必殺必中仕猫屋稼業

第6話

細い道を幾度か曲がり坂道を登ると、そこにマーティンの家はひっそりと建っていた。
レンガ造りの古びたたたずまいではあったが、小さな庭には可愛らしい赤い花が咲き乱れている。
だがそんなひなびた雰囲気を壊すかのように、大きな錠前が玄関のドアにとりつけられ、訪問者の入室を冷たく拒んでいた。
「いやだわ叔父さん、こんな大きな鍵をかけて。あたしが小さい頃にはこんなのついていなかったのに。」
ノックをしても、いっこうに返事がない・・・。
「留守なの?レインが今日つく事は知らせてあるんでしょう。」
「もちろんよ。1週間前にちゃんと電話でつたえたわ。散歩にでもでてるのかしら・・・?」
心細そうに、レインがあたりを見回す。
どこかで野良犬の遠吠えがが聞こえ、日が落ち、あたりは急速に暗くなっていく。
「そうだわ!ヘンリーさんのお店にでも行ってるのかもしれない。」
ヘンリーの店というのは、村に一軒だけある酒場だという。
マーティンは時折その店に出かけ、スコッチを飲むのが何よりも楽しみらしい。
武志が運んできた二人の荷物を、外から見えない玄関の陰に押し込むと、3人はヘンリーの店に向かった。
かつては村の目抜き通りだと思われる、中央に枯れた噴水のある十字路の角にヘンリーの店はあった。
あたりはいつのまにか、すっかり暗くなってしまっている。
店の小さな窓から電灯の光が漏れ営業しているのがわかる。
チリン・・・。
鈴の音をさせ、レインが店のドアを押し3人は中へ入った。
薄暗く狭い店内に客は数えるほどしかいなかった。
カウンターに1人、隅の4人がけのテーブルに3人。
いずれも島の年寄りたちで、長い漁師生活を証明するかのように、すっかり潮焼けして赤黒くなった顔に深い皺が刻まれていた。
武志たちが入ってくると、老人たちは会話をやめ、彼らをふりかえった。
レインと視線が合うと笑みを送ってきたが、それが作り笑いであることは、たちまち警戒の色へと変わったことですぐにわかった。
カウンターの中では、白髪の50歳がらみの痩身の男がグラスを磨いていた。
「お久しぶりです。ヘンリーさん、うちの叔父さん来なかった?」
レインが近寄ると、ヘンリーと呼ばれた男は顔を上げ、彼女に鈍い視線を投げかけた。
「やあ、レインちゃんかい?大きくなったね。おかえり。叔父さんは今日はきてないな。」
レインとは顔見知りのうえ、10年ぶりの帰郷なのに、
ヘンリーも、老人たちも、その表情がどこかぎこちない・・・。
おそらく3人が港に到着したニュースが、たちまちのうちに島中を駆け巡ったにちがいない。
「また、泊りがけで猟にでもでかけたんじゃないのかい。この4、5日姿をみかけないからね。」
老人たちも、遠巻きに眺めているだけで何も言葉をかけてこない。
「このままじゃ、家にも入れないじゃない。あたし野宿なんていやよ!」
ヘレンが愚痴をこぼす。
「とにかく武志を先に宿屋に案内するわ、すぐこの先だから。」
ぶつぶつと文句を言うヘレンをなだめつつ、3人はやどやへ向かった。
だがそこに到着すると、レインは呆然と立ち尽くした。
そこには、猫の額ほどの空き地があるだけで、宿屋の影すらなかった。


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