一期一会 ―日々思うこと―

一期一会 ―日々思うこと―

ヘルマン・ベラスケス



ベラスケス博士の活動については2003年にフランスで制作されたドキュメンタリー番組で紹介されている。


1994年、WTO(世界貿易機関)では知的財産所有権保護に関するTRIPS協定が結ばれた。
この協定によって医薬品開発者の特許権が20年間保護されることになった。
販売価格の70%から80%が特許料に当てられるようになり薬品価格は高騰、その結果、途上国はエイズ・結核・マラリアなど緊急の対策が必要な感染病に対してでさえも薬品を輸入できなくなってしまった。

WHO(世界保健機構)の薬品改革計画立案のリーダー・ベラスケス博士は1997年、この現状を「レッドブック」と呼ばれるWHO出版物で批判した。
これに対し、アメリカのFDA(食品医薬品局)は「新薬の海賊版」を推進していると非難し、「レッドブック」の出版を差し止めるようWHOに圧力をかけた。
だが、ベラスケス博士とWHOは、表紙の色だけが異なる「ブルーブック」を出版することで、超大国アメリカに挑んだ。

一方、エイズ治療薬のコピー製造に成功したブラジルでは、特許料が控除されているため、先進国製薬企業からの輸入薬と比べ73%のコストダウンとなった。
これによりブラジル政府のエイズプログラムでは治療薬を患者に無料支給できるようになり、エイズによる死者数・入院患者数は減少、政府の公衆衛生支出が大幅削減されたのだった。
しかし、アメリカは国際特許協定違反であるとブラジルを非難したことから、「人命」か「特許料」かの論争が激化していった。

途上国のために交渉の先頭に立ったベラスケス博士は、各国の意見集約のためにブラジル・マリ・中国を歴訪する旅に出て、「人命」と「特許料」をめぐる歴史的な外交交渉を行う。
コピー薬をWTOで認めるか否かの交渉だ。

ベラスケス博士は、アメリカの大手製薬会社の関係者からと見られる「手を引け」との脅迫や暴行に屈せず、途上国結束のため各国を奔走し続けた。

2003年8月、途上国がエイズなどの治療薬を安く輸入することを認めたWTOの合意が成立した。
エイズなど国家存亡にかかわる特定の感染症に関しては、先進国の製薬会社に特許料を支払わずに済むと定めたこの画期的な合意によって、アジア・アフリカの数千万のエイズ患者が治療を受けることが可能になった。




交渉の間、ベラスケス博士は何度も闇討ちにあっている。
ナイフで腕を切られ銃を突きつけられている。
でも誰にも博士の活動を止めることはできなかった。

製薬会社で多額の開発費がかかっていることはよく分かる。
だがアフリカで毎日毎日多くのエイズ患者が、治療を受けられずに死んでいく現状をどう考えていたのだろうか?
人の命に関わる企業には、それなりの企業責任・社会的使命があるはずだ。




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