わんこでちゅ

あの川のむこうは、、10











スポックが先頭、あとにナンシーの前足を握ったカークが続いて歩いて、いよいよ三匹は森の中へとはいっていった。そこはなにもかもが真っ黒のすすでおおわれいる、暗くて、不気味なところだった。

「おかしい、、おかしいわね。前にこの森にきたときは、こんなふうではなかったよ。明るくて、なにかも光輝いていたのに、、」

スポックが不審そうにあたりをみわした。ナンシーは怖くて怖くてがたがた震えだした。その時だった。三匹の目の前にみあげるばかりの大きな黒い狼が、どこからともなく現れて、行く手にたちふさがった。鼻息でもうもうとすすをまきあげ狼はこういった。

「まて、お前たちにはここを通させないぞ。」

「僕たちはこの森の向こうに行くんだ、そこをどけ!」

カークが背中の毛を逆立ててそう吠えると、狼は耳をふざきたくなるような、おおきいとても響く低い声で答えた。

「この世界に時間はない、、いつまでいてもかまわない。そして行くときがきたら、行きたいと望むなら、この森をとおってもよい。だが、それ、そこのちび犬、お前は違うだろう、、。」

どうやら狼はナンシーのことをさして、そういっているようだった。狼は巨大な口をがっぱりあけると、ナンシーを狙ってかけよってきた。恐怖にうずくまるナンシーにスポックが大きな体で守ろうとするように、おおいかぶさった。カークは長い胴をさらに長くぴんとのばし、両前足をおもいっきりひろげて、二匹と狼の間にたちはだかった。

「そこをどかないなら、三匹ともまるのみにしてくれるわ!」

「できるものならやってみろ!僕は負けないぞ!」

圧倒的に大きい狼に、カークに勝ち目はありそうになかったが、カークの瞳には、決意という光がらんらんと輝いていた。ところがそのときである、ふいに森の上、空のほうから声がした。それはカークの聞きなれた声だった。

「カーク、カークなんか今急にお前の鳴き声がきこえたよ。なにか困っているの?なにかつらい目にあっているの?さみしいの?」

お母さんの声だった。それと同時に空からなんと  思い  の雨が降ってきた。ぱたぱたと落ちてくる雨はお母さんのカークを思って泣く涙だった。その雨はあっというまにざーざーと降りだし、カークやスポックやナンシーのからだに痛いくらいたたきつけた。そして濡れてぐちゃぐちゃになった三匹のからだ全体は、とたんにあつくあつくほてりはじめるのだった。

驚いたことに、黒い狼も、森のすすも、すべてがその雨にどんどん溶けて流れていってしまった。その光景にスポックとカークがあっけにとられていると、なんとナンシーがぽつりとひとことはじめてこう呟いた。

「お母さん、、、、。」

douwa10


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本童話の著作権は ちゃにさん もちぽ1980 さんにありますので、絵、文ともに他での使用を禁じます。文章アップ2004.3挿絵アップ2005.4














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たいせつなものをなくしたら、、泣いてもいいよ。思いはとどくから、、


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