小さなえほんとしょかん―ゆめのたね―

小さなえほんとしょかん―ゆめのたね―

晴雨計(第1~4回)

新潟日報 夕刊コラム『晴雨計』第1回 2008.5.1(木)
わにさんどきっ!私もどきっ!


 風薫る五月。一年のうちでも最もさわやかな季節がやってきて、街行く人々の顔も輝いて見える。こんないい季 節に、晴雨計のスタートを切れるなんて、私はなんてラッキーなんだろう! と言いたいところだが、実は今、病院 のベッドでこの原稿を書いている。
 先日、長年つきあってきた、最後の親知らずを抜いた。いや抜くはずだった。専門家のいる口腔外科を勧められて「お願いします」といすに座った。が、一時間半奮闘しても抜けず、上の部 分が欠けて取れ、根元の部分だけ残ってしまった。
 外来での抜歯は中止し、入院して手術を受けることになり、先程何とか無事終了した。ホッとしたのも束の間、ジクジク痛む口内と、おたふくのように腫れた顔のせいで、ブルーな気分で原稿用紙に向かっている。
 せっかく、これからおつきあいしてくださる読者の皆さんに、憂鬱気分を 伝染させてしまっては申し訳ないので、明るい話題(=大好きな絵本の話) に移そう。
 歯や歯みがき、歯医者さんにまつわる絵本は、意外にも多く、しかも名作揃いである。
 中でも私の一押しは、 わにさんどきっはいしゃさんどきっ (作・五 味太郎、偕成社)。
 嫌々ながら虫歯の治療をしてもらいにきたわにさんVSこわごわ治療を始めた歯医者さん。(どきっ)《どきっ。》(こわいなあ…)《こわいなあ…》(いたい!)《いたい!》(もうすこしがんばれ)《もうすこしがんばれ》…。今の私には臨場感ありすぎの場面が続くのだが、この絵本の醍醐味は、全く逆の立場の二人が、全く同じ台詞を、最初から最後まで言い続ける面白さにある。こんな芸当ができる五味太郎さんって、スゴイ!
 さて、先生がビンに入った私の親知らずを持ってきて、にこやかに説明し
てくださった。「こんなに長い根が横に張ってたので、抜けづらかったんですね」「そうだったんですかー!」。笑顔で答える私の心境は、わにさんそ
のもの。「いやいやもう二度とはあいたくないね」(*先生自身にじゃなく、こんな目にという意味)。先生もそう思ってたりして!?

新潟日報 夕刊コラム『晴雨計』第2回 2008.5.8(木)
本日晴天、天ざる日和


 五月晴れという言葉がぴったりの、好天が続いている。ちょっと動くと汗ばむような、こんな日のランチに、つるつる、ごっくん!冷たいざるそばはいかが?
 晴雨計の肩書は「絵本作家」になっているが、まだ一冊しか出していない私には重すぎる。せめて「絵本作家の卵」くらいにしてもらいたいな。実際の私は、近所のそば屋にパートで勤める、ごく普通の主婦である。
 新興住宅地にひっそりと佇む「芭蕉亭」は知る人ぞ知る?!手打ちそばの店で、上越市民はもちろん、県内外からわざわざ食べに来るファンも多い。それもそのはず、本場信州出身の店主が、親の代から何十年も守り続けてきた、こだわりの味は格別だ。北海道産のそばの実を、丹念に挽いて粉にし、その都度手で打つ。粉を挽く石臼も、座敷のテーブルも、自分でこしらえたほどの徹底ぶりだ。何種もの野菜を自家製醤油に漬け込んだ、秘伝のたれもおいしい。
 当店一のおすすめは、ボリューム満点の天ざるだ。カラリと揚がった旬の野菜の天ぷらが、お皿からはみ出んばかりに盛られている。サクッとした歯ごたえは、そばとの相性抜群だ。
 ところで、天ぷらといえば おばけのてんぷら (作・せなけいこ、ポプラ社)という絵本が思い浮かぶ。小二の次女が三歳の頃のお気に入りで、毎晩せがまれて読んだっけ。うさこが天ぷらを揚げていると、においにつられて、おばけがやってくる。つまみ食いしてるうちに、衣の中に落ちてしまったから、さあ大変!おばけの運命はいかに?そうとは知らずに、外した眼鏡を天ぷらにしてしまい、大笑いしている、マイペースでのほほんとしたうさこが、読者の体中の力を抜いてくれる。お疲れぎみの大人にもおすすめだ。
 親子ではまったこの絵本、私の ゆうちゃんとれいちゃん改訂版 (作 ・うえまつしの、日本文学館)にも、登場してもらっている。
 さあ、お腹が鳴ったそば通の皆さん、ぜひ芭蕉亭へどうぞ。すべて手作業のため、ゆったり待つ時間と、心の余裕がない方は、ご遠慮ください。

新潟日報 夕刊コラム『晴雨計』第3回 2008.5.15(木)
母ちゃんは、おかげで今日も元気です


 母ちゃん。3人の子どもたちは、お母さんでもなく、ママでもなく、私のことをこう呼ぶ。ちゃんがつけばいい方で、カラスみたいに、カアカア呼ばれることもしばしば。長男(中3)のクラスの女の子たちには、「母ちゃんってイメージじゃない!かわいそう」なんて同情されるが、慣れると、あったかくて、けっこういい響きだ。
 怒っても全然怖くないし、掃除と片付けが大の苦手で、いつも失敗ばかりしているダメ母ちゃん。でも、家族はこんな私を、とても愛してくれる。
 母の日には、恒例のパーティーを開いてくれた。プログラムから、夕食やデザート、プレゼントに至るまで、すべて手作りだ。手巻寿司やケーキを食べながら、ワイワイしゃべり、食後は風船バレー大会で盛り上がった。長女(中1)からはかわいいマスコットを、姉に教わって初のお裁縫に挑戦中の次女(小2)からは、間に合わなくてごめんねの手紙をもらった。暇もお金もない長男は、マッサージという至福の時間をプレゼントしてくれた。
 ありがとう。あなたたちのおかげで、母ちゃんは、今日も元気でいられるよ。
 母の日にちなんでおすすめは、 おかあさん、げんきですか。 (作・後藤竜二、絵・武田美穂、ポプラ社)という絵本。
 授業中に、母親宛(あ)ての手紙を書くことになった4年生の〈ぼく〉。感謝の言葉は照れくさいので、注文を2つ書いた。―赤ちゃんみたいに「わかった?」と聞かないで。ぼくの部屋を勝手に掃除しないで―。
 自分たちの本音をズバリ、ユニークに代弁してくれる〈ぼく〉に、ゲラゲラ笑いながら頷(うなず)く子どもたち。一方、大人は、処分したガラクタが、実は大切な思い出を秘めた宝物だったと知り、反省するやら、子どもの成長にホロっとなるやら。シングルでがんばってる母親を気遣うラストは、涙があふれてしまう。
 東京の実家で、1人(と1匹=愛猫えんのすけ)暮らしをする、70を過ぎた母に、私も手紙を書こうかな。

新潟日報 夕刊コラム『晴雨計』第4回 2008.5.22(木)
34.5km!私は歩いた。昨年も、今年も


 全身筋肉痛、足の裏には大きな豆! 34.5km完歩した名誉の勲章である。
 この時期、長男(中3)の中学校では、全校生徒が参加して、「チャレンジウォーク」が行われる。名前の通り、歩く距離は半端じゃない。(27.5kmから37.6kmまで、3コースの中から各自選択する)
 私も保護者として、昨年に続き、2度目のチャレンジをした。
 実は、朝のウォーキングを始めて1年4か月余り経(た)つ。きっかけは、いたって単純。一昨年末、ふと手にした 愛されてお金持ちになる魔法のカラダ という古本。オバサンには、レジに持って行くのにも勇気がいるタイトルだったが、格安に負けて購入し、一気に読んだ。医学博士である著者(佐藤富雄)が、〈なりたい自分をイメージしながら毎朝一時間(以上)歩くことで、体だけでなく脳が変わり、生き方が変わる〉と提唱していた。
 思い立ったが吉日(石橋を叩(たた)いて渡る夫とは正反対)タイプの私。さっそく元旦から実行に移した。最初の数週間こそ、あちこち痛んできつかったが、それを過ぎると快感に変わった。臨月と同じくらいあった体重が徐々に減り、現在マイナス9kg! ウエスト以前に太腿(ふともも)が入らなかったジーンズも、楽々はけるようになった。体力もつき、風邪もひきにくくなり、いいこと尽くし。(愛されてお金持ちになったかは、別問題だが…)
 「歩く」といえば、この絵本がおすすめ。 ぼくはあるいたまっすぐまっすぐ (作・マーガレット・ワイズ・ブラウン、絵・林明子、ペンギン社)おばあちゃんの家まで〈まっすぐ〉と聞いた男の子が、1人出かけて行く。道をそれてもひたすらまっすぐ!川を越え、丘を上り、馬や蜜蜂(みつばち)に驚き…それでも、ちゃんと着いてしまう。
 初めての冒険にワクワクするストーリーもいいが、林さんの描く、外国ののどかな田舎風景と、男の子の豊かな表情が実にいい。
 昨年は悪天候の中、連れもおらず、男子中学生とバトルしながら黙々と歩いた私。今年は好天に恵まれ、仲良しのママ友と談笑しながら歩いた。5月の風、キラキラ光る水田、季節の花々…絵本に負けないくらい美しい、上越の自然を満喫する余裕もあった。







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