本丸より (31)

sense of loss

わたし

マンハッタンは小さな島で
ブルックリンブリッジ
マンハッタンブリッジ
ウィリアムズボロウブリッジ
クイーンズボロウブリッジ
トライボロウブリッジ
ジョージワシントンブリッジ
の6つの橋と
リンカーントンネル
ホーランドトンネル
ミッドタウントンネル
の3つのトンネルだけで
マンハタンが本当は小さな島だと忘れることができる。

別の言い方をすると
その9つの接点を閉鎖してしまえば
この島はいつでもただの小さな孤島になれる。

あの事件の日にそうなったように。

*

とても大切なものを失った時
本当に目の前が真っ暗になってしまう。
きっと
そんな感覚を知っている人は多いはず。
とても大切なもの。
たとえば
恋を失った時。
大切な人を失った時。
大切だった人の気持ちを失った時。
愛する犬を死なせてしまった時。

この世が終わりを告げた訳ではなく、
たったひとつのことがだめになっただけなのに、
いっそ
この世が終わってしまうほうがずっと小さなことのように
思ってしまう。

時に人は
『明日の朝、いっそ目が覚めなければいいのに』と
そんな思いを抱えたまま眠りにつくことがあるもの。

それくらい、つらいことが
生きていると、どういうわけか
起こってしまう。

だけど明日はやってきて、人はやっぱり目を覚ます。

だけどね

必ずあると思っている明日は
本当はもうないかもしれない。
望むと望まざるとに関わらず
人は見えていると勘違いしているだけで
本当は明日のこともわからなければ
一瞬先のことだって見えていない。

そう思うと
絶望はもっと深くなるけれども
明日、もしかしたら
とってもいいことが起こることだってあるかもしれない。
だれれども、
時としては、もう二度と目覚めないほうが
ずっと幸せなような気になってしまうことがあるもの。

さようならさえ言えないまま消えてしまいたくなる。

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