立ち去りました。
 残された魔女達は、無言でうつむいていました。誰もが、自分の魔法が呼ぶ災いをおそれているようでした。やがて、若い魔女が口を開きました。
「みなさま、一体どんな魔法をかけたのですか」
 一番年長けた魔女が、言いにくそうに答えました。
「私は、姫があまりに哀れで……。姫の重い病が治る呪文を、となえました」
 別の魔女が顔を上げて言いました。
「私は、姫が以前のような美しい姿になるように、呪文をとなえました」
 すると、残りの魔女達も、顔を見合わせ口々に言いました。
「コスモスのように可憐な声が戻るように」「きれいな宝石に囲まれ幸せに暮らせるように」「美しい瞳に再び光が宿るように」「皆を幸福にする明るい笑顔が戻るように」
 六人の魔女が、手をとり合ってそう言うのを、若い魔女は、青い顔で聞いていました。
「私は……」若い魔女は、消え入るような声で言いました。
「私は、みなさまのかけた魔法とは、逆のことが起こるようにと、呪文をとなえました」
 七つのビロードのマントが、窓から差し込む夕暮れの光に、黒く妖しく輝いていました。


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