一緒に成長する育児

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子供にテレビは危険



 乳幼児に対するテレビの悪影響として視力低下を心配する親は多いが、言葉の遅れが生じたり、時に対人関係に障害が出ることは、ほとんど認識されていない。最近そのような乳幼児の例が相次いで報告されており、一部の小児科医の間で危機感が増大している。今回提言を行ったのは、こうした事実を小児科医に広く周知し、注意を喚起する必要があると思ったからだ。

長時間テレビ視聴で発語遅れ
 同委員会では生後17~19カ月の幼児1900人を対象に、テレビの視聴時間と発達状況について親にアンケート調査を行い、回答を解析した。その結果、テレビを4時間以上見る子供は、4時間未満の子供に比べて有意語発現が遅れる率が1.3倍高かった。また、1日に8時間以上テレビがついている家庭で4時間以上テレビを見る子供は、1日にテレビがついているのが8時間未満の家庭で4時間未満しかテレビを見ない子供に比べ、その率が2倍になるという結果になった。さらに観察研究から、テレビがついていると親の声かけが減ることも分かった。

 テレビの視聴時間と発達の遅れの関連性を客観的に示したのは、今回が初めてだろう。しかし、米国小児科学会では1999年に、映像メディアには子供の健康障害を引き起こす危険性があることを指摘しており、「小児科医は、親たちが2歳以下の子供にテレビを見せないよう働きかけるべきである」と勧告している。わが国での対応は急務であった。

 単に言葉の遅れだけが問題ではない。毎日一人でテレビを長時間視聴させたことが原因で、対人関係の障害を示したと考えられる幼児が相当数いる。そのような幼児には、「視線を合わせない」「言葉を話さない」「人に関心を持たない」「呼びかけても反応しない」「無表情」などの症状が出る。「いずれ普通に育つはず」という意見もありそうだが、実はこのような症状の回復には時間がかかるし、回復しない場合さえある。「危険」と強い表現にした理由は、ここにある。

 もちろん、テレビにはメリットもある。親子で見れば、一緒に歌ったり踊ったり、子供の質問に答えるなどコミュニケーションのきっかけになり、共感が得られる。

 しかし、テレビはあくまで一方的な刺激であり、親からの声かけがなければ子供も発話しない。言語能力や対人コミュニケーション能力が未熟なままにならないためにも、テレビを見せるときは、親が声をかけながら一緒に見ることが重要なのである。

親への正しいアドバイスを
 今の世の中、育児が難しくなっている。その背景には、核家族化が進んで幼児の面倒を見る人が少なくなったこと、育児の伝承がなく子供との遊び方が分からない親が増えていること、集合住宅で子供を遊ばせる場所が減ったことなどがある。また多忙を理由に、テレビに子供を任せて自分の時間を作ろうとする親も最近増えているようである。

 とはいえ、親がテレビに頼る傾向は一朝一夕には変えがたい。だからこそ小児科医には、今回の提言を育児についての正しいアドバイスに生かすようお願いしたい。

 具体的には、言葉遅れの子供の親に対して、テレビを長時間見せるのをやめるか、できるだけ子供に語りかけるようアドバイスしてほしい。実際、テレビ視聴を減らして会話を積極的にするよう指導すると、症状が治るケースが見られる。

 強い口調の提言にしたせいか、雑誌や新聞など多くのメディアで取り上げられたが、今のところ目立った反論は聞かない。危機感を多くの小児科医や親自身に届けたいと強く願った当初の目的は、達成できたと考えている。


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