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December 5, 2006
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すましたお顔してばばんばん


 ある晴れた日曜日といえば、
何事も起こらないような穏やかさを装って、
結局何か起こってしまうものなのだが、
実際のところ、
本当に何にも起こらないままで、
アナログ時計の短い針が3時のところを
追い越してしまったので、
T助はなんとなく焦りを感じていた。
「なんにも起こらない日々が、

 混乱と虚無に陥れることを知っているのか!」
と、緑色の芝の上で手綱を惹かれて歩いている
数等の馬が、競馬場のゲートに詰め込まれていくのを
ブラウン管を通してぼんやりと眺めながら、
T助は無意識に近い状態でもって叫んでいた。
 近所のキジ猫が、すました顔をして、T助ん家の庭を
通り抜けていった。
 T助はそこで、ふとした面白い計画を、
自分ではもうめちゃくちゃ、世の中の大半の人から
ちやほやされるだろうと思われてやまない計画を、
急に思い出したがてら実行に移すことにした。

使って行うものだった。
 T助はまず、竹箒を持ってくると、
草木の植わって緑になっている端のほうとは対照的に
黄色い地面むき出しの庭の真ん中を、丁寧に掃いた。
 そして、数ヶ月前に封を切った、おつまみのナッツ類を

 そうしたらすぐにT助は、家の中に戻った。
 そして、庭の真ん中がきれいに見えて、かつ、
外からはヒトがいることが全くわからない場所に隠れた。
 それから、待った。
 とりあえず、しばらくしないと、「面白い計画」の
「ターゲット」となるやつは、現れない。
(忍耐は、いつの時代、何をしても大切なのだ)
 T助は、困難な事柄を成功させようとする偉人かなにかに
なったつもりでそんなことを考えていた。


 時間は過ぎ、ポテトチップス九州しょうゆ味を一袋空け、
一人有名人しりとりを3べんほど終えた。
 一向にターゲットは現れないので、さすがのT助も、
もうそろそろやめて、またテレビでもみようかなと、
計画への情熱を失いかけていた。
 だがそのとき、ナッツ類の散らばったあたりの庭に、
何かが現れた。
 T助はその気配を察して、ホフク前進の体勢で身構えた。
 庭を見つめる。
 そこには、一匹の黒いカラスがいた。
 T助は目を見張った。
 念願のターゲットが現れたのだ。
 カラスは、太い針金みたいな両脚で立って、
きょろきょろとあたりを見渡し、
そしてしばらくして、T助の撒いたナッツ類に
くちばしを伸ばした。
(いいぞ!そうだ!)
 T助の面白い計画は順調だった。
 カラスは、ひとつナッツをくわえて、用心深く
飲み込んだ。
 いける味だったらしい。カラスは続けて、
別のナッツをつついた。
(よし、いいぞ!そうやって、食っていけ!)
 T助は一人で、夕日の落ちかけたフローリングの上で、
わくわくしていた。
 彼は仕込んでいた。
 何を仕込んでいたか。
 さあね。
 なにヲ。
 しゃべるお豆さんを。


 ばら撒いたナッツのほとんどは、本物の、味のある
ナッツだが、ほんの2・3粒、偽者を仕込んでおいたのだ。
 しゃべるお豆さんとは、
見た目は全く持って、豆としか見えないが、
全くもって、豆ではないもので、
軽く刺激を与えると、
「ぇくすきゅぅずみぇぃ? ぁあ・ゅぅ・はぴぃ?」
と、声を出すのだった。
 それはまあ、近くの文具店かどこかで
一般的に手に入るものなのだが、
T助は、それを動物が飲み込んだら、
どんなふうになるだろうかということに、
興味を持っていた。
 いつか実験してやろうと、小学生のころから、10数年ばかり
計画していたことなのである。


 その、長年温めていた計画が実行され、しかも目の前で、
いままさにその結果が実現しようとしているのを見て、
T助は興奮していた。
 カラスは、なおも気がつくことなくナッツをついばんでいる。
(いいぞいいぞ)
 T助はにんまりと、そのときを待った。
 しかし、そのとき、カラスが動きを止めた。
 何事かと、T助も動きを止めた。
 カラスは、よくみると、止まっているのでなく、
何かに耳を傾けているようだった。
 いぶかしい出来事だ。
 カラスが何かに耳を傾けるなんて。
 しかし、T助も気になった。
 カラスは何を聴いているのか。
 カラスが、何から、何を、聴いているのか。
 するとそのとき、カラスが、
羽をおいでおいでさせて、T助を呼んだ。
 丁度、学校の先生が、別のクラスメイトから話を聞いて、
その後にT助を呼ぶように。
 T助は眉毛を八の字にしながら、裸足で庭に降りた。
 そのままカラスのところまで行くと、
カラスはとっても背が低かったが、
T助と、ちょっと前からフツウに知り合いだったみたいに
目を合わせた。
「な、に、さ?」
 T助は、何を言われるのかと緊張していた。
 回らない舌でたずねると、カラスが、
地面を指差した。
 そこにはまだ、2・3粒、ナッツ類が残っていた。
 一粒の豆が言った。
「おれ、全部食べきられんらしいから、食べてくれんか?」
 とってもフレンドリーに、親切に。
 やさしかった親戚のおじさんみたいな顔して笑った。
 カラスもにこやかに笑ってくれた。
 しかもわざわざT助のために、くちばしでもって、
彼の手のひらまで、のこりの豆を全部運んでくれた。
「あぁ…」
 T助はうめいた。
 住宅街の中に西日がさして、夕暮れの影がもやっと
地面に堕ちた。
 T助は、一思いに、ぱくっと、手のひらの豆を全部
飲み込んだ。
 そうしてばったりと、庭の真ん中に大の字になって
倒れた。
 カラスは飛び去った。


 T助は、思った。
 空はなんて透明なんだろうな。なんて。
 なんて。なんて。なんて。なんて。
 なんて。なんて。なんてなぁぁ。
 そして言った。
「ぇ…ぇくすきゅぅずみぇぃ? ぁあ・ゅぅ・はぴぃ?」
 腹の中で、第2・第3のT助がエコーした、
みたいだった。















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Last updated  December 5, 2006 06:08:31 PM
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