chiro128

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モンドリアンのニューヨーク


いわゆるモンドリアン展でもそうだが、展示は時代に沿って並べられていく。かつてより具象的だった線がいかに抽象的な線に変わっていくか、という点でその並びが理解される。かつては樹木だったり家だったりした線が、様々な線と色に変わり、縦横のみの線とかっちりした色に切り変わっていく姿。その展示が間違っている訳ではない。しかし、MOMAでの展示はそれ以上だった。
普段、私たちはモンドリアンの作品を真っ正面から見るように躾られている。作品がそれを要求しているかのように私たちはそれに従っている。平面に構成された線と面。
MOMAでの展示も淡々とそのように続いていた。途中まで。ところがある部屋に入るとそこには45度で斜めに伸びる壁があり、作品が1点掛けてある。自然にキャンバスの縁に目がいく。ここがキュレーターが見てほしいところだった訳だ、と理解する。この作品は正方形が頂点を真上と真下に向いた通常の置き方からすると45度回転して掛けられている。額はなく、縁がよく見える。縁にはモンドリアンらしい線の続きが見えている。近づく。線がキャンバスの縁を回ったどころか更に裏にまで進んでいそうな線があることに気が付く。逆に、キャンバスの縁丁度で終わっている線があることに気が付く。そして、キャンバスの縁に届かず、その直前で止められている線に気が付く。モンドリアンは線を描き分けていたのだ。気が付いたことが嬉しくて思わず声を出して笑ってしまった。気が付いたように係員が寄ってくる。
怒られるのかと思えばそんなことはない。きちんとした挨拶を受けて、こちらは戸惑う。謝らないといけないのかと思った。日本の美術館のコードだ。話をしているとどうもただの会場係員ではない。これはキュレーターの一人だ。
そこで、モンドリアンの線の描き分けについて、この絵で気づかせてもらった、と話す。すると嬉しそうにそのキュレーターも語り出す。彼らは事前に気が付いていたらしい。だが、パンフレットでもそのことは詠われていない。得意な顔はしない。ただ、よく判る作品で、その有様がよく見えるように45度の壁を用意した。
こうした線の描き分けを始めたのはニューヨークでの制作を初めてからが顕著だ。意識的、と言っていいだろう。ここから先は想像になるが、モンドリアンは具象画を描いていたようだ。ブロードウェイブギウギと言ったタイトルでも判る。あの作品群はニューヨークの街の絵だ。地上高くそびえるビルがあり、どこまでも続く道がある。袋小路があり、地下に潜った道があり、地下鉄が走り・・・。そう気が付くとニューヨークで見るモンドリアンはどこまでも楽しい。街を歩きながらあの絵が浮かぶ。
こうなると作品の細部が語りかけてくる。モンドリアン作品にはビニールテープが使われているのが判る。交差点の青や赤にビニールテープが混ざっているのだ。発見!と思っているとキュレーターが教えてくれる。この絵が描かれた当時、それは新しい素材だった。モンドリアンはそれをいち早く作品に取り入れたのだ、と。
モンドリアンは楽しい。しっかりと意味を持っているから楽しい。


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