双子の出産


私の場合は双子妊娠にしては珍しく、妊娠中はベッドレストも言い渡されず、特に大きな問題もなく順調な妊娠生活を送っていた。双子は一般的に妊娠38週を超えると胎盤の機能が低下してくるという事で、ドクターには38週までには出産しましょうという話。でも、私の体は相当頑丈なのか、お腹に2人も赤ちゃんがいるにも関わらず、37週を過ぎても陣痛の兆候どころか子宮頚管さえ短くならず、子宮口もしっかり閉じたまま。という事で、37週4日になる8月1日に誘発分娩の為に入院する事に。

[ 誘発分娩の為に入院 ]
8月1日、午後12時半に入院し、すぐに陣痛・分娩室(LDR)へ。とにかく子宮口が全く開いてないので、出産までには時間が掛かるだろうという話ではあったけれど、双子は2人とも頭位だった為、とにかく経膣分娩を目指そうという事で、最初に子宮口を柔らかくする薬を点滴開始。点滴をして、血圧のバンドを付けられたまま、NSTのモニターを2人分+陣痛のモニターを付けているので、大きなお腹で仰向けに横になってるのはかなり辛いのだけど動く事もできず。

[ 陣痛らしきものがきた ]
この子宮口を開く薬だけど、効果で始めるのに結構長い時間が掛かるらしく、その前から痛みはある程度あったけど、陣痛らしきものがやってきたのが夜の8時半頃。「あっ、定期的に痛みがやってくるから陣痛だ」と思ったのは良かったけれど、その痛みがなんと1~2分間隔でやってきてしまって、とにかく辛い!痛みはものすごーく強い生理痛という感じなんだけど、感覚が短いのでとにかく休む時間がない。しばらくしてかなり辛くなってきたので、1時間に1本だけ打てるという鎮痛剤を打ってもらったんだけど、この薬が30分しか効かないから残りの30分はやっぱり辛い。夜中になってドクターがやってきて、こんなに辛いんだからもう子宮口も数センチは開いてるだろうと思っていたら、なんとまだ数ミリしか開いてないという話。さらには、頚管は未だにかなり厚いそうで、実際に子宮口が開いてくれるのはまだまだ先の話。

[ 道のりはまだ遠い ]
という事で、この子宮口を開く薬から引き起こされる陣痛に耐えつつ頑張ったけれど、相変わらず子宮口の状態に変化はなし。薬の効き目は12時間程度という事なので、8月2日の夜中2時半から今度は陣痛促進剤を開始。相変わらず痛みは辛いけれど、とにかく鎮痛剤で頑張ってみる。2日の朝の9時になり、内診をしてみたけれど、子宮口はまだたったの1センチ開いただけ。もう痛みと何時間も戦ってるのに、子宮口が全然開かなくて、この時点で半泣きだった。ドクターとナースが「このまま頻繁に来る陣痛に耐えてても赤ちゃんも辛いだけだから、Epidural(硬膜外麻酔)をしてしまいましょう」と言われ麻酔を開始。この時点で、私も母も「これだけして子宮口に変化がないならば、帝王切開の方がいいのではないか」という風に言っていたのだけど、「初産だから時間が掛かるのは当たり前」とナースもドクターも相手にしてくれなかった。

[ 動けない苦しみ ]
こうやって2日の日は、硬膜外麻酔をされたまま過ごした。麻酔をしているから楽だろうと思いきや、全然楽じゃない。まず、点滴は両手にされ、背中からは麻酔の管が入っている。腕には血圧計のバンドが巻かれ、指先には脈拍を測る機器が付けられている。お腹には三つのモニターの為にバンドが3本巻かれ、下半身は尿を通す管が入っている。双子の心拍が落ち気味という事で、酸素マスクを何回もさせられた。そして、お腹が究極に重いのにも関わらず、ずっと仰向けのまま。これはハッキリ言って地獄だった。横向きになりたいのだけど、ちょっとでも動くとNSTの探知機がずれてしまって、双子の一人の心拍数を失ってしまう。だから、この管と機械につながれたまま、全く動く事ができなかった。出産の本なんかでは、『陣痛を乗り切る方法』なんて色々書かれてたけど、全く動けないんだから乗り切るも何もない。それに、麻酔をしているから痛くないと思っていたけれど、陣痛はやってくるのが分る。

[ 何かがおかしい ]
2日の日にも、何回も内診が行われた。最初は硬膜外麻酔をしているから痛くなかったんだけど、時が進むにつれ痛くなってきた。最初は動かなかった足も何故か動く。「麻酔の効き目が弱まってきたら、このボタンを押してね」て言われてボタンを押し続けたけれど、いつまで経っても足は動くし陣痛も痛い。さらには内診もかなり痛くなってきたので、とうとうナースに麻酔が効いてない事を伝えた。

すると、暫くして麻酔医がやってきて、「これで充分なはずだけど、とりあえず麻酔の量を増やしてみよう」という事で、さらに麻酔を持ってきた。麻酔を足された瞬間に頭がグラグラ、ガンガンしてきて、ものすごく具合が悪くなってきた。そして、麻酔を足して具合が悪くなったにも関わらず、まだ足が持ち上げられる。その事を伝えると、ナースと麻酔医が管の入ってる背中を確認してくれた。その瞬間に「ああ、これは具合が悪くなるはずだ」と言われ、神経に入っていなければいけない管が、部分的に血管に入ってる事が分った。血管に思いっきり麻酔が入っていたんだから、具合も悪くなるはずだった。

結局麻酔医は、「このままだと麻酔がちゃんと効かないから、もう一度硬膜外麻酔の管を入れ直そう」という言い出し、苦しくてしょうがないのに、又もや背中を丸める羽目に。とにかく双子がお腹に入ってるのだから、苦しくて背中を丸めるなんて不可能に近いのに、ナースと麻酔医に「膝を抱えて!」と何回も言われ、本当に辛かった。

[ 具合はさらに悪化 ]
新たに麻酔が入って楽になると思いきや、8月3日になった深夜、又状態が悪化してきた。最初は「何だか気持悪いなあ」と思ってたのだけど、どんどん息が吸えなくなりパニック状態に陥った。妊娠後期に呼吸困難に何回かなったけれど、息が吸えないのは一番怖い。特に今回は、自分が全く動ける状態にないので、余計パニクってしまった。あまりにも苦しくて「助けて!」と何回も叫び、暫くすると麻酔医とナースが部屋に飛び込んできた。ナースは急いで担当に医師に連絡を取って、その結果すぐに血液検査をするラボの人達、EKGを測る人達等が部屋にやってきた。その間、私は酸素マスクをさせれて、何とか落ち着こうとしているのだけど、やっぱり苦しくて「助けて」を連発していた。そんな苦しい中で、無理矢理内診をされた時は本当に痛くて、泣いて「やめて~!」と叫んでしまった。

暫くして、血液検査や医師の診断の結果、硬膜外麻酔の副作用で、点滴で体の中に入ってきた水分が全然外に出てない事から、腎臓の機能が低下してしまい、肺に水が溜まって呼吸困難になったのだろう、という事だった。よく見てみると、足は今までにないほど浮腫んでいたし、管が入って勝手に流れいてた尿は思いっきり血尿だった。点滴は相変わらず両手にされていて、よく見てみると点滴の袋が5個も下がっていた。急いで利尿剤を投与してもらうと、いきなり呼吸が楽になった。

[ 朝までは何もおこらない ]
結局、私がパニクってしまった事と、3日の深夜の時点でも、子宮口はたったの2センチしか開いてないという事で、私の体を一休みさせてあげようという事になった。そういう事で、腎臓機能を低下させた麻酔を一時的に打ち切り、それと同時に陣痛促進剤も一時的に止めた。ドクターが言うには、子宮口も開いてないし、強い陣痛も来ないから、今夜中に生まれる事はないとの話。そして、朝の6時半になったら陣痛促進剤を再開しよう、という事になった。という事で、3日の朝の3時頃、旦那さんは母を家に連れて帰った(彼はすぐに病院に戻ってきてくれた)。

[ いきなりの急展開 ]
強い陣痛は来ないとはいえ、麻酔は打ち切られてるわけだし、もちろん小さな陣痛はたくさんきていた。相変わらず苦しい姿勢だし、もちろん寝るなんて不可能だった。朝の5時頃、ちょっとだけ「ああ、お腹が痛いなあ」とちょっとだけウトウトしていた時の事だった。いきなりナース3人が部屋に飛び込んできて、ウトウトしていた私にいきなり「双子の一人の心拍が、陣痛もないのに数分落ちたままだから、ドクターと相談して急遽帝王切開をします!」と言い出した。この時、同じ部屋にいた旦那さんは熟睡中で、私は一人でオロオロしてるのに、ナースの一人が「この用紙に署名して!」といきなり署名させられ、残りの一人がバリカンを持って突然剃毛を始めた。

ナースが「帝王切開をします!」と言って飛び込んできてから10分以内に、私はすでに手術室に運ばれていた。その10分の間、私は怖くて泣き出し、叩き起こされた旦那さんは動揺のあまり「お義母さんを連れてこなくちゃ」と言って病院を出ようとするので「お母さんは後でもいいから、絶対に離れないで!」と叫んだのを覚えている。ナースも「ドクターが今こちらに向かっていて、彼が到着次第すぐに手術を始めます」と言ったので、旦那さんは病院に留まってくれた。

[ 緊急帝王切開にて双子の誕生 ]
彼がモタモタと手術着に着替えている間に、私はさっさと手術室に運ばれ、その時点で私はあまりの急展開に怖くて大泣きしていた。朝の6時半までは陣痛促進剤さえ再開しない、と言われていたのだから当たり前だと思う。さらに、手術室は想像と全く違い、殺風景な部屋に異様に小さなベッドがあり、さらには腕を横にして縛られた。すでにドクターは到着しているのに旦那さんが手術室に現れない。頭の中で「一人で手術に挑まなくちゃいけない」というのがグルグルして、「彼はどこ?」を連発していた。やっとの事、手術着を着た旦那さんが車いすで運ばれてきて、私の頭の隣に座らされた。

ホッとしたのもつかの間、すでに麻酔医は硬膜外麻酔を始めていて、手術が始まろうとしていた。私の頭の中で「硬膜外麻酔は効かない」というのがインプットされてしまっているので、またもやパニックに陥った。いつ手術が始まったのか分らないけれど、下半身が引きつるように痛い。帝王切開では圧迫感を感じると聞いていたけれど、それよりも私は内蔵をかき回されているような感覚が恐ろしくて、そして下腹部の引きつる感覚が痛くて、「痛い痛い!」と騒いだ。すると、麻酔医が「それじゃあ、今から鎮痛剤を点滴に入れてあげるから。少しずつ打つけれど、頭がクラクラしてくるからね」と言われ、彼が鎮痛剤を打った瞬間から他の世界へとトリップしてしまった。

相当強い薬だったらしく、誰の声も聞こえない。ものすごい耳鳴りがして、天井の一定の位置を見つめる事しかできなかった。さらにはその天井がどんどん差し迫ってきて、頭の中で「ああ、私は死ぬんだ」って何回も思った。とにかく、自分に意識があるのか判断する事すらできなかった。今思うと旦那さんがが隣で色々言っていた気がするんだけど、何も聞こえなかったし、双子が生まれた時の産声さえ全く聞こえなかった。ふと気がついた時には、彼がすでに赤ちゃんの一人を抱っこしていて、「すごくかわいいよ!」と嬉しそうに言っていた。私は「体重は充分にある?」と聞いたと思う。後で聞いてみると、双子が生まれたのは、8月3日の朝5時36分と39分だという。ナースが部屋に飛び込んできてから双子の誕生まであっという間だった。


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