バリのガムランが聞こえる 5
私が日本に帰国し、時差が縮まったため、
私達は以前にも増して、頻繁に連絡を取り合うようになった。
グリの祖母はまだ入院していたが、一命はとりとめたそうだ。
そして彼は、父親のやっていたビジネスの内の一部を譲り受け、
その仕事が楽しいのだと、電話の声を弾ませた。
そんな折、私は何と、元彼と街の中で偶然再会した。
例の、1年前に音信不通になってしまった日本人の彼だ。
（私は元彼と偶然再会することが多く、今までに4人とあります。）
私はその彼にまた会えて、とても嬉しかった。
何故なら、会ってお礼を言いたかったから。
私がNYの寮にいた頃、日本から毎日電話をくれて励ましてくれた人。
海外駐在経験もあり、英語が堪能だった彼には、海外での
アドバイスも色々してくれていた。
あんな形で別れることになってしまった、お詫びもしたかった。
私達は一度も結婚の話をしたことがなかったのに、その時に初めて、
結婚の話題が出た。
君が留学する前に、婚約をしていたらどうだったろうと。
確かに、彼と婚約をしている状態での遠距離なら、私の気持ちも安定し、
遠距離恋愛の関係を続けられたと思う。
他の男性にはよそ見しなかっただろう。
実際、NYで仲良くなった日本人女性で、1年、2年の間、日本人の
彼との遠距離を続けられていたのは、婚約してきている人達だけだった。
いや、それは言い訳で、私が彼とどうしても関係を続けたかったのなら、
途中で一時帰国していたはずだと思う。
とにかく、今更何を言ってももう遅い。
私はあの時、彼よりもNYにいることを選んだのだから。
彼は、同じ会社の女性と付き合い始めたばかりだった。
そして、日本に帰ってきたばかりの私は、インドネシア語を
習いだしていた。
その時のクラスメートから、バリには日本人女性を目当てにした
バリニーズのジゴロが多いということを初めて聞いた。
バリにハマった日本人女性がリピーターになり、バリの男性と結婚
したものの、その男性や男性の家族にお金を取られて最終的に離婚
されることも多いと。
まさか、グリが？
あの彼がそんな男性とは、とても思えない。
私がNYで、かなり倹約生活をしていたのを彼は知っている。
デートした時のお金も、私に払わせてくれたことはなかった。
それまでバリ島に興味のなかった私は、初めて知る事実に驚いた。
私はその後も、インドネシアやバリに関する書籍を読んで、
その歴史や政治、文化に関する知識を得る努力をしていた。
そして、その年の春、グリと出会ってちょうど1年がたつころ、
私は彼の故郷、バリへと旅立った。
つづく
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