avec Toots 1

toots gif

tootsandt1999 with Mr.Toots Thielemans
at Avatar Studio, New York1999

Toots Thielemans

私はジャズのことはよく知らない。
ミュージシャンの名前も、曲目も、余り知らない。
それは、私がブリティッシュロックを中心に聞いて育ったせいもある。
それでも、お気に入りのミュージシャンは何人がいて、NYのブルーノートに足を運ぶことも少なくない。

トゥーツ・シールマンスはジャズの世界では「ハーモニカの神様」と呼ばれていると聞いた。クインシージョーンズ、ビル.エヴァンス、ビリージョエル…トゥーツを必要とすミュージシャンをあげたら切りがない。きっと、ジャズに詳しい人ならば、トゥーツがどんなに偉大なミュージシャンであるか、私よりも数千倍、詳しいはずである。

私は隠れ(?)小野リサのファンで、彼女のCDの一つ「NAMORADA」にトゥーツが参加していて、その音色の美しさに泣きそうになったくらいだった。おまけに、子供の頃から慣れ親しんで見ていた“セサミストリート”のテーマソングを書いたのも、このトゥーツだと聞いた時は、その作者と、大人になって一緒に仕事をすることになろうとは、「人生わからないものだ」とまで思った。

私はピアニストの辛島文雄氏とトゥーツのデュオアルバム“Rencontre”のアートディレクションと写真を担当するために、レコーディングから立ち会っていた。
すでにリハーサルが始まっていたスタジオのミキシングルームに入ると、あのハーモニカの音が聞こえて来た。
私は、まだ誰も耳にすることが出来ない、生まれて来たばかりの「音」を聞きながら、不思議な感覚に包まれていた。その音を「生」で耳にできる幸せを感じた。

toots playing
(c) T.F. All Rights Reseved

私はトゥーツの詳しいことは何も知らないに等しい。ただ、私が会ったトゥーツの印象は、優しくて、その大きなお腹と(!)同じくらい、大きな心を持ったおじさん(本当はおじいさん?)という感じだった。この人は、生まれて一度くらい怒ったことがあるんだろうか?と思わせるくらい、暖かくて、優しくて、大きな人だと思った。それがそのまま、ハーモニカの音に出ている。時には、本当に泣きたくなるような「音」が聞こえてくる。
トゥーツ自身、自分でハーモニカを吹きながら泣いてしまうこともあるんだよ、と言う。
そして、私の片言のフランス語にニコニコしてくれた。(トゥーツはベルギー出身)

こんな話を聞いた。ベルギーからアメリカに渡った若いトゥーツは当時、ギタリストだった。その時のアルバム・ジャケットを見て、まだ若かったジョンレノンはトゥーツに憧れて同じギターを買ったという。ある日、そのことをジョンレノン自身から打ち明けられて、とても感激したそうである。

私はジョンレノンが好きなので、その話は、セサミストリートの話より私を驚かせ、同時に、それも全然不思議じゃないなと思い、ますますトゥーツの音に惹かれるようになった。

Toots' Harmonica
(C)T.F All Rights Reserved

レコーディング中、私が驚いたのは、その美しいハーモニカの音だけではなかった。
とにかく、トゥーツおじさんはよく食べる。
スタジオに用意されたクッキーやドーナッツを、1曲演奏するごとに食べていた。
おまけに、ランチでも出前の中華をペロリと平らげ、レコーディング終了後の打ち上げでは、私が食べきれなかった「平目」まできれいに平らげてしまわれた。
コレステロールがなんだ、食事制限がなんだ、といった感じだった。
それで、私はトゥーツが新鮮な空気を吸いにスタジオの外に出ている間に、お気に入りのクッキーやドーナッツと一緒に、トゥーツオリジナルのハーモニカを一緒に写真に納めた。

1922年4月29日生まれのトゥーツは、今年79歳。(2001年当時)
いつまでも、ずっと、大好きなドーナッツを食べながら、ハーモニカを吹きづつけていて欲しいと、心から思う。

トゥーツのマネージャーDirkから、トゥーツのオフィシャル・ウェブサイトができたよと、メールが届いたので、興味のあるかたは是非ご覧になってください。(1999)

Toots Thielemans Official Website

Toots:レコーディングスナップ
toots beer

レコーディングの合間の昼食。
「カンパーイ!」

レコーディングの合間の事。
レコーディングスタッフの一人が、今日は“セサミストリート”が大好きな自分の娘の誕生日なので娘に、あのテーマソングを聞かせてあげてくれませんかとTootsに言うと、Tootsは快く引き受け、電話口でハーモニカで、あのテーマソングを彼女の為に吹いてあげていた。もちろん、電話の向こうの女の子は、びっくりするやら、感激するやらで、大変な喜びようだったそうだけど、Tootsのナマのハーモニカを一人占めできるなんて、なんて素敵なバースディープレゼントなんでしょうね。

そんなふうに、Tootsは気さくで、暖かくて、とても優しい。

写真撮影の時には、「この服でいいかな?髪もいいかな?」と聞かれ、「とってもいいよ」と答えると、「変な格好で写ると、ワイフから叱られるんだ」とはにかむように言うTootsは本当に愛妻家なんだなあと思った。

レコーディングスタジオにて

Toots in Studio 1

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