クロの棲家に行く途中、川の向こう側の藪にやっと大人になったばかりのネコが寒そうに座っていました。
捨てられて野良ネコになったんでしょうか、人間を信用していない目をしていました。
出てくる時にとっさにポケットに突っ込んできたパンを袋から出して投げてあげました。
どうせクロはパンが嫌いだし、絶対に食べないからね。
そしたらクロが「く~ん、くんく~ん(ダメ~、やっちゃダメ。クロ以外に誰にもあげちゃイヤだ)」と言わんばかりに、すごいヤキモチを妬いて、パンを取り上げてどこかに捨ててきてしまいました。
「もう~、クロはパンなんて食べないくせに、あげればいいやん」と言いましたが、なんだか可笑しくてね。
ヤキモチを妬くって事は、それだけ知能が高いからなんですね。
やっぱりクロは頭がいいんやなぁと、妙なところで感心したのでした。
何度かクロの棲家に通っていた晴れたある日、日向ぼっこをしているクロの回りに子犬が4匹いました。
あれ~、この子どこにいたの?
クロがドラム缶の側に横穴がある事を教えてくれました。
なんとクロはそこで、もう一匹を別に育てていたのです。
その子は他の子達と比べると明らかに小さく、ひ弱そうでした。
クロは他の子供達と一緒に育てたら、この子は生きられないと判断して別に育てる事にしたようです。
そして精一杯、お乳を飲ませていたんでしょうね。
でもこの寒い中、子供だけにするのは賭けのようなものだったのではないでしょうか。
それでもクロは、どの子も見捨てる訳にはいかなかったのでしょう。
細心の注意を払って、身を削って育てたんでしょう。
クロ、えらいねぇ、アンタは人間の親より偉いよ、絶対。
クロはちょっと誇らしげに、それでも私が子犬を触らないように目を光らせていました。
ある日、クロ宅を訪問すると石の上に貼り紙がありました。
「この犬は誰かが飼っておられるのでしょうか?よろしければ2匹程、お譲り頂きたいのです。明日、朝9時に来ます。」と名刺を添えてありました。
このままにしておくわけにはいかないと、クロのファンクラブ(?)の仲間達と話し合っていたところです。
野犬狩りにあったら大変です。
でも、その時は刻々と近づいて来ていたのです。