列車が来るのを待っていた

上りの列車は明日行き
下りの列車は昨日行き

ようやく到着した上りの列車は混み合っていた
座れそうもないからと見送った
ガラガラに空いている下りの列車が誘惑するけれど
私の目的地はそっちじゃないから次の上りを待つことにする

時間はまだまだあるから大丈夫
北風が頬や指先に少し痛いけどそれもなんとか大丈夫
ヘッドフォンから流れる音楽に浸ったり
雲の形が変わってくさまを眺めたりしながら待つことにする

ところが次もその次も
それからその次の次までも上りの列車は混み合っていて
回を重ねるごとにますますひどくなるばかり

こんなことなら最初の列車に乗っておけばよかったと
後悔してももう遅い
ヘッドフォンから流れる音楽がうるさく感じる
青かった空はいつのまにかすっかり灰色の雲に覆われている
たいへんだ もうすぐ日が暮れる
それよりなにより この寒さはなんなんだ
もういい なんでもいい とにかく目的の場所に行かなくちゃ

ホームに最終の上りの列車がやって来た
最悪にすし詰め状態 それでも無理に乗ろうとしたその瞬間
「定員オーバーです」駅員に腕をつかまれた
そこに下りの列車 相変わらずガラガラ空いてる下りの列車
ああ なんて心地良さそうなビロードのシート
そして そして なんて温かそうなんだろう

我慢できずに下りの列車に私は飛び乗って
昨日へ続く景色を目で追いながら 深くて長い溜息をつく



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