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紫色の月光
第四十四話「マーティオ」
自覚し始めたのは何時ごろだっただろうか。
少なくとも、初めてバルギルドに会った時は『まだ』だったということは覚えている。今にして思えば、あの男はドレッドの子供として生まれておきながら最終兵器の所持者として選ばれた自分を視察する為にわざわざ京都まで来たのだろう。
しかし、自覚し始めたのが何時だったかは忘れても、自分はエリックたちと共に戦い、それが当たり前だと思っていたのも事実だ。
それゆえに、この島が出現した時は焦った。
恐らくは自分の視界を通してこちら側の行動を全て把握した上での行動だろうが、自分にはそれが『早く帰って来い』と催促されているようにも思えた。
いや、実際そういう意味だったのだろう。
そして可能ならば一階の時点で不意打ちを食らわせ、五朗と共に全員を一網打尽。海と空からの攻撃で完全に彼等を無力と化させる計画だったのだろう。
しかし実際に塔の中に足を踏み入れてから、ちょっとしたアイデアが頭に思い浮かんだ。
エリックたちが驚愕に震える顔を見てみたい、と。
土壇場での裏切り。
予想しなかった急展開。
これだ。
この場面を是非とも見てみたくなった。
突然の提案ではあるが、一度決めたからにはやりぬきたい。
それに自分はマジシャン希望。マジシャンは人を騙してナンボの商売なのだ。
(くくくっ……俺は何をしてぇんだろうなぁ)
とても大事にしたい気持ちがある。
エリックも、狂夜も、フェイトも、ネオンも、Drピートやヘルガも、彼等と過ごしたこの20年間の思い出。その全てが彼の宝物だ。
少しオーバーに表現するなら、それこそ『愛してる』と言ってもいい。
しかし同時にそれらを壊してしまいたい気持ちも、自分の中にあった事を理解してしまった。
(ああ、親父よ。邪神ドレッド。こうなることも予想済みで俺を作り出したのか?)
それならば、
(これは恨むべきなのか、それともこのなんともいえない快楽を味わうことに感謝するべきなのか……どっちにすればいい?)
その問いかけに答えは帰ってこない。
だから青年は答えを求めようと思う。
友を殺しに、友を裏切りに、友を捨てに。
心のどこかでは『それは駄目なんだ』と言い放つが、もう身体は止まらない。
何故なら、『そうしなければならない』と『理解』してしまったからだ。
ならば、この心の中に芽生えた『矛盾』を解決する手段は、一つしかない。
「マーティオ……何で、何で……」
「何で裏切ったのか、って?」
目の前で予想以上に驚愕に震えている親友の姿を目にしつつ、マーティオは答えた。
「俺が此処にいるからだ。ドレッドの子供として生まれてしまった以上、俺には最終兵器の所持者である貴様等の抹殺という命を拒否することは出来ない」
冷徹に言い放つ。
あくまで『敵』として、エリックたちと相対しようというのだ。
「さあ、遠慮なくこの俺の首を刈り取りな! 俺様はソレに対し、全力で貴様等を殺すことで答えてやる!」
言い終えると同時、聞いた事もないような呪文を呟き始めるマーティオ。
直後、彼の身体が震え始め、背中から二つの突起物が肉を突き破らん勢いで暴れだす!
「薄々感づいてるだろ? この俺の正体を!」
突起物がマーティオの背中の肉を突き破り、その正体を現す。
まるで蝙蝠のような漆黒の翼。
以前、自由女神での戦いでも見たその翼は、決してサイズのレベル4ではなく、『マーティオそのもの』だったのだ。
「アナザー・リーサルウェポン、リーサル・ウィング! これがドレッドから受け継がれた邪神の翼、そしてマーティオという男の本当の姿!」
漆黒の翼が羽ばたき始める。
ソレと同時、マーティオの足が宙に浮き始めた。
大鎌を持った状態で宙に浮くその姿は、最早死神としか言いようがない。しかも黒ローブまで着てるのだから尚更だ。
(味方にいればこれ以上頼りになる奴はそうはいない……だが、敵に回せばこれほど恐ろしい奴はいない!)
マーティオは良くも悪くも差別をしない男である。
大人だろうが子供だろうが関係なく、男だろうが女だろうが知ったことではないのだ。それは長年付き合ってきた仲だからこそ良くわかる。
(マーティオは絶対に手加減しない。あいつは……本気で殺しに来る!)
それ故に、手加減なんて考えれば首から上が一瞬で切り落とされてしまう。
しかし、
(勝てるのか? 倒せるのか? 殺せるのか? あの男を……)
マーティオ・セカンド・ベルセリオン。
エリック・サーファイス最大の友にして、最高の理解者。同時に一番頼りになる相棒である。
「どうした、さっきは威勢が良かったぞ。どうして三人揃って仕掛けてこない?」
何処か嘲笑うようにしてマーティオが言う。
だが、それに反応して真っ先に前に出た存在があった。
フェイトだ。
彼女はガンを片手に持ちながらも、それを構えもせずにただ数歩歩いただけである。
しかし、その表情には何故か笑みが含まれていた。
「何時からだ? 何時からお前は邪神の子供としての『記憶』が生まれた?」
だが、目に『笑み』なんて言葉は含まれていない。
ただ純粋な問いかけ故に、まだ何色にも染まっていないのだ。マーティオの答え次第で怒りにも悲しみにも、喜びにだってなりえるのだから。
するとマーティオは、その問いかけに答え始める。
「正直なところ……自分でも記憶しちゃあいねぇ。少なくとも、あのイシュ戦が終わるまでは至って『マーティオ』でいられたと思う」
だが、
「何時からか、俺が『俺であって俺でなくなる』ような訳のわからない感覚に陥ることが何度か起こり始めた。まるで絵の具に違う色を混ぜ始めるみたいな感じで、な」
そしてある日、彼は『覚醒した』。
元々あった『マーティオ』と言う色が、『ドレッド・チルドレン』と言う色に変色されてしまったのだ。
「だが、勘違いしちゃあいけねぇな」
そう言うと、マーティオは再び喋りだす。
「俺も、貴様等が前の階で会ったルージュ、サイバット、五朗。そしてこの後に続くソルドレイクにバルギルドも皆『元々のあるべき姿』になっただけなんだ。断じて操られているとか、そんな類じゃねぇ」
ひょいひょい、と手招きをしながらも、彼は続ける。
「遠慮なく殺しに来な。俺も遠慮なく行くからよぉ」
その言葉で何を思ったのか、フェイトは苦笑を漏らした。
だが次の瞬間。彼女はガンを構える。
「じゃあ、お言葉にグレイトに甘えるとしようか」
発砲と跳躍は同時だった。
跳躍と同時にガンの銃口から吐き出された銃弾は、先程までマーティオがいた地点に命中。
ソレに対し跳躍と同時に宙に身を投げたマーティオは、『先輩』がいる地点をただ睨んでいた。まるで獲物を捕らえるかのような鋭く、獰猛な目で、だ。
「そうだ、もっと来い!」
全身を黒の双翼で包み込んだマーティオは、そのまま三人のいる地点に落下。
全身を防御しているのであろうこの姿は、どう見ても黒い蛹にしか見えなかった。
だが、格好はどうあっても『脅威』が迫っているのは事実。
故にそれに向けて対処を施すのは当たり前である。
「エリック、風で奴をぶっ飛ばせ! マーティオは本気で来るぞ!」
狂夜が叫ぶが、エリックは動かない。
いや、動けなかったのだ。
別に恐怖が身体を支配したのではない。もっと単純な理由である。
「無理だ……! 俺は、戦えない」
戦いたく、ない。
それがこの友の裏切りに対しての、エリックの答えだった。
「何――――?」
そしてその判断に疑問をぶつけたのは狂夜でもなければフェイトでもなく、裏切った張本人、マーティオだった。
「どういうつもりだ、エリック。俺を殺せないのであれば、この先にいるバルギルドには勝てねーぞ」
「だが、それでも……俺はお前を敵として見れない」
冷ややかで、それでいて冷徹な目で睨まれてもその答えは変わらない。
何故なら、
「俺にとって、キョーヤも先輩も……お前だって大事な仲間で、友達なんだよ。何で俺たちが友達同士で殺しあわなけりゃならねーんだよ」
判らない。
「俺には、さっぱりわかんねぇ……判りたくもねーよ」
そうかい、と呟いてからマーティオは落下の勢いを減速。ゆっくりと床に足を着いてから、エリックと向き合う。
「だけど、判りたくなくても判ってもらわないと困るんだよ!」
「!?」
直後。
強烈な右拳がエリックの頬に炸裂。
その勢いで宙へと飛ばされた彼は、そのまま重力に逆らわずに吹っ飛ばされる。
「エリック!?」
「マーティオ!?」
狂夜とフェイトの二人は床に叩きつけられたエリックに反応し、思わず我に帰る。
身体に動きがあったのはほぼ同時だ。
「どうした!? どうしたどうしたどうした!? 一緒に過ごした時期が長かっただけに天下の泥棒も怯むか!? そこで止まっているんじゃ、貴様等此処で全員血祭りだぜ!」
だが、そんな二人の視線を無理矢理引き込んだのは他ならぬマーティオだった。
彼は再び背中の双翼を大きく広げると、サイズを構えてからその場で再び宣言する。
「さあ、俺を殺してみろ!」
自らの喉に親指を突きつけつつ宣言するその姿は、明らかな挑発だ。
だがそれ故に理解出来ない。
そもそもにして、彼が本気でこちらを殺す気があるのならさっさと殺しにかかればいい。わざわざエリックの発言に一々反応する必要はないはずなのだ。
そうすれば巨大な一撃で、少なくとも三人全員に何かしらのダメージを与えることは出来たはずである。
いや、そもそもにしてネオンを完全に殺す事だって、彼には出来たはずだ。
それをしなかった、という事は。
「まさか……お前……」
自分から殺される道に回ろうというのか。
出来るだけこちらを挑発して、最終的には自分が死んで終わりにする。そんな道を初めから望んでいたというのか。
「どーしたキョーヤぁ? 俺はサイバットやルージュ、挙句にはイシュ幹部よりもしぶといぜぇ。俺を殺すなら、全力でかかってくるしかねぇぞ?」
その時。
狂夜とフェイト、そして殴られた頬に痛みを残しつつも立ち上がったエリックは見た。
「もう、止まれないんだよ……」
笑みを浮かべながらも、涙を流す青の死神の姿を、彼等は見逃さなかった。
始めてあった時、無口で怖い、という印象を受けたのがマーティオ、と名づけられた少年だった。
まだ同じ年であるはずのエリックから見ても彼の無愛想さは相当な物で、先輩や翔太郎の存在がなければマトモに彼との交流なんて出来もしなかった物である。下手をすれば、一緒に住んでるはずなのに一日中言葉を交わさなかったこともあった。
だが何時からだろう。
そんな近づきがたい彼の事を、自信を持って『友達』と言えるようになったのは。
そして何時からなのだろうか。
そんな関係が崩れ去る予兆が起こり始めたのは。
「マーティオ……お前、最初から死ぬ気だったのか?」
エリックが呟くその疑問に、マーティオは答えない。
しかし見せたことも無い涙を流しながらこちらを睨むその顔を見れば、誰の目から見ても答えは明らかだった。
「くだらねぇ事言ってる場合じゃねーぜ。さっきも言ったが、俺はサイバットやルージュ、五朗等とは訳が違う。ウィングとして覚醒した以上、貴様等には『死』しか待っていない!」
両手に握るサイズを構えなおすと同時、その曲刃が大きく振り上げられる。
直後、刃に異変が起こりだした。
「どうした、さっさと殺さないのなら貴様等全員お陀仏だぞ! 俺が手加減して、わざと負けてくれる優しいお兄さんに見えるかあああああああああああああああああああああああああああ!!!?」
外の景色が丸わかりになっている四階の作り。
その理由は只一つ。この階の住人であるマーティオがサイズのレベル4、月の光を吸収しての高出力化を使用するためだ。
「何故手を出さない!? チャージをしている今なら俺を撃てるかもしれんぞ、斬り捨てることができるかも知れんぞ、槍で胴体をぶち抜けるかもしれんぞ!? 今がチャンスだぞ!? どうしたあああああああああああああああああああああああああああああ!!?」
マーティオの叫びは確かに三人に届いている。
しかし、届いているからこそ何も出来ない。
だってそうだろう。
(あのマーティオが涙すら流してるってのに……そんなの卑怯じゃねぇか!)
何が卑怯なのか。
涙を流したマーティオか。
流させたバルギルド等か。
一番の友達を殺さなければならない自分たちの運命か。
否、それら全てひっくるめて卑怯だと思う。
「どうしろってんだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
エリックが叫ぶと同時、彼の親友は答えた。
振り上げた光の凶器を振り下ろしつつ、だ。
「俺を、殺せ――――それしか手は無い」
その瞬間。
光が彼等の世界を覆いつくした。
「おい、エリック。こっちだ」
初めて彼と二人で行動したのは、エリックが山での生活をし始めてから数ヶ月経ってからだった。
しかも散歩で山の中をさ迷っていたら偶然洞窟を発見して、そのまま探索していたところ、出口がわからなくなって洞窟の中に閉じ込められてしまったという状況である。
エリック少年もこの時ばかりは運がない、と思ったものだった。
目の前にいる自分と同じくらいの年の少年は、正直とても苦手だった。
何故なら彼は正しく『傍若無人』、『弱肉強食』をそのまま人間にしたよう少年で、何時も情け無用の攻撃的な発言と行動が目立っていたからだった。
そしてソレは同時に、エリックに『恐怖心』という物を植え付けていたのである。
(あー、なんで入っちゃったのかなー……きょーや君や『せんぱい』がいればまだいいのに)
護身用のナイフを片手にずかずかと前に進むマーティオ少年を見つつ、エリックはそう思った。
普段から苦手意識が着いてしまっているためか、禄に喋ったことも無く、喋ったとしても挨拶程度で終わる関係が続いているのでは、そう思ってもある意味では仕方が無いことである。
と、そんな時だ。
ぐきゅるるるる~っ
「……………………」
何の前触れも無く鳴り響いた情けない音。
直後に訪れた少年たちの重い沈黙を破ったのはマーティオだった。
「……ちっ、腹が減ったならそう言え」
「……ごめん」
本当に申し訳なく思ったので、此処は素直に謝っておいた。
すると目の前にいる目つきの悪い少年はどうしたのかというと、突然自分のポケットに手を突っ込み、ごそごそと何かを取り出した。
「ほら」
素っ気無く差し出された掌には、携帯食のカロリーメイトがあった。
思わず呆気に取られていると、彼は少し苛立った様で、口をあける。
「いらんのなら俺が食うぞ。数には限りがあるからな」
「い、いや! 食べる、食べるよ!」
少し慌てながらもカロリーメイトを手に取ると、申し訳なさそうにマーティオを見る。
「何だよ。じろじろと」
「い、いや。案外優しいんだなー、って思って」
それは素直な感想だった。
何に対しても自分優先のはずのこの少年が、まさか限りがある食べ物を与えてくれるとは思っても見なかったのである。
すると、目の前の少年は急に目を丸くしたかと思いきや、
「くっ……はっはっはっはっは! そーか、案外優しいか俺は!」
どういうわけかその場で大笑いし始めた。
「ど、どうしたのいきなり?」
ソレを見てぽかん、とするのはやっぱりエリックである。
彼には何故マーティオが此処まで大笑いするのかまるで理解できなかったのだ。いや、もしこの場に狂夜や先輩もいればきっと同じように首を傾げるに違いない。この男が此処まで大笑いするところなんて見たことが無いのだ。
「いや何、まさかそんな事言われる日が来るとは思いもしなかったんでな。なんか新鮮な気分だぜ」
すると、マーティオはエリックの背中をばしん、と叩いた。
「おーし、この際この洞窟にある宝でもぶんどってこようぜ! なんかその気になってきた!」
「え!? 宝とかあるの!?」
「あるかもしれねーし、無いかも知れねー。だから面白いんじゃねーか。おら、とっとと行くぞ」
そう言われた後、まだカロリーメイトを食べ終えていないエリックは慌ててそれを口の中に放り込んでから彼の後に続く。
「滅茶苦茶だ!」
「何、オメーもこのスリルを味わえば判るようになる。何気に山もいい探検場所なんだよな」
初めて見せた年相応の笑顔。
本当に只の子供にしか見えない笑みを見たその瞬間。
思わずエリックも笑みを浮かべながら歩き始めていた。
結局の話、洞窟の中で宝なんてものは見つけられなかった。
しかも洞窟から出られた後、心配をかけたという事で先輩に酷く叱られたという、散々な結果に終わったのである。
いや、それでもエリックの中では大きな出来事だった。
何故なら、この何処か危なくて凶暴な少年と、これからは上手くやっていけそうだという希望を見出したからである。
あれから14年経った今、二人は対峙していた。
14年前、彼と初めて友達になれそうだと思ったあの瞬間。
その時から作り上げたこの14年間が、まるで夢だったようにすら思える光景だった。
「ぐっ……くっ……!」
吹き飛ばされた痛みなんて、それが夢だと思える悲しみに比べたら何だというのだろうか。
故にエリックは立ち上がる。
夢だと思って終わらせたくなんて無い。
本当にそれだけの気持ちで立ち上がったのだ。
「マーティオ、俺はこの14年間、お前やキョーヤ、先輩や皆と一緒に色んな事を覚えて、色んな事をやって、色んな事を悲しんだ」
それは間違いなく彼にとって大切な宝物だ。
そして同時に、目の前にいる男にとっても同じ事なのだという『確信』があった。
「俺は……そいつ等を手放す気は無い」
「なら俺を殺すかない。もし、このまま貴様等が流されるままに俺に殺されたのなら、正に全部失うことになるのだからな」
マーティオはあくまで冷徹に言い放つ。
しかし、そんな彼にエリックは問いかける。
「…………本当にソレでいいのか?」
「何?」
思わぬ問いかけに、反射的に疑問の声を出す。
「だってそうだろ? 俺は確かに貪欲に生きてきた。このままお前に殺されたら、確かに俺は全部失うことになる。俺はそんなの嫌だ」
だけど、
「それは、お前も同じじゃないのか?」
彼は自分以上に貪欲な男だ。
生きることに貪欲で、許せないことには全力でぶつかっていって、何時でも自分の道を自分で突っ走っていくことしか考えていない。
「……終わりにしようぜ。涙まで流してくれるんなら、お前にとって俺たちは――――」
「言うな」
言いかけたその言葉を、マーティオは遮る。
「貴様が何を言おうが、俺がネオンを倒し、貴様等を殺そうとしているのは事実。そして俺が何を考えたがっているのかは、もう俺自身ですら分からん」
頭のネジがぶっ飛んでいるとは正しくこのことだろう。
徐々に身体がいう事を聞かなくなり、そして頭の中に『自分以外の何かが』が住み着き始めている。簡単に言葉にするなら、自分が自分でなくなってしまうような感覚が彼を覆いつくそうとしているのだ。
「エリック、俺は誰だ?」
問われた問題はこの上なく簡単な問いかけだった。
故に、エリックは迷わず返答する。
「マーティオ・S・ベルセリオンだ。世界で一番最低で、一番最高の俺の相棒だ」
「そうだろう。俺はマーティオだ。だから、せめてマーティオとして死なせてくれ」
サイズの柄を床に着け、無防備な姿を曝け出す。
「俺は、俺以外になるのは嫌だ。だから、完全に俺じゃなくなる前にやるんだ。その為なら、俺は『ウィング』を受け入れることだって出来る」
「……!」
「だからお前は『ウィング』を殺せばいい。そうすれば『マーティオ』は死なない」
だがその直後、マーティオの背中から飛び出している巨大な黒の双翼が突然暴れ始める。
じたばたと暴れつつ、周囲の床や壁を粉砕していくその姿はまるでもがく魚のような光景だった。
「あぐっ……!」
マーティオの背中から、痛みが身体全身に電気ショックの如く伝わっていく。
それは自分の中にある『ドレッドの子供』としての部分が、彼の決定を認めていない証拠だった。
「やれ、エリック。チャンスは今しかねーぞ……っ」
痛みを堪えつつも、床に蹲るマーティオ。
しかし、そんな彼の願望を目の前に焼き付けても、エリックはランスの矛先を構えることが出来ない。
「やれ! 此処まで来て躊躇う気か!?」
鋭い眼光がエリックに飛ばされる。
「貴様にはまだ宇宙人の他にも、ドレッドの一件に決着を付けなきゃあならないんだぞ!」
「ドレッドとの、決着……?」
そうだ、とマーティオは続ける。
「お前も現代の最終兵器の所持者として選ばれた男なら、その使命を果たして見せろ! 何のための一撃必殺仕様のランスだ!? それとも、この俺の意思を無駄にしてまでオドオドとしているつもりか!?」
「!」
「俺は、お前になら殺されてもいいと思ったんだぞ!? 他ならぬお前の手でなら、死んでもいいって思っちまったんだぞ!」
やっぱりこの男は卑怯だ。
そんな事言われたら、どうしようもないじゃないか。
「やれ! 今すぐ俺をぶち抜け!」
「ぐっ、く……あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
気付いた時には咆哮しかあげていなかった。
この時、エリックは自分が何をしていたのかは正確に覚えていない。
だが、ここで自分が何か『大切な物』を壊してしまうのだ、という自覚だけはあった。
「そうだ、それでいい――――」
突撃してきた必殺の矛先を前にして、マーティオに恐怖は無かった。
寧ろ望んでいたことなのだ。喜ばしい気持ちが強い。
とは言え、此処で自分の全てが終わりなのだと思えば、悔しい気持ちが無いといえば嘘になる。
「ウィング、もう少し俺と付き合え……後少しの辛抱だからな」
暴れ狂う漆黒の双翼。
それを宥めるようにしてマーティオは呟く。
そうだ、あと少し。
すぐにでも友の矛先は『核』を貫き、一撃必殺の名の下に自分を亡き者とするだろう。そうすればこの痛みから解放される。
だからあと少しの辛抱なのだ。
本当にそのはずだったのだ。
だが、正にランスの必殺の矛先がマーティオを貫こうとしたその時。
「――――――嫌だ」
少女の呟きが、彼等の世界に響き渡った。
「!?」
エリックが完全に自我を取り戻したのと、マーティオの意識が完全にこちらの世界に引き戻されたのはほぼ同時だった。
そしてまた、マーティオの一撃によって気絶していた狂夜とフェイトが目覚めたのも同時だった。
そして彼等四人は同時に見た。
「あ――――――?」
マーティオの正面。
そこで仁王立ちになってランスの矛先をその身に受けた少女の姿を。
「あ、あ、あ、―――――」
震える小指を懸命に動かしつつ、身代わりとなってその身を貫かれた少女――――ネオンは力の限り呟いた。
「死んだら……嫌だぁ……」
ランスに貫かれた腹部から、床に一滴、また一滴と彼女の血が落ちていく。
だが少女はそんな痛みよりも、大好きな『彼』を失う痛みの方が、ずっと嫌だったのだ。
「お前……少しは俺の気持ちを考えやがれ……!」
思わず歯を食いしばるマーティオ。
しかし、そんな彼の言葉に対して少女は弱弱しく呟いた。
「……それなら、私の気持ちも考えて――――?」
直後。
白の少女が微笑みながら、二回目の暗転を迎えた。
四階の真上に位置する五階では、静かに両者が間合いを取っていた。
理由は簡単、下手な接近戦は出来ないと知っているからだ。
(あのオッサンはよぉ、ナックルが無くても鉄くらいなら平気でぶっ潰す奴だからなァ。下手に近づいてでもしてみたらそれこそお陀仏だぜェ)
今のネルソンはジョン・ハイマン刑事の遺品である拳銃を装備しているが、自分の強固な骨はあのような拳銃では傷一つ付けられやしない。
つまり、ネルソンが自分に勝つためには最低でも接近戦に持ち込む必要性があるのだ。
(なら、そうしないようにしてやるぜェ!)
ごりごり、と口の中で何かを動かし始めるソルドレイク。
までガムでも噛んでるかのような光景だったのだが、ネルソンの記憶が正しければ彼はガムなんて口に入れてないはずだ。
「ぷっ!」
だが、その答えはこの瞬間に明らかになった。
ソルドレイクが本当にガムでも吐き出すかのように口の中から『何か』を飛ばしてきたのだ。
「うお、ばっちぃ!」
超人的反射神経で、弾丸の如く飛んできた『それ』を回避するネルソン。
だがその直後。
背後から轟音が響いた。
「何!?」
思わず振り返ってみると、先程までボロボロだったヘリコプターが炎上しているではないか。
「ひゃははははははははっ! 大事な部下を火葬しといてやったぜェ、有難く思えよォ!」
その笑い声が聞こえた瞬間、ネルソンは自分でも怒りを感じたことを自覚してしまった。
果たして今だ嘗て、此処まで誰かに対して怒りを覚えたことがあっただろうか。
いや、ない。
この40年近い人生の中で、此処まで怒ったことはない。
奴は、自分の大事な部下である彼の事を笑いながら蹴散らしてしまったのだ。
絶対に許すことはできない。
「貴様、やっちゃいけないことをやったな……!」
「はァ? 何を――――」
直後、ソルドレイクの頬にネルソンの強烈な拳が突き刺さった。
それは余りにも一瞬過ぎる出来事だった。
(何だ、何時の間に此処まで移動してきやがった!?)
距離はかなり置いておいたはずだ。
そして時間にしても数秒も経っていないはず。
「ちぃっ!」
殴られた衝撃が身体に響くも、体勢を立て直す。
そして彼はその目で確認する。
ネルソンの脅威のスピードの正体を、だ。
「ローラースケートォ!? 何の冗談だ、さっきそんなん履いてなかったじゃねーかァ!」
すると、ネルソンはそんなソルドレイクに対して一言呟いた。
「喧しい、黙ってろ」
こんこん、とローラースケート――――秘密兵器その3、ハイパーシューズを慣らすと、ネルソンは自身の拳をぶつけ、叫んだ。
「へんしいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいん!! ぽりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいす、めえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええんっ!!!!」
眩い光に包まれた直後、ネルソンは立ち止まらずにソルドレイクへと直行。
怒りに身を任せた超高速の拳を、発光しながらも彼に向け叩き込む。
はずだった。
「あまーい」
「!?」
発光が止むと同時、変身を終えたポリスマンは見た。
ソルドレイクの胸部と腹部を突き破って現れた無数の骨が、突き出された拳を絡め取るようにして受け止めていたのである。
「正義の味方が変身途中で殴りかかっちゃあいけねーなぁ。俺がペナルティを与えてやるよぉ!」
「!?」
直後、ソルドレイクの右の白刃がポリスマンに振り下ろされた。。
続く
次回予告
エリック「強大なる翼、ウィングの覚醒と同時にマーティオは巨大な咆哮をあげ、強固なる骨、ボーンの覚醒と同時にソルドレイクは巨大な憎しみを吐き出し始める!」
ネルソン「だが、俺は負けん! 来いソルドレイク。ジョンの分まで俺が戦い抜いてみせる!」
狂夜「次回、『降臨、バルギルド!』」
エリック「マーティオ、あの無愛想少女の気持ちを無駄にする気か!?」
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