鎌倉日記(極上生活のすすめ)

百回の整形手術


コンスタンスさんは、幼児の頃、両親の留守中に火事に会い、どうにか救助される。
 急死に一生に得た。しかし、生きているのが、不思議なほど、顔から足さきまで、全身に大火傷を負う。原型をとどめることがない。
 両親は嘆き、悲しみ、娘をもとの姿にもどすために、世界中の病院を探しまわる。
 地元のラジオ局の援助もあり、整形外科の名医シェイファー医師と巡りあう。
 臀部の皮膚を顔の頬に移植し、耳の軟骨と胸の骨を抜き取り、鼻をつくる。
 コンスタンスは大学に進むが、過去のいじめなどから、男性が近づいてきても、受け入れようとはしない。
 シェイファー医師は、左手の整形を行う。
 これでエンゲージリングを、指につけられる。と微笑み、コンスタンスはその後、良きパートナーと結婚する。

 彼女の変わりゆく姿の映像を見ながら、手塚治虫の「どろろ」を、思い出していた。
 親が悪魔に魂を売ったために、芋虫のような体に生まれてしまった「どろろ」が妖怪など魑魅魍魎を倒しながら、ひとつづつ、自分の体を取り戻していくというストーリーだった。
 ひとつの妖怪を倒すと、手がはえてきたり、目が見えるようになったり、という話だった。
 この漫画のラストシーンがとても好きだった。
 自分の体をひとつづつ取り戻した「どろろ」が、最後の妖怪を倒したあとに、自分のものとして得たものは、「涙」だった。
 一筋の涙。
 「どろろ」の顔に、涙がゆっくりと流れ落ちてくるシーンは今でも、覚えている。
人のもつ、やさしさや愛、心の感情の機微を、これほど、うまく表現した漫画はなかった。

 残念なことに、「どろろ」は、人権や障害者差別の問題が指摘され、手塚治虫のリバイバル本として復刻されることはない。


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