ヒグマと出会った日 (ゴルフ場にて) |
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北海道の春の山菜取りで気を付けなければならないのが、熊との遭遇です。 冬眠する冬以外は、ヒグマに出会う可能性は同じですが、事故が多いのは、冬眠から目覚めてお腹を空かせている春先が圧倒的に多いです。 今朝の新聞に、昨年春のヒグマによる被害が出ていましたが、死亡事故が3件。 ヒグマによる死傷事故は、殆どが山菜採りや、渓流釣りです。 東京などで、北海道から来ましたと言うと、「熊がいるんでしょう?」と、言われる事があります。 北海道では、どこでも熊がうろついているかのように思っている方がいますね。 外国人に、東京にはフジヤマがあり、芸者がいてチョンマゲ侍が刀を差している。と思われるよりはマシかもしれませんが、誤解です。 熊が住んでいる山としては、この辺りでは、大雪山系です。 山懐深く住んでいて、人の目に触れることは殆どないのですが、春先には冬眠から覚め、エサがない時期なので行動半径が広がり、間違って人里近くまで来ている事が本当にたまにあります。 それでも、やっぱり人の目に触れる事がなく、足跡や糞で熊が来たことが分かると大騒ぎになります。 私は、運良く?1度だけ出会った事があります。 3年前、山の中にあるゴルフ場で女性ばかりの大会があった時です。 何ホールか過ぎて、あるショートホールに着いた時、前の組がまだいましたが、ホールが空いているのにショットせず固まっていて、様子が変でした。 「クマがいる」とひそひそ囁いています。 ホールの右前方の笹薮を指差す方向を見ると、風もないのに笹藪がザワザワと動いています。 よく出てくるキツネかうさぎだろうと思い、「うっそ~!」と、笑うと、「シーッ!」と言われ、静かにすると「ポキリ、ポキッ!」という枝を踏む足音が不気味に聞こえます。 あっ!これはきつねや鹿ではない!! 北海道の笹は、クマザサといって人の背丈より高く生い茂るので、クマの姿は見えませんが、確かにかなり大きな動物がいる気配がします。 鹿は、足が細いので、歩き時こんな風に笹薮を踏み潰すような音は立てません。 キャディさんは青ざめて、「逃げましょう。早くハウスに戻りましょうよ~!」と言います。 大勢でいるせいか、何人かの若い娘と、大勢のオバサンたちは、怖いもの見たさで動きません。 それに、ここで中止しては、沢山の豪華賞品をお目当てにきたのに、棄権扱いになり、賞品獲得の夢は消えます。 そうこうしている内、後ろの組も追い付いてきてしまい、3組(12人)がショートホールに溜まってしまいました。 キャディを含める15人は、ひそひそ忍び声で、プレイを続けるか止めるか興奮しつつ、相談します。 青い顔で戻りたがるキャディさんに、ハウスに戻って知らせるように言って、プレー続行。 キャディさんは、後ろも見ずに、転がるように駆けて行きました。 コースを挟んだ反対側の斜面にクマがいるのですが、困った事にショットをするティグラウンドは真ん中にあります。 恐る恐る、へっぴり腰で一人づつ前に出て行き、ティショットを打ちます。 右前方の、熊がひそむ笹薮には決して打ち込まないようにと、お互いに念を押すのですが・・・ 何故かそんな時に限って、行きたくない方に球が飛ぶ人が多くて、肝を冷やします。 とうとう、1人が大きくスライス(右に曲がる球)して、笹薮の端の方に届いてしまいました。 皆、一瞬固まり、逃げ腰の姿勢で笹薮を見つめるが反応なし。 ふぅ~っと息を吐き、「良かったぁ~」 痩せた1人が、「私はおいしくないわ。食べるならMさんがおいしそうよ」などと冗談を言ってティグラウンドに向かおうとした時、笹薮が大きく動きました。 その瞬間、ウッ!と、声にならない悲鳴でまた皆が固まります。 逃げようと片足を踏み出したまま、ヤブを見つめる私たち。 あっ!見えた~! 誰ももう大きな声は出せません。 押し殺した小さい声の早口で、「行っちゃってよ~!早く!」「いやぁ~ん、大きいじゃない!」「ううん、子熊じゃない?」「違う違う、大人だよ~」などなど。 黒褐色の毛がふさふさした熊が、バキリ!ベキリ!と木をへし折りながら、大きなお尻を見せてゆっくりと山の方向へ動き始めました。 山奥へ戻って行くようです。音が段々遠ざかり、聞こえなくなるまで誰も動けませんでした。 ほっとして、プレー続行。 しかし、藪の近くに打ってしまった人は、さすがに気味が悪くて、ボールを確認にも行かず、罰打を加えて打ち直しました。 そのままプレーの前半を終えて戻ると、ハウスの前には、パトカーや、新聞社の車でものものしい雰囲気です。 「最初に見つけたのは誰ですか?」「どんなクマでしたか?」と、矢継ぎ早の質問に、興奮している私たちのうるさい事。 質問されて答えている人に割り込んで話し始める人。更にそれに割り込む人。 話がどんどん大きくなり、「それは違うよ~」と、ストップをかける人もいて・・・。 警察官が呆れたように、 「いやぁ~~!クマが目の前にいるのを分かっていて、プレー続けたのですか~?」 そして、新聞社の人に、 「こっちの方が記事になりませんかね~!」 と、苦笑いをしていました。 ごもっともです。 |