DarkLily ~魂のページ~

DarkLily ~魂のページ~

ドラゴン、街へ行く・第十八話



 門番は、一人思案する。

 女性に絡んでいた貴族の青年たちには、早々にお引取り願った。

 特権階級もピンキリだ。門番の後ろ盾となっている上司は、街の治安を担うに足る強い力を持った貴族であり、青年たちのような市井に生きる下級の貴族ににらみを効かせている。街なかで無体をはたらくなんてことは、大ぴらに出来るものではない。

 はずだ。

 現に、今回、騒ぎを起こした彼らも、結局は穏便に済ませるということで、立ち去ることに同意している。

 ただ、門番は、腑に落ちないものを感じたのだけれど・・・今は仕方ない。

 まあ、一応、記憶にはとどめて置こう。

 一時保留、そう結論づけた。

 次いで、門番は指折り数える。

 これから自分がとり得る選択肢について。

 折れた指は三本。

 ひとつめは、このままパフッフール達の後を追う。

 ふたつめは、女性の勤務先である東八番街に向かう。

 みっつめは、上司のもとに向かい、報告を済ませ、増援を得る。

 まず、いずれは二人が現れるとわかっている場所がある。合流できる可能性が最も高いのは、東八番街に向かうことだ。

 けれど、女性が去った先は、東八番街とは方角が違う。勤め先に現れるまでにはタイムラグがあるはず。

 かといって、今から門番が二人の後を追いかけても、見つけられるかは分からない。それは非効率的に過ぎるだろう。

 何も全てを一人で行う必要はない。

 まず上司の元へ向かい、東八番街へ見張りを、場合によっては、女性の向かった方へ捜索隊も出してもらい、その間に報告を行い、対策の指示を仰ぐ。

 確かに、上司の元へは、一刻も早く報告に向かわなければならなかった。

 門番は、決断を下す。

 二人の後を追いかけて、見つけ出すことに賭けた。

 効率よりも優先順位を間違えないことの方が重要なときがある。

 パフッフールから目を離したら途端に、絶対にろくなことにはならないから!

 とりあえず、二人の行き先には心当たりがある。買い物かごを抱えていたので、女性が向かっていたのは市場だった公算が高い。ざっくりしすぎだが、たとえ見つけられなかったとしても、少しでも近くにいることに意味がある。貴族の青年たちが立ち去ったふりをして、女性の後を追っていった可能性も考えられた。もう関わらないようにと釘を差してはおいたが、聞き入れるかは、正直怪しい。そうでなかったとしても、何かあった時に近くにいれば対処できることも増える、それが大事だ。

 最悪、見つけられなかった場合でも、合流すること自体はいずれ叶うだろう。

 今は愚直に行動することが吉だ。

 なんて思っていたのだけれども。

 これはまた拍子抜けするくらい、あっさり見つかったなあ。

 二人は、市場のほんの入り口辺りをうろちょろしていたのだ。

 ちょっと歩けば、パフッフールが露店につかまり、少し進んでは、女性が声をかけられる。

 これでは、どこにも行けないのもむべなるかな。

 一先(ひとま)ずは、二人の姿を確認できたことに胸をなでおろすものの、門番は距離を取ったままで、こっそりと尾行することにした。

 密かに観察して判断材料を得るのもひとつの目的ではあるが、何よりも、楽しげにしているパフッフールの邪魔をしないようにするために。

 こちらの思惑で行動を掣肘(せいちゅう)するのではなく、あくまでも、気分良くパフッフールに過ごしてもらうことこそが今の門番のつとめなのだから。

 こうして、傍(はた)から見ているとパフッフールは、見るもの触れるもの、あらゆるものに興味津々で、しかも、夢中になると、色々と意識から抜け落ちてしまうのがよくわかる。

 そんなパフッフールの対策として、女性は、その手をがっちりホールドしていて、絶対に離さない構え。

 これならはぐれてしまう心配はなさそうだ・・・けど、門番は少しだけ複雑な気持ちになった。

 それにしても、女性は随分と声をかけられている。

 露店とはいえ、市場の入口あたりはいわば一等地、うーむ、女性は、ここいらでは顔がきくのかもしれないな。

 そんなことを考えながら、二人の後をつかず離れずついていく。

 見ていると、女性はずっとパフッフールの好きなようにさせていて、急かしたりする様子も見せず鷹揚に付き合っている。もとからの性格もあるのだろうが、パフッフールのふるまいから感じ取れるものがあったのだろう、聡い娘さんで助かる。

 二人は結構な時間をかけて市場を見て回り、今は、八百屋で野菜を手に取りきゃっきゃしている。

 いったい、カボチャや大根の何がそんなに面白いのか、門番には理解できない世界が、そこにはあるのだろうか。

 おじさんは、寂しくなんかないぞと、ここにはいない誰かに言い訳をしていると・・・、オイオイオイ、嘘だろ、どうなっているんだ今日の街の治安は、さっきの今だぞ!

 まさか、これもドラゴンのなせる技なのか。

 いかにもな風体のチンピラ達が、八百屋の主人に向かって大声を張り上げ、たいそう古典的な脅し文句を唱えている。

「おうおう、誰に断って、ここで商売してるんだ」

 うわあ、待て待て待て待て、お前ら、はやまるなー!


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: