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2025年11月03日
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テーマ: ニュース(95897)
カテゴリ: ニュース
石破前首相が先月、退任直前に発表した戦後80年「所感」について、歴史家で学習院大学教授の井上寿一氏は、10月18日付け毎日新聞コラムに、次のように書いている;




 翌日の新聞各紙は公明党の連立離脱のニュースが1面の多くを占めた。「所感」の全文を掲げる新聞は少なく、扱いも大きくなかった。閣議決定を経たのでもない首相の個人的な見解は、短時日のうちに、このまま埋もれていくのだろうか。「所感」の作成に当たり、意見聴取を受けたひとりとして、考えを記す。

 この「所感」は、これまでの首相談話を継承しながら、新たに別の異なる問題関心に基づいて、首相の個人的な歴史観を展開している。過去の三つの首相談話は、国際社会(なかでも近隣諸国)に対するメッセージであり、国内政治状況とのバランスから、「侵略」や「植民地統治」にふれながら、どのように「おわびと反省」を表現するかが大きな争点だった。さらに「未来志向」が強調されている。

 対するこの「所感」はこれらすべてを継承しつつ、日本国民に向けて、内省を促すメッセージである(国内向けであることは、記者会見での石破首相の発言から確認できる)。

 屋上屋を架すのではなく、上書きするのでもなく、この「所感」は論点をひとつに限定して、約6000字の制約のなかで、議論を展開している。論点は先の大戦に至った経緯を振り返りながら、そこから得られる歴史的な教訓は何かである。

 戦争の責任を追及するのではなく、戦争の過誤を繰り返さないためにはどうすべきか。このような問題関心は、敗戦直後に幣原喜重郎内閣が設置した戦争調査会の目的に類似する。石破「所感」は首相ひとりで進めた国家的なプロジェクト=戦争調査会の報告書の趣がある。

 読書家で知られる首相にふさわしく、日米開戦をめぐって、総力戦研究所だけでなく、秋丸機関にも言及するこの「所感」は、最新の研究動向を反映している。元老の政治的な機能を論じる際にわざわざ丸山真男を引用するのは、衒学(げんがく)的と誤解されかねないものの、目くじらを立てるほどのことでもない。

石破「所感」は戦争回避に失敗した原因を五つの観点(憲法・政府・議会・メディア・情報)から「国内政治システム」の機能不全に求めている。 文民統制の重要性を確認する一方、国民の生命・財産の保全こそ「実力組織」(戦前の軍隊、戦後の自衛隊)の本務だと強調しているのは、防衛庁長官・防衛相を歴任した首相にふさわしい。

 その他の観点も今日的な問題である。これらの教訓をどのように生かすのかが問われている。

 植民地放棄論の石橋湛山や「反軍演説」の斎藤隆夫へのリスペクトは、石破首相が自由主義的保守主義者を自任しているからだろう。石破首相は現実主義的な安全保障観に基づく軍事合理主義者でもある。このような保守主義の思想が失われようとしているのであれば、これからの日本の針路は危うい。

 石破「所感」の歴史解釈は、さまざまな批判を受ける可能性がある。たとえば今日の研究水準からすれば、斎藤隆夫の「反軍演説」は「反軍」=軍部批判とはいいがたいことがわかっている。

 斎藤にとって戦争とは、国家による利益追求の生存競争だった。日中戦争は利益をもたらさないから止めなければならなかった。対する陸軍は、斎藤の戦争観を領土や賠償を求めない「聖戦の本義」に反すると批判したのである。

 あるいは帝国憲法体制が崩壊に向かう過程で、天皇が立憲君主の矩(のり)を越えそうになったことはどう解釈すべきか。

 さらに言論統制下にあっても、なぜ自発的な民衆の戦争支持(「草の根のファシズム」)が起きたのか。

 論点はほかにもある。しかし「所感」に答えがないと批判するのは筋違いだろう。「所感」は「戦後80年の節目に、国民の皆様とともに考えたいと思います」と前置きして本論を展開する。

 私はこの呼びかけに応答したいと思う。たとえ「所感」の歴史解釈に不十分なところがあるとしても、あるいは発表のタイミングや形式、発表の政治的な意図・効果・影響などをめぐって、批判すべき点が多くあるとしても、それでもこの1点において、「戦後80年」の今年、石破「所感」を発表したことは、大きな意義があったと考える。

 「戦後80年」が過ぎてしまえば、歴史認識をめぐって、無関心に覆われた荒涼たる社会の風景を目にすることになるかもしれない。

 そうならないためにも、日本国民の一人ひとりがこの「所感」のテキスト批評をとおして、自律的な歴史観を確立するように願う。
(学習院大教授)


2025年10月18日 毎日新聞朝刊 13版 4ページ 「近代史の扉-過ち繰り返さぬための呼びかけ」から引用

 この記事は歴史の専門家の目から見た「石破所感」に対する評価で、すべての国民にとって一読の価値があると私は思うのであるが、しかし世の中のメディアの「石破所感」に対する反応は冷ややかで、一応報道はしたが、それっきり、というのでは、いささか寂しい気分である。メディアにとっては、退任した首相の「所感」などよりは、始動したばかりの高市政権の動向について「祭り囃子」のようにもてはやすのが「本来の仕事」とでも言うような「姿勢」は、まるで中国大陸を侵略して回る日本軍に付き従って「また勝った」というような報道ばかりしていたあの時代と、あまり変わっていないのではないかという「不信感」を拭えません。





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最終更新日  2025年11月03日 14時01分28秒


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