DarkLily ~魂のページ~

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ドラゴン、街へ行く・第五話



 人懐っこい部下の愛嬌のある笑顔が脳裏に浮かんで心が痛んだ。

 これから街の平穏のための犠牲になってもらう。

 門番は、部下に密かにわびる。

 だが、やるしかなかった。

 幸い、と言うのか、ドラゴンの少女は門番の指示には殊勝に従っている。騒ぎを起こす意思はないという事だろう。

 人に化けて狡猾に欺くという感じはしない。なにより、もうバレちゃってる。

 ありがたいことに、進んで穏当に済ませてくれようとしているのなら、それに乗っかっておくべきだ。

 でも本当に、ドラゴンの少女の思惑は、それで間違っていないのだろうか。

 ドラゴンの少女からは、伝わってくるものがある。

 なんていうか、緊張してないか、この子。

 いちいち戸惑いがちに見せる、いかにも自信なさげな素振りは、勝手がわからなくて、言われるがままになっている、としか思えなくなってきた。

 慣れていない、むしろ、何も知らない、まである。

 だとしたら、審査での対応が通常と異なっていたとしてもわからない、ということになりはしないか。

 その確認を取ることが、最重要だ。

 機嫌を損ねない言葉で、訝(いぶか)しがられぬよう自然な流れを装って。

「街に入るのは、初めてですか?」

 すると、うつむき加減で、しばらくもじもじしてから、まるで恥ずかしいことを打ち明けるように。

「それどころか、こうして友好的に人間と話をするのも、今日が初めてなんです」

 爆弾発言をした。

 普段、人間に友好的ではないドラゴンなのか?

 ドキドキドキドキ。

 真意はともかく、最低限の確認はとれた、ことにしよう。

 それに、ひとつ勝算をあげるとすれば、まだ幼さの残る女の子が一人で旅をしていることが、すでにイレギュラーであるからには、特別な措置をとっても不自然ではないというのもある。

 もう少し踏み込むことに決めた。

「これから仮の通行証を発行するための審査をするので、ついてきてください」

 そして、そのために、もう一枚の手札を切る。

 ドラゴンの少女を奥の部屋に案内しておいて、一人の部下を捕まえた。

 哀れだと思う、が、供せるものが他にはなかった。

「やめてください、隊長、どうしてこんなひどい」

「お前の犠牲は無駄にはしない」

 容赦なく言い放って。

「シクシク、僕のお弁当、かえして」

 小ぶりの丸っこいパンが詰まったバスケットを接収した。

「今度、埋め合わせをするから」

 とたんに。

「にやり」

「いや口で言うな、なんか不安になるから」

 しかも、的中する、そんな予感を振り払って指示を出す。

「お前は、お茶とパンを応接室にいる女の子に届けて、食べさせてやってほしい」

「わかりました」

「そして、ここからが重要事項だ、よく聞いてほしい。まず、その子に対して質問をすることを禁止する。逆に、何か聞かれた時は、できるだけ親切に答えるように。その後、俺が来るまで待つように伝えたら、なるべく早く隊長室に戻ってきてくれ――」

「そこで、次の指示を出す」


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