亜矢羽ノ国

061+パンドラの箱



隠すように置いてあった小さな箱。

僕がそれを見つけた時。

君は大きな声で「触らないで。」と言った。


僕は。

それをとても不思議に思ったのだけれど。

君を愛しているから。

何も聞かなかった。

そっと。

その場所に戻した。



そんなことがあってからも。

その箱は捨てられることはなく。

君の部屋の隅にずっと置いてあった。


もう。

隠すこともせずに。

ずっと同じ場所に置いてあった。


僕は。

その箱をなるべく見ないようにしていたけど。

それでも。

やっぱり人間だから。

どうしても気になってしまう。

中身を見たくなってしまう。


それが君を裏切ることになるとわかっていても。


そして。

結局僕はその箱のふたを開いてしまう。


中から出てきたのは。

多分。昔の男たちとの思い出。

そして。

僕との思い出。


楽しい思い出も。

辛い思い出も。

全部一緒に詰め込んであった。


僕は。

言葉を失ってしまった。

どうすれば良いのかがわからない。


「いつまでも。

 過去を引きずるなよ。」と言えばいいのか。


それとも。

見なかったことに…。



……。

もう遅かった。


君は、僕が箱を開いているのを見てしまった。

手に持っていたカップを落とし。

瞳からは大量の涙を滴らせた。


そして。

とても悲痛そうな小さな声で。

「さようなら…。さようなら。」

と繰り返し。

何も持たずに部屋から出て行ってしまった。


部屋に残されたのは。

嫌に静かな空気と。

僕。

そして箱。



やっぱり。

この箱は開いちゃいけないものだったんだね。

でも。

僕はその誘惑に勝てなかった。



それで。

きっと君を傷つけてしまったんだね。

もう。

取り戻すことの出来ない。

大切な君。


僕は。

この箱を開いたことで多くのモノを失った。

この手の中に残ったものはあるのだろうか。



それは。

君との思い出。

そして、君の他の男との思い出だけ。

これは。

何か意味のあることだったのだろうか。


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