安らぎのクレヨン画

安らぎのクレヨン画

2007/06/28
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カテゴリ: エッセイ
ニライカナイへの架け橋





大学時代の友人家族が沖縄に来ていたので、南部を案内してきた。

うちの子どもが先月生まれたばかりだったので、僕の家に寄って顔を見てから、僕だけが友人家族を案内することにしたのだ。

友人、その奥さん、その子ども、そして僕を乗せたレンタカーは海岸沿いのゆるいぐねぐね道を走っていた。
三歳になるその子どもは、朝からのドライブと観光で疲れて、すやすやと後ろの席で寝ていた。

沖縄は六月末。ついこないだ梅雨が明けたばかりで、気持ちいい天気だった。
しかし急にかあっと暑くなったものだから、それで雲がもくもくと作られていた。
雲はどんどん大きくなって、底の方が黒くなってきた。

さっきまで澄み切った水色をしていた海の色も、雲の色と共に色彩を失っていき、濃い灰色となっていった。


雨がぱらぱらとフロントガラスに当たり始めた・・・と思っているうちに、ばらばらと強く当たってきた。
降ってきた、というよりも、自分から雲の中につっこんだような格好だ。

「まあ、今日は色んなところが見れたから、最後に雨ぐらい良いよね」
友人はワイパーを入れながらそう言った。

「ちょっとだけ、遠回りしていこうか」
坂の途中にさしかかったときに僕が言った。

「うん?」
「ニライカナイ橋っていう、眺めが良いところを最後に通って帰ろう」
「うん。ニライカナイって?」
「ニライカナイっていうのは、沖縄のあの世のことで、海の向こうに楽しい天国が待っている、という感じかな」
「ふうん」


海沿いを走っていた僕らの車は、少し山の方に入っていった。
雨はまだ降っているけど、少し弱まってきた感じだ。この辺りの名物、四十キロでのろのろ走る車に追いついてしまい、その後をついて行った。

「そこ、右ね。あとはずっと道なりで」
「おう」

遅い車と別れを告げて、僕らの車は台地の上を走っていった。右も左もさとうきび畑で、一面緑の景色だ。

道の左手に、大きな白い風車が近づきつつあった。

「ほんとほんと、おっきい~」
「風車の音、聞こえるかな?」
そういって、友人は車の窓を全開にした。窓から湿った暖かい風と、小さな雨粒が入ってきた。

友達夫婦は、ふたつ並んだ大きな風力発電の風車に感激していた。
僕は見慣れていたのでこの風車を案内したつもりはなかったのだけど、たまたま良かったのかもしれない。
「音は聞こえないね。こんなに大きいのに」
「そうだね」

音は聞こえないけど、巨大な風車はぶうんぶうんと回っている感じだった。
「もうすぐそこを登り切ったら、ニライカナイ橋だから」

前方にトンネルが見えてきた。その向こうに海が見えている。
ここは橋といっても、崖の上と下を結ぶループ強のようなもので、ゆるやかなS字を描いて、する~っと、下に下に降りていく橋なのだ。
「わあっ。海」

トンネルをくぐると視界一面に海が広がった。
「雲がなければもっと海の色が澄んでいてきれいなんだけど、おしいね~」

僕は、遠路横浜から来てくれた友人に最高の景色を見せたかったので、ちょっと残念だった。
「うん、けど充分きれい」

車は、少しずつカーブを描きながら橋の一番下まで降りていった。雨はほとんど上がっていた。沖縄らしい天気だ。
「もうすぐうちだから」

今日一日の観光案内はもうすぐ終わり。僕の家で降ろしてもらって、友人家族はその後ホテルに戻る予定だ。

また海岸線のぐねぐね道を少し走っていく。ここも下り坂で、あと五分も降りたら僕の住んでいる家がある。

ぐねぐねした道は、たまに海が見えたり、木々に隠れて見えなくなったり、そんな風に景色を変えていく。
「あ、晴れた」

ぱあっ、と陽が差し込んできた。とたんに海の色も明るく透き通った色に変わった。
「あ、虹!」

くっきりと鮮やかな虹が、海の中にすうっと入っていくように見えた。
「こんなにはっきりとした虹を見たの、初めて」

友人の奥さんも喜んで見ていた。

珊瑚礁の、淡い青と水色がグラデーションになっている海と、虹の色。海の中にぽっかり浮いた、
珊瑚の砂だけで出来ている無人島の中から虹が飛び出してきたようにも見える。
本当のニライカナイへの架け橋は、これなのかもしれない。

僕も東京を離れて沖縄に住むようになってから虹をよく見るようになったけど、こんなに鮮やかな虹を見たのは初めてだった。
ひとつひとつの色が、赤、オレンジ、黄色、緑・・・と分かれているように見えた。
「なんだか、得した気分だ」

ぼくらはみんなにっこりしながら、虹を眺めながらゆっくりと坂を下りていった。
友人の子どもは気持ちよさそうに寝ていたので、残念だけど起こさなかった。
「じゃ、またね。気をつけて」

僕の家のすぐ近くで降ろしてもらい、友人家族に別れを言った。

車を見送ると、僕はすたすたと早足で家に帰った。

もちろん、妻にこの美しく鮮やかな虹を見せるために。







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Last updated  2007/06/28 12:39:04 PM
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