DarkLily ~魂のページ~

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ドラゴン、街へ行く・第二話



 身長は120センチにも届かない、小柄な少女がそこにいた。

 本人の意に反して。

 前世の姿に準拠しているのだけれど・・・

 わがまま言わない、おこちゃまボディに少女は涙する。

 そして、魔法が解けた。

 少女をくるむ、はしばみ色のマントは、肩から膝下までを覆い、裾に行くほど広がって釣り鐘の様なシルエットを作る、はずなのに、瞬く間に異形へと姿を変えて、巨大な生物の影を落とす。

 マントの裾からのぞかせていた素足は、肥大化とともに鉤爪が生え、逆関節の鳥足となり、光沢を帯びた紫の鱗に覆われる。

 首は太く長く伸び、柔らかなほほは失われ、鋭い牙をひらめかせた。やがて獰猛に裂けた口は、獣のように前に張り出す。

 女の子らしい長い髪は、艶やかなたてがみへと変貌を遂げ、まぶたは下から上に閉じて縦長の瞳孔をまたたかせた。

 本来の姿に戻った少女は――

「どう見ても、ドラゴンだよね」

 しかも、絶対に、真っ当な奴じゃない。あまりにも凶悪な面構えをその目で確かめた瞬間から、そう悟らずにはいられなかった、なにせ。

「それにしたって、首の数が多すぎないかなっ!」

 首が五本もあった。

「まあ、こうして自分で自分の顔を見られるのは便利かもしれないけれど」

 五本ある首は、全部、色が違っている。

 赤、青、白、黒、緑。

 それぞれ出来ることが違っているっぽい。

 ドラゴンの必殺技と言えば、ドラゴンブレス!

 そのブレスが、火だったり、雷だったり、色によって違っているらしかった。

 つまり五種類のブレスを持っていることになる。

 さらに首は体の色とも違っていた。

 体色は紫色をしている。

 長い尾と背中には翼もあった。前足には人と同じ五本の長い指があり、多分、二足歩行するタイプ。

 ドラゴンは一歩を踏み出した。

 この空間に充満している透明な何かが、ドラゴンの動きを阻もうと絡みついてきたが、意に介するほどの事もない。

 向かう先には、ドラゴンの巨躯に匹敵する巨大な門があった。

 淡く燐光を放つ白亜の門扉は、神秘の力によって強固に閉ざされていると、ドラゴンの特別な感覚が教えてくれる。

「さてと」

 一斉に五本のブレスが放たれる。

 炎とともに、青い首から雷、白い首からは冷たい息吹、黒い首は強酸、そして、緑の首は猛毒だけれど、景気づけに吐いておく。

 扉は、ほんのわずかな時間もちこたえたが、その一瞬後には、吹き飛ばされていた。

「クックック」

 良くない感じで笑うドラゴン。

「わーっはっはっは、私は、ついに、最強の力を手に入れたぞ、これで、世界は、私のものだあ!」

 最後に大きく羽根を伸ばして。

「よしっ、明日から頑張ろう」

 こうして、世界は救われた。


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