第２話 夕焼け その５
『 おかえりなさい！ 』第２話 夕焼け ～ Abendröte ～ その５
中学時代、私はおとなしい性格だったので友達は少ない方だった。
特に人見知りが激しいと言うわけでもなかったが内気であったのは否めない。
近所に男の子や女の子の友達はいたけれど、小さい頃から父に剣道を習っていたせいであまり遊ぶ機会もなかった。
当然、中学の部活は剣道だった。
それでも家の道場で稽古をするよりは部活でするほうが全然楽しいと思っていた。
なぜなら部活よりも父の稽古の方がはるかに厳しく、また部活だと先輩や後輩などたくさんの人と一緒にできるからだ。
剣道部の部活が終わると真っ直ぐ家に帰る毎日だった。
「ただいま、雛苺。」
「おかえりなさい、巴。」
私たちは仲の良い友達であり仲の良い姉妹のようだった
ひとつだけ困ったのは雛苺の存在が両親に知られてはいけないということだった。
特に父は厳しい人であったので、なおさら注意が必要だった。
だから私が学校に行っている間はかばんの中でお留守番をしてもらうことにした。
その分、私が学校から帰ってくると、ずっと部屋の中で一緒にいた。
両親には部屋で勉強をしているとだけ言っておけば邪魔されることがなかった。
そういう意味ではありがたい両親だったと思う。
雛苺には見つかるといけないからと良く言い聞かせた。
雛苺は慣れているのかそのことには一度も不満を言わなかった。
泣き虫だけど素直なとてもいい子だった。
たぶん理由はひとつだと思う。私に捨てられるのが嫌なのだ。
学校に行く時は本当に悲しい顔をする。でも帰ってくると元気に「お帰りなさい」といってくれる。
最初の頃は雛苺にせがまれてよくゼンマイを巻いた。人形だから不思議ではなかった。
ゼンマイを巻いているから雛苺は動くんだと思っていた。
雛苺はある時、勉強中の私にお母さんが夜食の差し入れを持ってきた時があった。
雛苺は最初隠れてじーっとそれを見ていたが、やがてこう言った。
「ねぇ巴、ヒナも食べたいの…。」
それまで喋ったりもするけど雛苺は人形なんだと思っていた。
「えっ雛苺!? 食べられるの？」
「うん。」
ヒナは笑顔でそう答えた。その時に私は少し怖くなったけど雛苺に対する考え方を変えた。
雛苺はただのお人形じゃないんだわ。雛苺は雛苺なんだ。
雛苺に夜食のおにぎりをひとつ渡すとおいしそうにそれをほおばった。
まるで本当の人間の子供のように食べる雛苺。
もしかしたらずっとおなかを空かせていたのかもしれない。
お人形だから平気みたいなそぶりを見せていただけかもしれない。
それ以来、私はいつもおやつや夜食を二人で分けて食べた。
なんでも半分こ。それが私たちのルール。
おやつ中でも雛苺の一番のお気に入りは苺大福だった。
それだけは全部ゆずってあげようとした。でも雛苺は、
「ヒナ全部食べたいけど、巴と半分こするって決めたから駄目なの！」
とそう言ってきかなかった。
遊ぶのはいつも私の部屋で、お絵かきをしたりかくれんぼしたり、時には歌を一緒に歌ったりした。
そんな毎日が続いたある日の夕方のことだった。
to be continue
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