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「白鯨」
「白鯨」を読んで
白鯨を読むきっかけになったのは、意外なことだった。2002年に、私は福岡の西新に新しくできた、スターバックスというコーヒーショップに足しげく通っていた。そして、ある日、「スターバックマニア」という文庫本で「スターバック」という店名の由来は、メルビルの「白鯨」の中に出て来る船乗りの人名からだと知ったのだった。
最初の印象では、光る、または渋い脇役だったのでは、と予想していた。というのも、白鯨の主人公はエイハブ船長だというのは知っていたからだ。この世界でも最も成功したコーヒーショップの類稀なセンスのよさから、私も「スターバック」氏に当然のように先入観で好印象を持っていた。
白鯨は1840年の頃の捕鯨の話だった。随分と前のことで、翻訳書も古かったので
けっこう、感覚をつかむのが難しかった。期待していたスターバック氏および、執念深い船長の心理描写など、きっとすごいだろうなと予想したが、期待はずれに終わった。特に残念だったのが、白鯨と船長の戦いともなるクライマックスだったが、まったく迫力のない、妙に抹香くささがつきまとう表現で、いきいきとした感じからは程遠かった。
ほとんど唯一といっていいくらいの、興味を持ったシーンは主人公で語り部であるイシュマエルが、同僚となるキークェグとナンタケットの宿で一緒の布団に寝ざるをえないはめになったシーンだった。キークェグはポリネシアあたりの人食いの人種で、彼の行動がとても愉快に表現されていた。変な憶測だが、作者のメルビルもこのシーンを書いている時が一番楽しかったのではないか、と推測している。白鯨は物語がクライマックスに向かうにつれて、逆に描写は宗教くさく、陰が濃くなり、つまらない人生観などが語りだされ、物語の一貫性をはなはだ欠いている不思議な小説ともいえる。
私もこの春から小説を書いているのだが、その意味では「反面教師」としてこの作品を読んだのは良かったのかもしれない。メルビル自身も船乗りであったことがあり、実際にキークェグのような南洋土人と生活をともにしたはずだ。彼は船から脱走して南洋の土人と一緒しばらく暮らしたことがあるらしいからだ。やっぱり、人間は自分の世界で起きたことを表現するのが一番自然なのだろう。そういう意味では次はちょっと形し上学的な書物を読もうか・・(2002 5月31日)
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