クロは頭のいい犬でした。
駐車場に車がなくなると、お客さんがいないことを知っていて『遊ぼう~』とドアをノックします。
クロの大きくなったオッパイをモミモミしながら、仕事の愚痴を聞いてもらいました。
クロは難しい顔をして真剣に聞いてくれていました。
ハードな仕事の疲れがどれだけ癒されたか知れません。
雪は降り続き、一面の銀世界。
四日市方面では大渋滞で大変な事になっていたらしい、そんな年でした。
こんな雪の中でクロはひとりぽっちで始めての子供を生み、どうしているのか気が気ではありませんでした。
クロの棲家は、その時まだ私達は知りませんでした。
知っているのはドラム缶を運んでくれたお客さんだけです。
とうとう朝になってもご飯を食べに来ませんでした。
お乳もあげなきゃいけないし、お産でお腹もペコペコになっているはずなのに・・・
みんな気になって、入れ替わり立ち代り外を見に行きます。
私達はクロが来たらすぐに出せるように、栄養のある食事を用意して待っていました。
夜になってやっと、やつれ果てたクロが姿を見せました。
お腹はペチャンコになっていましたが、乳首はビロ~ンと伸びていました。
クロ偉かったね。
ちゃんと一人でお母さんになれたんだね。
あわててご飯をあげましたが、崖の方が気になって仕方ない様子。
お腹は空いているけど子供達が凍えないか心配で、ご飯と崖の方と交互に見ながら地団太を踏んで食べられないでいました。
とうとう意を決したかのように子供達の所に、飛ぶようにして帰って行ってしまいました。
これではいかんと私達はクロのご飯をビニール袋に入れてスタンバイすることにしました。
クロが来たらお客さんなんか放ったらかして、すぐにそれを渡します。
クロはナイロン袋をくわえて一目散に子供の元に帰って行きます。
オッパイを吸われながら、ナイロン袋を破ってご飯を食べているクロの姿が目に浮かぶようで幸せな気持ちになりました。
何日くらいたった頃だったでしょうか。
まだ雪が残っている朝でした。
クロが私に子供を見せてやるから、ついて来いと誘いに来ました。
ホントですよ~。
ちゃんと言うんですよ。
わかる人にはわかりますよね。
犬が喋るってこと・・・