| wrote:2003/10/21 |
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藤沢調教師の手腕は、血統の壁を越えるか? <**ちょっと雑談/2003年 菊花賞**> |
| 藤沢厩舎に所属する馬には大きな共通点があって、それは「ストライドがパワ
フルで、フットワークのバランスが抜群!」 以前、藤沢調教師の書かれた本を読んだが、「強い馬を前に置いて、後ろから格下の馬を走らせると、必死に前の馬の真似をして走る」ということらしい。それならナルホド、どの馬も同じようなフットワークになるはずだし、鍛えられるはずだ。 藤沢調教師は、そのようなボス的な存在の馬を「リードホース」と呼んでいる。その源流は、公営から移籍して初期の藤澤厩舎に所属していた、ガルダンにさかのぼるのだそうだ。ガルダンももちろん悪い馬ではなかったが、今の藤沢厩舎なら、ガルダンとはまるで格の違うリードホースが、何頭もいる。厩舎全体のレベルがどんどん底上げされていく秘密は、こんなところにあるのかもしれない。 藤沢厩舎の馬にはもうひとつ特徴があって、それは、「Aクラスに育つ馬はワンペースの先行型が多い」ということ。同じようなラップで綺麗にレースを走って来られるようになったら、Aクラスの評価だ。このタイプの代表が、やや古いところではタイキブリザード、最近ではマグナーテン。マグナーテンが2002年・中山の毎日王冠で記録したラップは、まさに芸術的と言っていい。岡部じゃなきゃあんなラップは踏めないと思うが、なにしろ、中山の1800を12秒台前半でよどみなく逃げて、直線に向いたところの1ハロンがレースの最速ラップとなる、逃げ馬必勝のラップだった。 そして藤沢厩舎の凄いところは、Aクラスだけではなくて、数年に一度ぐらいの頻度で“超Aクラス”が育つところだろう。 ゼンノロブロイが神戸新聞杯で見せたラストの切れ味は、藤沢厩舎の超Aクラス入りが近いと思わせる大迫力だった。 レースでは、武豊のサクラプレジデントが、4角から一気にまくって直線あっという間に抜け出した。普通ならまずその時点で勝負あり、という競馬で、あの加速のついたマクリを直線で追いかけて行ける馬なんか、ほとんどいない。しかしゼンノロブロイは、知っての通り、直線でもの凄い爆発力を発揮して、なんなく逆転してみせたのだった。恐るべき迫力で、中距離ならもしかしてもう、超Aクラスかもしれない。 ただ、その「切れ味」が泣き所になってしまうケースのあるのが、菊花賞の怖いところではあるんだけどね。 ゼンノロブロイ、母の父マイニング。これは、アメリカでヴォスバーグS(G1)というダートの7ハロンを勝った馬だ。引退が早かったので、マイニングの秘めた潜在能力がどうだったのか知る由はないが、しかし路線としては明らかにスプリント系だった。 ゼンノロブロイにとって、菊花賞での唯一の敵は、この内なる血のような気がする。 |
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| wrote:2003/10/23 |
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異系の血が彩る異端のG1、菊花賞 <**血統で読む/2003年 菊花賞**> |
| 血統のことを考えるとき、血の分岐を表す「***系」というのをたくさん知っていればそれに越したことはないが、馬券を買うにあたっては、2つだけ知っておけば十分だと思う。それは、「Phalaris(ファラリス)系」と「それ以外」だ。 1913年にイギリスで生まれて24戦16勝、ビッグレースの勝利はなかったという、Phalaris(ファラリス)。レースのキャリアはスプリンター寄りのマイラーだったらしいが、「脚が外側に湾曲していた」とも伝えられるこの馬は、種牡馬入りしてから、世界の競馬地図を塗り替える「種牡馬の中の種牡馬」となった。現在の主流血脈は、すべてファラリスからの分岐だ。 たとえば、世界の競馬を一変させたとまで言われる、大種牡馬ノーザンダンサーから連なる一大勢力。 ●14位のサッカーボーイ(ゲインズボロー系) だから、たいていのG1は、ファラリス系の馬が勝つことになる。質量共に他の系統の種牡馬を圧倒しているのだから、当然そうなる。たとえばダービーは、もう12年も連続してファラリス系の馬が勝っているし、秋の天皇賞も、10年連続でファラリス系だ。安田記念も、最後にファラリス系以外の「異系の馬」が勝ったのは、1989年のバンブーメモリーにまでさかのぼることになる。他のG1も、だいたい似たり 寄ったりだ。 しかし、なぜか、菊花賞だけは「異系血統の馬」の活躍が目立つ、異端のG1なのだ。なにしろ過去5年の間に、なんと3回も、ファラリス以外の「異系の馬」が勝った。これは画期的な大事件と言っていいほどで、5年で3勝というのは、ファラリス系の種牡馬群との量的なバランスを考えると、ほとんど「異系種牡馬」の圧勝だ。こんなG1は他にはまったくない。 ここ5年間で「異系の馬」が挙げた3勝は、1998年のセイウンスカイ、1999年のナリタトップロード、そして2003年のヒシミラクル。これらはすべて、ゲインズボロー(Gainsborough)系という分岐の血統になる。 気になって調べてみたら、菊花賞はゲインズボロー系の歴史といってもいいほどだった。母系に代々配合された種牡馬の中に、ゲインズボロー系の名前の見える馬が、ずいぶんと多く連対している。ゲインズボロー系は、父系としてはもちろん、母系に入っても豊かなスタミナと底力を伝える血脈だから、これは納得だ。 そして、ゲインズボロー系と並んで、母系に入ったときに重厚なスタミナと底力を伝えるのが、ブランドフォード系。父系としてはスピード能力がやや足りなくてほぼ途絶えつつあるが、母系に入ったときの隠し味としては絶品だ。菊花賞では、ブランドフォードBlandford系を母系に持つ馬も、かなり多く連対している。 母系の4代前までに「ゲインズボロー系かブランドフォード系のいずれかを配合された馬」が連対した年は、過去20年の菊花賞で、なんと18回を数える。言い換えると、菊花賞というのはたいてい、「ゲインズボロー系かブランドフォード系を過去に配合された馬が連対するレース」だ、ということになる。 どんな流れになろうと、どんなラップを刻もうと、最後にはゲインズボロー系やブランドフォード系の底力とスタミナがものを言う、ということを、菊花賞の血統史はこっそりと教えてくれているのだ。 今年、ゲインズボロー系もしくはブランドフォード系を血統表の中に持つ馬は、6頭いる。 ●ゼンノロブロイ
(4代父がハイペリオン系) 【ワンポイント】 例年通りの傾向だと、勝ち馬はこの中から出る可能性が高い |
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| wrote:2003/10/23 |
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単調な配合の馬は勝てない厳しいG1 <**血統で読む/2003年 菊花賞(2)**> |
| あくまでも一般論として、また、あくまでもイメージとしての問題だけど、「単調な配合の馬は、単調なレースしかできない」ということが言える。この場合の単調な配合とは、分かりやすく言うと、過去4代にわたって配合されてきた種牡馬が ファラリス系 × ファラリス系 × ファラリス系 × ファラリス系 菊花賞で、過去20年、こういう ファラリス系 × ファラリス系 × ファラリス系 × ファラリス系 ●1993年 ステージチャンプ 4頭に共通することは、「全部2着馬」ということだ。 要するに、過去20年にわたって、勝ち馬は全て、異系の馬を過去4代のどこかで配合されてきた馬だ、ということになる。今年の出走馬では、ファラリス系ばかりの配合になっている3頭、リンカーン/チャクラ/アスクジュビリーは、もしかするとややピンチかもしれない。 そして上記の菊花賞2着馬・4頭は、実を言うと、好走して不思議ないだけの、特別な血統背景のある馬だった。まず、テイエムオペラオーとトーホウシデンは、母の父がBlushing Groom(ブラッシンググルーム)だ。詳しい話は避けるけども、このBlushing Groomというのは全く特別な存在で、血統表の中にこれがいるだけで、もう「底力満点」という格好になる。 残りの2頭、ステージチャンプとロイヤルタッチは、両馬とも、とにかく「母」が凄い。ステージチャンプの母は、あの、女傑ダイナアクトレスだし、ロイヤルタッチの母はパワフルレディ(つまりダービー馬ウイニングチケットの母)だ。 菊花賞の過去の歴史は、ファラリス系を重ねた単調な配合の馬では、淀の3000mを乗り切るのは難しいということを語っている。しかも驚いたことに、過去20年の菊花賞馬のうち、実に18頭までもが なのだ。そのタイプが緩急の効いたレースに対応して、常に淀の3000mを制してきたのだった。 今年の出走馬で、「ファラリス系以外の異系を、2回以上配合されている馬」は、 ●コスモインペリアル
(父と、母の父がともにリボー系) 5頭だけ。どれもこれも、伏兵だ。 |
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| wrote:2003/10/27 |
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47秒6の魔術 <**レース回顧/2003年 菊花賞**>Race/2003.10.26 |
| ネオユニヴァースの三冠なるか、それとも藤沢厩舎がゼンノロブロイでとうとうクラシックレースを勝つのか、あるいは今年もまたひっそりと「ヒシミラクル」がどこかに隠れて、爪を研いでいるのか・・・。 2003年の菊花賞、レース前の話題はおおむねそんなところだったが、しかし競馬史の中では、「なにしろアンカツが凄かったレース」として語り継がれていくのではないだろうか。 アンカツの何が凄かったのか。それは、この4つの数字に、余すところなく表現されている。 11.8-11.5-12.0-12.3 ◇----------------------◇ これは、菊花賞の舞台となった淀の3000m、ラスト4ハロンのラップだ。 この魔法のラップで、3歳になってからまだ未勝利だったザッツザプレンティを、アンカツはまんまと菊花賞馬にしてしまったのだ。 このラップ、レースの流れの中で、詳しく見ていこう。 次のラップ、 <11秒5> 。 ここまですでに、レースは2400mを終えている。その、2400の通過タイムが2分29秒0だから、3000mのレースとしては、決して楽な流れではない。にもかかわらず、その直後に<11秒5>。 おそらくこれが、ザッツザプレンティを菊花賞馬にした一番のポイントだろう。 この地点でこんな急激にスピードアップをされたら、ほかの馬は、たまったものではないのだ。もちろん、ザッツにしても下手をするとゴール前で脚が上がってしまう危険をはらんではいたんだが、アンカツは果敢に、勝つための賭けに出た。 この「11秒5」は、コースで言うと、ちょうど3コーナーから4コーナーの大きなカーブの部分にあたる。ここで、楽をせずグッと力強く加速して行ったザッツの脚に、他馬は大慌てとなった。こうなると、自分のフットワークやリズムを崩されながらも、ザッツのタイミングで動いていくしか手がない。そうしないと、もう完全に、レースの流れに乗り遅れてしまうのは明らかだった。この時点で、他馬は完全にアンカツマジックの術中に落ちてしまっている。 そしてその次、 <12秒0> 。 これは、直線に向いて最初の1ハロンのラップだ。 ここで先頭を行くザッツが「12秒0」ということは、後ろからこれを差すためには、この地点でさらに11秒台半ばの脚を要求される、ということを意味していた。 しかしそんな離れ業はもう、無理なのだ。 後ろから来る馬に、ここで「11秒台の脚」を使わせないために、アンカツは3角から4角にかけて一気にピッチを上げたのだから。あの急なチェンジオブペースをとっさに追いかけて行って、さらに直線に入って最初の1ハロンでそんな鬼脚を繰り出せるような化け物は、さすがにいない。 3角でアンカツがバッと抜けていったときに、ただ独り血相を変えて追いかけていったデムーロはさすがに判断抜群だったが、しかしデムーロの身体の下で、春の王者ネオユニヴァースも、もうかなり苦しくなってきていた。 そしてゴール前の1ハロンが、ダメ押しの <12秒3> 。 三冠を目指すネオユニヴァースの脚いろが、絶望的に、前を行くザッツと同じになってしまっている。追いかけても追いかけても、差は一向に詰まらない。追いかけるネオのほうが、最後は完全に根負けした形となった。 これが、「切れ味のなさ」という泣き所を抱えたザッツザプレンティのジリ脚を、見事に一発で「勝つための長所」に変えてしまったアンカツマジックのすべてだ。「こう乗って負けるなら、それはもう仕方のないこと」と腹をくくった乗り方で、馬の個性とレースの流れを読みきった、完璧な騎乗ぶりだった。 この間、時間にすると47秒6。1ハロンの平均が11秒9となる。「切れ味では劣るけれども、平均的に速い脚を4ハロン持続できる」というザッツの個性が、アンカツに導かれて見事に大輪をつかんだのだった。 直線向くまでまったく死んだ振りをしていたリンカーンが、漁夫の利的にネオユニヴァースを交わして猛追したが、しかしザッツはもうゴール板を通り過ぎていた。そして、4角で「もうワンテンポだけ仕掛けを遅らせたい」と目論んだゼンノロブロイは、いっせいに動き出した他馬に閉じ込められ、インで行き場を失ってしまって、直線入口ですでに圏外に去った。 しかし凄いことを考える騎手がいるものだ。アンカツの演出したラスト4ハロン、11.8-11.5-12.0-12.3は、菊花賞史上に残る芸術的なラップだったと言っていい。 <ラップ> |
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