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前任者が、あまりにも偉大すぎた場合、 その後を引き継ぐことになった人物は、本当に大変だと思う。 上手くやって当たり前、普通にやったのでは物足りない、 ましてや、ちょっとしくじれば、世間から非難囂々の可能性大なのだから。 ローマ帝国でいえば、カエサルの後継者オクタビアヌス(後のアウグストゥス)。 しかし、彼は前任者を超えるカリスマとなってしまった希有な存在。 そして、その後継者・ティベリウスは、庶民から手厳しく批判される立場に。 が、前任者の残した負の部分を批判覚悟で清算した実行力に、私は敬意を払う。さらに、帝国に最大の範図をもたらしたトライアヌスの後継者・ハドリアヌス。彼の皇帝としてのスタートは、決して順風満帆とは言えない、とても厳しいもの。その苦境を克服し、その後、治世の三分の二を費やして帝国視察を敢行、安全保障体制の再構築を成し遂げた実力は、本当にスゴ過ぎる。著者の塩野さんは、そんなハドリアヌスの治世を、本巻から次巻途中までかけて描いている。これは、トライアヌスの治世を描いたページ数を遙かに上回るもの。彼女は、トライアヌスよりもハドリアヌスに、より魅力を感じているのだろう。それは、そこに記された文章を読んでいても、確実に伝わってくる。なぜなら、トライアヌスについて記した前巻よりも、ハドリアヌスについて記した本巻の方が、読んでいて圧倒的に面白いからだ。塩野さん自身が、気分が乗って書いているのがよく分かる。 ***さて、私が今巻で一番印象に残った言葉は、次のもの。 君主ないしリーダーのモラルと、個人のモラルはちがうのである。 一私人ならば、誠実、正直、実直、清廉は、立派に徳でありえる。 だが、公人となると、しかも公人のうちでも最高責任者となると、 これらの徳を守りきれるとはかぎらない。(p.65)公人たること、最高責任者たることは、決して一筋縄ではいかないもののようである。
2012.04.30
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『告白』は、原作を読み、映画も見た。 原作はとても良い作品で、映画も原作を損ねることのない秀作だった。 『境遇』は、TVでドラマの後半部を少しだけ見た。 しかし、原作はまだ読んでいない。 そして、本著。 女性二人の友情を描くという設定は、『境遇』に似ているのかも。 だが、読み始めると、何だか鬱陶しく、重たい雰囲気。 こういう感じ、私は大の苦手である。 ***同じ高校に通う二人の少女、敦子と由紀は、昔からの親友ということになっている。しかし実際には、それぞれに思うところがあり、結構微妙なバランスの上に成り立つ関係。そして、二年生になってからは、転校生・紫織も加えた三人組で行動することが多かった。その紫織が、ある日二人に、友人の自殺について語り始める。死について語る紫織の表情に、羨望の眼差しを向ける敦子と由紀。そして、二人はそれぞれに、実際の死に接し、死について悟りたいという欲望を高めていく。そんなことから、敦子は特別養護老人ホーム『ブルーシャトー』へ、由紀は読み聞かせボランティア『小鳩会』へと、足を向けることになる。死に接する機会を求め、夏休みを別々の場所で過ごすことになった二人の少女。この辺りまで読み進めると、俄然面白くなってきて、ページを捲るスピードもアップ。最終的に、登場人物が色んな形で繋がっていく構成も面白い。本作も、とてもよく出来た作品だった。ただ、読後に残るものは、『告白』同様、あまりいいもんじゃない。本著巻末の「解説」を書かれた星真一さんによるとありきたりのハッピーエンドで終わらせないのが、湊さんの凄いところなんだそうだが、私個人としては、気持ちよく終わってくれる方が、ずっと嬉しい。
2012.04.30
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「自分が頑張れば何とかなる」 かつては、そんな風に考えていた私だが、 ある時、職場でセクション・リーダーを任され、 「物事、それだけでは、全く前に進まない」ということに気付かされた。 世の中、自分だけの力では、どうにもならないことが何と多いことか…… 他人の力に頼ることなしには、どんな物事も決して成し遂げることは出来ない。 それ以来、私のメインテーマは、いかにして他の人たちの力を獲得・結集するか、 「自力」で解決しようとするのではなく、「他力」をいかに活用するかになった。ある日、新刊書の中の一冊に、本著のタイトルを見つけた。著者の水月さんは、『高学歴ワーキングプア』の著者だった。そんな人が書いた本だから、きっと日頃から私が感じているような事柄について、色んな示唆を与えてくれる内容のものに違いないと、本屋に足を運んでみた。結構頑張って、あちこち何軒も回ってみたが、どこにも現物がない。こういうときは、いつものパターン、ネットで発注。届いた本を見てみると、水月さん、何と2006年に得度された方だった。そう、本著は正真正銘の「他力本願」、親鸞の教えを説いたものだったのだ……。と言うことで、私がイメージしていた内容のものとは、全く異なる一冊だったのだが、水月さんの文章は、感心するほど読みやすく、ユーモアに満ち溢れている。そのため、あっと言う間に読了してしまった。親鸞聖人の教えをザクッと知るには、とても良い本だった。
2012.04.30
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「尖閣問題も反日デモも… おお、そういうことか。」 これは、本著の帯に書かれたキャッチ・コピー。 まさに、本著がどんな一冊であるかを、一言で言い尽くしている。 本著を読めば、中国の行動の裏に潜む本音、実情が見えてくる。 冒頭「増補版のための解説」から、「なるほど!」の連発。 「そんな見方もあるのか……」と、思わず唸ってしまう。 内田先生は中国問題の専門家ではないけれど、 その立場が逆に、新たな視点を提供できる状況を生み出していると感じた。 *** 日本の国力はメディアが慨嘆するほどに衰微しているわけではないし、 中国の実力もメディアが恐ろしげに語るほど圧倒的なものではない。 僕はそう思っています。 冷静に考えても、中国がこの先、 今の日本ほどに政治的、経済的に安定した国家になることはきわめて困難です。 本書中でも同じことを書いていますが、日本の統治者が手ひどい執政を犯した場合でも、 考えられるリスクはせいぜい「次の総選挙での敗北と政権交代」までです。 でも、同様の執政が中国では共産党独裁という政体の瓦解をもたらしかねない。 統治の失敗がもたらす災厄の規模が日本と中国では桁が違います。 ですから、中国の統治者は残忍なほど冷徹で計算高くならざるをえない。 日本では、統治者がどれほど失政を続けても、 少数民族の独立や、通貨の暴落や、テロやゲリラや略奪の心配はない。 この「負けしろ」の広さにおいて、日本は世界最高レベルにあると僕は思っています。(p.2)増補版で追加された3つの章は、最近書かれたものだけに、尖閣問題や反日デモ、北京オリンピックやダライ・ラマの動向についてリアルタイムに中国の現状を知ることが出来る。(と言っても、北京オリンピックやチベット問題は、もう4年も前のことだが)しかし、それ以外の、それより前に書かれた各章の文章についても、決して古さは感じない。というか、そこに書かれている内容の方に、より、中国という国に関する潜在的、普遍的な内容が記されている気がした。それらは、まさに目から鱗のオンパレード。13億の民を統治することの想像を絶する困難さ、日本の戦争責任に対する米中の態度の違いの裏に潜むもの、今なお続く「中華思想」とは、本来どういう概念なのか、アヘン戦争、文化大革命といった出来事の歴史的意味合いや、人口や環境問題等々。中でも、東アジア諸国の関係については、アメリカの思惑が大いに反映していることが、本著を読んで、改めて認識させられた。太平洋への影響力を維持するため、東アジアが結束することを望まないアメリカの本音が、戦後70年近くを経た今もなお、日本と中国、韓国に緊張した関係を継続させているのだ。 ***さて、最後に本著の中で、私が心に残った部分を二つご紹介。 人間は、まわりがみんな同じように貧乏なときには、 それほど政治に対して不満を感じないものです (1950年代までの日本がそうでした)(p.94)確かに、そうなのだ。みんな同じように貧しいときには、不満を感じない。しかし、そこに格差が現れ始めるや否や、「なぜ?」という疑問、嫉妬心から、政治に対する不満が表出してくる。 日本が範としているアメリカだって、政府と議会は二元外交をやっている。 大統領がある外交政策を提言する。 それに対して議会は反対して、有力議員がどんどん外国を歴訪して、 指導者と会って話をしてくる。 一国の公的機関を代表する複数の人々が、 それぞれの立場からいくつかの外交的オプションの可能性を吟味するために 「瀬踏み」に出かけるなんていうのはリスク・ヘッジの基本でしょう。 でも、日本ではそういうマヌーヴァーを「国民感情が許さない」という言い方がされる。 そんなことはメディアの出てくる評論家たちがそう言ってるだけでしょう。 テレビを見ている人はテレビ画面で評論家がそう言えば 「二元外交はけしからん」と口まねするけれど、 「どうして二元外交はいけないんですか?」と訊かれたら理由なんか言えない。 外交戦略は単純であるべきで、 どんな国民にも理解できなければならないなんてことを言ってるのは ニュースショーの司会者だけです。 統治の要諦は国土の維持、通貨と民生の安定に尽きるわけですから、 それが守れるならどのような権謀術数を駆使してもいいと僕は思います。 水面下の交渉だろうが、袖の下で抱き込もうが、スパイ活動をしようが、 仕えるリソースはすべて使ってできるだけ有利な外交的オプションを探り当てる。 そのためなら二元外交どころか五元外交でも百元外交でも構わない。 国際関係におけるステイクホルダーの数が増えれば増えるほど 外交的な選択肢は増えるんですから。(p.288)「二元外交」問題だけでなく、他の多くの問題についても、同様のことが日本では起こる。評論家もそうだが、それ以上に気になるのは、知ったかぶりをして、怒りの表情・口調で、自らコメントを述べるニュースショーの司会者たち。そんな人たちのコメントに誘導され、形成されていく民意という名の世論。それが、本当に良い結果を社会にもたらすのだろうか。
2012.04.22
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気合先行で仕事中心の肉食系上司。 理屈先行でワーク・ライフバランス重視の草食系部下。 そして、このジェネレーションギャップに苦しむ30代のプレイングマネージャー。 著者は、この30代のマネージャーたちに、ガラパゴス上司になるなと訴える。 ガラパゴス上司とは、ホウレンソウができないことに対して注意をし、 メールで仕事を振って、エクセルで進捗管理をし、 過去のことについてのミーティングが多く、 草食系部下を「ダメ」と判断して、何度も同じことで怒る上司のこと。そんな上司にならないためには、過去に関する仕事をやめ、仕事の全体像をタスクから分解し、体系立たせ、プロセス化する。ホウレンソウをフレーム化し、スマートミーティング、クラウド化を図る。体系立てたフレームをつくり、そこに工夫や応用した材料を入れ込んでいくことが必要と説く。このフレームワーク仕事術には、次の6つのスキルがある。1.時間投資でストック型スキルをつくる(非クリエイティブな仕事のフレーム化)2.チームで共有する力3.情報を蓄積する力4.情報を活用する力5.若手部下とのコミュニケーション力(論理的思考、伝達力)6.仕事の全体像をつかむ力そして、このフレームワーク仕事術のメリットは、次の4つ。1.チームマネジメント力がアップする2.進捗状況(フレームワーク化)が簡単になる3.ノウハウ蓄積が容易にできる4.効率化が進む最後は、このフレームワークにおける、さまざまなシーンでのクラウドアプリケーションの活用例を示し、締めくくっている。そこで紹介されているのが、「Basecamp」「ByApp」「OmniFocus」そして「サイボウズOffice」といったソフトウェアやシステム。結局、本著で著者が言いたかったことは、「クラウドアプリケーション、イイですよ。使ってみませんか?」ということだったのか。
2012.04.22
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20代は職場でいじめられ続け、3年交際した彼女と結婚3日前に破談。 30代で独立するも1年持たず破綻し、一家4人で路頭に迷う。 再就職先でも人間関係に苦しみ、派閥争いに巻き込まれリストラされる。 その後転職した先でもノイローゼになって、また会社を辞める…… さらに、営業の派遣社員をしたり、独立販売員になったりしたところから、 突然、東急ハンズで完売王と呼ばれるようになったというお話しになり、 それがビジネス書として出版されると、テレビニュースに取り上げられ、 ラジオ出演、各種専門誌掲載、講演依頼も舞い込むようになったとのこと。 冒頭の「はじめに」を読んだだけでは、前後の事情の繋がりが、どうにも曖昧で、著者の河瀬さんって、どんな人で、どんな経歴の持ち主なのかよく分からなかった。それは、本文に入ってからも同様で、著者の人生の歩みの流れがつかめない。意図的なのかどうなのか不明だが、前後の繋がりが「?」という所が、結構見られた。しかしながら、「人たらし道」に関する記述については、納得できる内容が多々あった。特に「人たらし道 五つの秘伝」は、次のようなもので、大いに頷ける。1.人を惹きつけるのには、お金、仕事、物品など、得をするものを与えよ2.人々は、親愛の情を示す人に引き寄せられる3.自己重要感を満たしてくれる人には、その人柄に惹かれ、人々が集まってくる4.恋愛幻想を意識すれば、好みや才能を超え、異性から好感を持たれる5.情報を操作することにより、人を惹きつけることができるその他、本著において、私が特に印象に残ったのは、次の部分。 仕事でも、勉強でも、他人を凌駕するときには、他人の3倍時間をかける。 すると、それは圧倒的な差になる。 何の得意もない者は、とにかく量の練習をこなすことが肝心で、 それをこなしていると、資は、後から上昇してくる。(p.79)この「3倍時間をかける」というのが、単純に×3ではなく、×√3というところが肝。これが、私が本著で最も感心した部分。 実は、私は「魔法のことば」を7つ持っているのです。 その7つの魔法のことばを順番にいったり繰りかえすと、商品は売れるのです。 1.そりゃ、きっと大変なんでしょうね 2.へ~ 3.そりゃまた、大変 4.ハイ 5.なるほど 6.ホラ 7.相手のことばを繰りかえすこれも単純だが、大いに納得できる内容で、「人たらし道 五つの秘伝」が、見事に反映されている。 和解は人生の呼吸法です。 興奮している間は、息があがって、頭を下げることができません。 息があがると、ゆとりがなくなって、苦しくて顎をあげて呼吸をします。 すると必然、頭が下がらなくなってきます。 無理やりでもいいから、先に頭を下げる。 これが私が経験から得た和解の仕方です。 揉めた相手も、頭を下げる間合いを失っているのです。 こちらから先に間合いを詰めてあげるのがいいのです。(p.149)これは、私も大いに心掛けねばならないと、自戒させられた。
2012.04.15
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「危機と克服」に続く「賢帝の世紀」シリーズの始まり。 紀元前2世紀、「黄金の世紀」と呼ばれた全盛期をローマにもたらした五賢帝。 そのトップバッターとして帝位に就いたのが、初の属州出身帝・トライアヌス。 今巻は、そんな彼の、皇帝としての充実した仕事ぶりが描かれる。 塩野さんは、これまで「悪名高き皇帝たち」と「危機と克服」のシリーズを、 歴史家タキトゥスの『年代記』『アグリコラ』『同時代史』を元に書き進めてきた。 彼の記述は、まるで見てきたかのような臨場感に溢れるものだった。 そんな記述と解釈に対し、塩野さんは別の解釈を展開してきたのだった。ところが、タキトゥスは、同時代に生きたトライアヌスについて、叙述を残していない。それは即ち、トライアヌスの治世については、信頼を置くに値する文献資料が絶無であることを意味する。そのことが、前巻までと今巻との間に、大きな趣の違いをもたらした。例えば、ダキア戦役については、「トライアヌス円柱」という戦勝記念碑に刻まれた、114を数える戦役の展開を描いた浮彫りから、その経緯を追うしかなかった。実は、今巻のスタートから、私の本著のページを捲るスピードは、少々鈍りかけていたのだが、ここに至って、遂に停止してしまったのだ……およそ3か月の時間を経て、読書再開。トライアヌスによる、防衛戦の再編や社会基盤の整備、福祉の充実等への取り組み、アラビア、ダキアの併合成功によって帝国最大の版図を獲得する過程は、とても面白く、それまでのペースが嘘のように、スイスイとページを捲ることができた。ページを捲るスピードが鈍ったのは、本著の記述に問題があったのではなく、どうやら、読み手である、私自身の身体的、精神的な部分に問題があったようである。 ***さて最後に、私が今巻の中で特に印象に残った部分のご紹介。 人間とは実に一筋縄ではいかない存在で、 好評だったからつづけ、 悪評だったことはやめればそれでことが済むというものではない。 好評だからとつづけているうちに気づいたら飽きられていたり、 悪評だったからとやめて反対の政治をしているうちに、 かつては悪評を浴びせかけるのに熱心だった側が、 いつの間にやらその政策の必要性に目覚めて復活を望むように変わっていた、 などという現象はしばしば起こるのである。(p.74)全く、人間とは、世間とは、そういうものである。 なぜトライアヌスがビティニア属州の財政再建に執着したかの理由だが、 財政が破綻状態にあって利益を得るのは少数でしかなく、 その他多数は被害者になるからである。 そうなると、社会は不安定化する。 その反対である善政とは所詮、 正直者がバカを見ないですむ社会にすることにつきるのだった。(p.243)2000年以上も昔の時代についての記述とは、とても思えない。科学技術は進歩しても、そこに生きる人間自身は、あまり変わっていないと、つくづく思う。 トライアヌスは、彼に心酔する有能な武将に不足しなかった。 だが、心酔者とはしばしば、当の人以上に過激化するものである。 そしてトライアヌスは、忠誠一筋のこの世代の次にくる世代を、 あまり信用していなかった。 これもまた、成功者には起こりがちな現象なのである。これも、前の文章に対する感想と同じ。2000年以上前の人間も、現代を生きる人間も、本当に同じで変わっていない。
2012.04.15
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