天の道を往き、総てを司る

天の道を往き、総てを司る

第6話 フロンティアサイドの死闘



アークエンジェルからビームとレールガンの弾丸が放たれる。
それをかいくぐり4機のジェニスがマシンガンを構えアークエンジェルへと迫る。

「やらせるかよっ!!」

それをDー1が二問のレールキャノンを放ち迎え撃つがそれをも回避し4機のジェニスはマシンガンのトリガーを引く。

「うおあっ!?」

慌ててそれを避けるが何発かがD-1の黒い装甲を掠め削り取る。
体勢を崩したD-1へとヒートホークを構えたジェニスが間合いをつめて襲いかかる。

「うわあっ!!」

ハンドレールガンを身代わりにしヒートホークを受け止めレールキャノンを放つ。至近距離から放たれたそれはジェニスを撃ち抜き撃破する。
ケーンは使い物にならなくなったレールガンを捨て射程内にいる敵機に手当たり次第にレールキャノンを放つ。
D-1の真下ではメビウス・ゼロがガンバレルとリニアキャノンを交互に連射しながら確実に一機ずつジェニスを仕留めていく。
だが、敵はまだ20機以上のMSと5隻の戦艦を有している。こちらは戦艦一隻にメタルアーマー3機、モビルアーマー一機・・・・・・圧倒的に不利だ。

「逃げ切れるのか・・この戦力差で」

小声で呟きながらフラガは更に一機ジェニスを撃墜した。

「当たれ、当たれ、当たれぇーーーーっ!!」

タップがD-2最強の装備である240mmレールキャノンを敵MSが集中している地点へ向け連射する。
敵機はそれを難なく避けながらマシンガンで反撃、D-2の装甲が少しずつ剔られていく。

「来るなーっ!!」

ハンドレールガンを適当に撃ちまくる。照準も何もあったものではないその攻撃は密集体型を取っていた敵機にはかえって有効であった。
回避しそこねた機体がマシンガンを応酬を受け蜂の巣となり沈黙する。
しかし、その弾幕をくぐり抜けた何機かがアークエンジェルへとマシンガンを連射、いくつかの武装を沈黙させる。

「左舷イーゲルシュテルン沈黙!!」

「スレッジハンマー4番、5番使用不可能!!」

「ゴットフリート、撃てぇーっ!!」

ゴットフリートの砲身を向け敵機へと放つ。敵機は散開してそれを回避。
マシンガンを連射しながら間合いを取る。其処へD-3がハンドレールガンを連射しながら突撃を仕掛けるがそれも難なく回避され更に間合いを取られてしまう。

「クソッ!!いい加減にどっか行けってのよ!!」

手当たり次第にハンドレールガンの弾をばらいて敵の動きを止めようとするが効果は無い。
多勢に無勢、敵との圧倒的な戦力差とパイロットの実力差に押され始めていた。

「此奴ら、どれだけいやがるんだ!!うわっ!!」

ケーンが悪態をついていると真正面からアイボリーカラーのオクト・エイプが50mmガトリングキャノンを構え高速で接近してきていた。

「パイロットは素人か・・・・だが、容赦はしない!!」

ランスローは目の前のD-1に狙いを定めガトリングキャノンを引き金を引く。弾丸が容赦なく放たれる。

「わあああああっ!!」

咄嗟に機体を下がらせ弾丸を回避する。
しかし、その隙をついてきたデナン・ゾンが手に持ったランサーの先端部分を射出しD-1を狙う。

「槍が飛んだ!?」

デナン・ゾンなどが装備する槍型兵器、ショットランサーは先端部分を射出し相手の不意をつき確実に仕留める事を目的とした兵器だ。
まさか槍が飛んでくるなど思いもしなかったパイロットは驚愕のあまり反応が遅れほとんどの場合は貫かれ命を落とす。
他にも相手の至近距離などで射出するなど複数の使い方がある兵器であるショットランサーがD-1の頭部目掛けて射出されている。

「チックショォッ!!」

ケーンは無理矢理に機体を捻らせ直撃を避けようとするがランサーは頭部の左側の装甲をえぐり破壊していった。
衝撃に吹き飛ばされるD-1。スラスターを吹かしなんとか体勢を整える。

『おい、坊主!!大丈夫か!?』

様子を見ていたらしいフラガが通信を入れてくる。

「ああ、なんとか大丈夫だけど・・・・」

ケーンは冷や汗をかきながら通信に答える。
先程の攻撃をかわしきれずに頭部が損傷している。素人でもこの状態はヤバイと言うことはすぐに理解できる。

「こりゃ、一度戻った方がいいかぁ?」

そう思いアークエンジェルへと帰還しようと思った時、D-1のサポートAIクララがケーンに話しかける。

『キャバリアー破損を確認、緊急時によりパージします』

「へ?キャバ・・・なんだって?」

ケーンが戸惑っている間にクララがシステムを起動させる。
D-1を覆う黒い装甲のロックが次々と外されていく。そして内蔵されているスラスターが一気に点火、黒の装甲が分離し中から白い装甲に身を包んだ機体が姿を現す。

「な・・なんだ!?」

ケーンも何が何だかわけがわからず驚きの声をあげる。
それとは対照的にクララは冷静に状況を説明する。

『キャバリアー、パージ完了。戦闘の続行可能です』

そして、目の前のディスプレイに現在のD-1のパラメーター、武装が表示される。

「・・・なんか、わけわっかんねぇけど・・・・とりあえず行ってみるか!!」

ケーンはディスプレイに表示された武器、レーザーソードを抜き近くにいたデナン・ゾンへと斬りかかる。
デナン・ゾンはビームシールドでレーザーソードを受け止める。しかし、D-1はもう一本のレーザーソードを抜きデナン・ゾンの頭部目掛けて突き出す。
レーザーソードは頭部の装甲を溶かし貫く。メインモニタをやられ動揺したデナン・ゾンのパイロットは機体を下がらせるが其処へメビウス・ゼロが飛来、リニアカノンに胸部を撃ち抜かれ爆散する。

『おいおい、D-1が脱皮するなんて聞いてねぇぞ?』

脱皮・・・装甲をパージしてまったく別の機体となったD-1の先程の異変をそうたとえたフラガが通信を入れてくる。

「俺に言われたってしらねぇよ!」

『とにかく、状況は面白くない上にマジでヤバイ。さっさとこっから逃げねぇと・・うおっ!!』

突如、メビウス・ゼロへ弾丸の嵐が降り注ぐ。
見るとランスローのオクト・エイプがガトリングキャノンを連射しつつメビウス・ゼロに狙いを定めていた。

「ガンバレル装備のモビルアーマー・・・エンデュミオンの鷹とか言うパイロットか!!」

「ヤロォ・・・不意打ちたぁ、やってくれんじゃないの!!」

弾丸の応酬を機体を加速させ回避したフラガはアイボリーカラーのオクト・エイプを睨み付けるとガンバレルを展開、リニアカノンと合わせ一斉に連射する。
ランスローは冷静に弾の起動を見切り、機体を操作。弾丸の中をかいくぐりガトリングキャノンを連射、ガンパレルの一つを蜂の巣へと変え粉砕する。
が、フラガもただではやられずにリニアカノンでオクト・エイプの左足を撃ち抜き破壊する。

「「チッ!!」」

すれ違いざまに舌打ちし再び間合いを取り旋回、弾丸を放ちながら一気に突撃を仕掛ける。
アークエンジェルのゴットフリートから太いビームの奔流が放たれ敵機を4機巻き込み撃破し、ドラグナーもアークエンジェルに敵機を近づけさせまいとハンドレールガンで弾幕を張る。
戦闘は激化の一途を辿る。


アークラインのライフルからビームが放たれる。
デナン・ゾンはそれをビームシールドで受け止め、ランサーで串刺しにしようと加速し、迫る。
三連装機関砲を連射し牽制しながら機体を下がらせ、ランサーの突きを回避する。

「っ!!鬱陶しいわね!!」

クレアは自分に食らいつくデナン・ゾンに悪態をつき、腰の後ろからコールドメタルナイフを抜きライフルと共に構える。
かなり長い時間、戦闘を続けている・・・・・・そろそろ勝負を付けないとエネルギーが心許なくなってくる。
まさか、敵がこれほどまでに腕が立つとは予想外だった。自分で言うのも何だが、クレアも自分の腕には割と自身を持っている。
敵と自分の実力は互角・・・・いや、今までの上手い戦い方から見ても相手の方が上だろう。
横目で機体のエネルギーケージを確認する・・・・・・案の定、イエローゾーンに差し掛かろうとしていた。

「これ以上時間かけてらんないわね・・・ダメージ覚悟で決めるしかないか」

ライフルをマシンガンモードへと変形させ、ナイフを構える。
敵のデナン・ゾンもビームシールドを前面に構え、ショットランサーを引く・・・・・・相手も次で決める気だろう。
暫しの静寂の後、アークラインとデナン・ゾンは同時にスラスターを点火、突撃した。
アークラインのマシンガンが咆吼をあげ、エネルギーの弾丸が銃口からはき出される。デナン・ゾンは体勢を崩さずビームシールドで連射される弾丸を防御しながら間合いを積める。
今までの戦いで接近戦ならばこちらが勝っている事はわかった。このまま相手に肉薄しコクピットへランサーを突き刺すという魂胆だ。
二機の距離が零に近づく・・・・・・相手まであと数歩の距離になった瞬間、デナン・ゾンはショットランサーをアークラインのコクピット目掛けて突き出す。
デナン・ゾンのパイロットが勝利を確信する。しかし、クレアはこの攻撃を誘うためにわざと苦手な接近戦へと持ち込んだと言うことに気づくはずもなかった。
咄嗟にアークラインの左腕をのばしナイフをショットランサーの切っ先へと向け突く。真正面から衝突した二機の格闘兵器は互いの衝撃により、ナイフはアークラインのマニピュレーターごと砕け散り、ショットランサーは切っ先が砕ける。

「なにっ!?」

デナン・ゾンのパイロットが驚きのあまり声をあげる。さすがにこれは予想外だったが彼は15年前、宇宙革命軍のパイロットとして生き延びた一人。
すぐに冷静さを取り戻し機体を下げようとするが、クレアの次の行動の方が早かった。デナン・ゾンのコクピットにマシンガンモードのプラズマランチャーが突きつけられている。
トリガーを引き、銃口から閃光と共に敵の命を食らいつくす弾丸がはき出された。コクピットを撃ち抜かれたデナン・ゾンはその場に膝を突き沈黙する。

「ふぅ・・・」

やっと敵を倒したという安心感を噛みしめるようにクレアはヘルメットを取り、頭を左右に振って汗を飛ばす。
水滴となった汗がコクピットにぷかぷかという擬音が突きそうな様子で浮く。
パネルを操作して機体の状態を確認・・・・・・先程の攻防でナイフを構えていた左腕部がかなりのダメージを負っていた。
特に間接などの駆動系が完全に駄目になり左腕は指一本――指は無くなっているが――動かせなくなっている。修理云々と言うより丸ごと交換しなければならないだろう。

「はぁ・・・マードック軍曹に怒られる」

思わず愚痴るように呟く。
ただでさえ、専用機というワンオフ機には予備パーツが少ないのだ。アークラインはベースとなっているゲシュペンストとパーツが共有出来るとは言えゲシュペンスト自体も生産数はMSに比べると大した数ではない。
そんな機体の左腕(あとナイフ一本)を完全に使い物にならなくしてしまったと言えば、間違いなく怒られる。
いくら自分の階級が上でも機体の整備を一手に任せているメカニックには頭があがらないのがパイロットと言うものである。
しかし、愚痴ってどうにかなるものでも無い。クレアはヘルメットを被り直すとスラスターを点火しはぐれたストライクとアークエンジェルの捜索を開始した。


クロスボーン・バンガード旗艦、ザムス・ガル。
そのブリッジでカロッゾ・ロナがザムス・ガル艦長であり、自らの副官的立場にいるジレからの報告に耳を傾けていた。

「ザビーネ隊はすでに担当コロニー制圧を終え、他の部隊の応援に回っております。ドレル隊も同様です、応援は必要ないでしょう」

ジレの報告の内容に満足するように頷くと、フロンティアサイドを襲撃した目的の一つの有無について問う。

「娘は・・・ベラはまだ見つからないのか?」

「はっ、もう暫くかかるかと・・・・それと、ランスロー隊が連合の新造艦を発見、現在交戦中のようです」

「新造艦?」

「今までのどの連合艦とも違うタイプのようです。確認できる艦載機はメタルアーマーが3機、モビルアーマーが1機との事ですが」

「新造艦・・・確かに気になるが、たった一隻の船と4機の艦載機なのだろう?対して障害にもなるまい。ランスローに任せておけ」

それだけ言ってシートから立ち上がり、ブリッジの出入り口へと足を進める。

「格納庫でバグとラフレシアの確認をして部屋で休む。何かあれば伝えよ」

「はっ」

カロッゾの命に敬礼で答えるジレ。
そのままブリッジを後にし格納庫へと足を進めるカロッゾ・・・・・・その途中、壁に背を預け腕を組んでいる男の姿が目に入った。

「これはこれは鉄仮面どの。どちらに?」

その男、ガイリーズが上辺だけの敬語で尋ねる。
決起の数日前に突如として目の前に現れ、連れの少年と共に協力を申し出たこの男をカロッゾは実力こそ認めているものの好いてはいない。
名前は知っているはずなのにわざわざ鉄仮面と呼ぶのは皮肉だろう。

「キサマには関係の無いことだ」

「おやおや・・・嫌われてるようで・・・ククク」

何が可笑しいのか笑みを浮かべる。

「私に何か用か?無いのなら早々に立ち去れ、はっきり言えばキサマは目障りだ。やることが無いのなら出撃すればどうだ?」

「はいはい、わかりましたよ。俺は一応、アンタに雇われてる身だしね・・・・仕事してくるさ」

ガイリーズは鼻歌交じりに自らの機体が用意されている格納庫へと向かう。
その背を鉄仮面の下に隠された瞳に愚別の感情を込めてカロッゾは睨み付けた。


格納庫に着いたガイリーズはメンテナンスベットに固定されている専用の白い装甲の機体へと体を潜り込ませる。

「何か隠し事してるのは確かなようだが・・・・・・まぁ、いい。俺は俺で勝手にさせてもらおう」

正直、カロッゾが何かを企んでいようがいまいがどうでもよい。自分はただ戦いと殺戮と女の悲鳴を思う存分に楽しめればそれで良い。
自分の“本当の雇い主”はカロッゾの計画の詳細をつかめと言っていたが面倒くさい事は後回しだ。
此処に来る前からしていた良い予感が、今までで最高に嬲りがいのある相手が此処にいるという確信めいた感情に従う事が彼にとっての最優先事項なのだから。

「さぁ・・・楽しんでくるか」

カタパルトから純白の機体が発進する。
アスモデウス、色欲を司る魔王の名を冠した機体が解き放たれた。


フロンティア4、市街地。
突然の襲撃により避難警告が全てのコロニーに発令され、このコロニーの市街地も例外ではなかった。
街は荷物も持たず、逃げまどう人々で埋め尽くされていた。

「なんでこういう事になるんだよっ!?」

白い壁のマンションの一室で大急ぎで荷物をまとめながら少年、シーブック・アノーが悪態をつく。
今日は通学しているハイスクールの学園祭で行われていたミスカントリーサイト・・・・俗に言う美人コンテストに出場した―というより無理矢理出場させた―幼なじみのセシリー・フェアチャイルドの優勝に今月の小遣い全部を掛けていたというのに。
セシリーは優勝こそした物の、この騒ぎでうやむやになり結果的に今月の財布の中身は空っぽで・・・・・・とそんな個人的な事はともかく必要な荷物だけをまとめてリュックを背負う。

「くそっ!!無茶苦茶だ!!」

部屋を飛び出しマンションの階段を駆け下りて外へ出る。
すでにマンションの出入り口に面した道路は逃げまどう人々の悲鳴と渋滞した車の鳴らすクラクションに埋め尽くされていた。

「こういうときが車より走って逃げた方が良いだろうに・・・」

ぼそっと感想を漏らしながら人々の流れに従い、逃げようとする。
しかし、シーブックが足を進める前にその行為は止められた。逃げようとした方向にある港口が内側から爆発したかと思うと数十機のMSが飛び出してきたのだ。
明らかに連合軍の機体ではない、つまりは敵と言うことだろう。シーブックは舌打ちし、咄嗟に反対側の港口へと向かい走り出す。
少しでも安全だと思える場所は直感的に反対側の港口しか思いつかなかったのだ。

「高い税金とっといて、連合は何やってんだよ!!」

あっさりと敵に侵入され、民間人から見ても不甲斐ないとしか言いようがない連合にシーブックは苛つきを覚え始めた。


シーブックが目指している反対側の港口。
其処には一隻の白い戦艦、スペースアークと言う名の戦艦が静かに佇んでいた。
元々、練習用の戦艦で満足な装備も無く、また調整中であった事もあり先の出撃からは外されていたのだ。

「コロニーに敵が進入しただと!?」

ブリッジの艦長席に座っていた女性士官、レアリーが報告を受け声をあげる。
まさか、こうも早くコロニーに進入してくるとは予想外だった。出撃した艦隊は何をやっているのだと文句を言いたくなる。

「レアリー艦長代理、どうしますか!?」

目の前の席に座っている操舵士が言う。
このまま此処にいれば敵に発見されやられるのがオチだろう。丁度良いことに敵が侵入してきたのは反対側の港口、此処からならすぐにでも逃げられる。
しかし、こちら側に逃げてくる民間人も少なくはないだろう・・・・・避難ポットもあるが無限では無いのだ。

「・・・・こちらに逃げてくる民間人も多いはずだ。本艦はこの場で待機、逃げてきた避難民を収容する」

しばしの思考の末、逃げてくる民間人を収容する道を選ぶ。

「今から3時間だけこの場で待機。万が一の時のためにエンジンは暖めておけよ」

「は・・はいっ!!」


「敵MS、港に進入します!!」

アークエンジェルのCICを担当しているサイが叫ぶ。
ブリッジのメインモニターに敵のジェニスとデナン・ゾンが港へと進入していく様子が映し出されている。

「今の私たちにはどうしようもないわ。ゼロとドラグナーは!?」

マリューが沈痛な表情を浮かべ叫ぶ。
確かに今の自分たちには敵の侵入を防ぐことは出来ない。此処から逃げる事で精一杯なのだ。

「4機とも敵MS部隊と交戦中です!!」

ミリアリアの報告にナタルが怒鳴るように言い返す。

「振り切れと言え!!このままではなぶり殺しだぞ!!」

「は、はいっ!!」

それに驚きミリアリアが急いで出撃している4機に通信を繋ぎ、振り切るように連絡する。

「振り切れだぁ!?状況見てから言って欲しいね、全く!!」

それを受けたライトは悪態をつきながらトリガーを引き、ハンドレールガンの弾を手当たり次第にばらまく。
ジェニスの腕や足に直撃し、破壊するが敵のマシンガンを受け肩の装甲が吹き飛ぶ。

「うわっ!!」

「ライト!!」

ケーンのD-1が二刀流のレーザーソードを構え、D-3を庇うように敵と交戦する。
ジェニスのヒートホークを一本のレーザーソードで受け止めもう一本で腕ごと切り落とす。
そのまま腹部に蹴りを入れはじき飛ばし、すぐさまハンドレールガンに持ち替え手当たり次第に撃ちまくって弾幕を張る。

「大丈夫か!?」

「ああ、肩をちょっとやられただけだ。動けるさ」

「タップ!!」

ケーンはすぐさまD-2を探す。
D-2はさほど離れていない場所で全身の火器をめちゃくちゃに撃ちまくっていた。

「ちくしょぉっ!!こっちに来るなぁっ!!!」

持ち前の火力を最大限に発揮し弾幕を張るD-2にビームシールドを持つデナン・ゾンなども流石に近づけないようだ。
ケーンとライトもレールガンの弾を込め直し、D-2へと近づく。

「無事みたいだな」

「ああ、なんとかな」

「そろそろ逃げないとジリ貧だ、適当に逃げようぜ・・・・此処を突破するのは骨だけど」

ライトが言うとおり、敵の数はかなりの物だ。
しかも、こっちを逃がすつもりはないのかしつこく追ってくる。

「そういや、フラガ大尉は?」

タップがふと思い出したようにこの場にいないパイロット最年長の人物の名を出す。
彼は今だ、アイボリーカラーのオクト・エイプと交戦中なのだ。

「やっべ、忘れてた!!」

ケーンはすぐにメビウス・ゼロとの通信回線を開く。

「おい、そろそろ逃げねぇとこっちがやられっちまうぞ!!聞こえてるのか!?おい、おっさん!!」

すると、程なく通信機からフラガの怒鳴り声が聞こえてきた。

『誰がおっさんだ!?いいか、俺はおっさんじゃない!!お兄さんだっ!!』

ずいぶんと大人げない答えが通信機から聞こえてくる。
聞きようによっては余裕があるように思えるように聞こえるが、当の本人は全然余裕がなかった。
敵のオクト・エイプが手強い・・・・・・一瞬でも隙を見せれば確実にやられるであろう程の技量の持ち主だ。
いくら、相手の足を撃ち落としているとはいえ振り切って逃げるのは難しい相手だと直感的に悟る。

「えいいっ!!いい加減に鬱陶しいんだよお前はっ!!」

ゼロのリニアカノンをオクト・エイプ目掛けて放つ。
高速で飛ぶ弾丸をランスローは冷静にガトリング砲で撃ち落とし、間合いを詰める。

「接近戦ならばMSに分がある!!」

「そうそう、思い通りになどっ!!」

フラガはレバーを操作、機体を無理矢理に方向転換させオクト・エイプの突撃を回避する。

「チッ!!モビルアーマーにしては良くやる、さすがはエンデュミオンの鷹と言うことか!!」

ランスローはそれを追い、ガトリング砲をゼロの背後に向け連射する。ゼロのようなタイプのモビルアーマーにとって背後は絶対的な死角なのだ。
広範囲にばらまかれる弾丸の応酬。が、フラガは直感的に飛んでくる弾丸の位置を悟り、機体を上昇させ回避する。

「避けただと!?」

それに驚き、動きが止まる。
それはほんの一瞬だったが、この戦いの中では致命的な隙であった。

「隙あり!!うおりゃああああああっ!!」

ゼロをオクト・エイプ目掛け急降下させ、残り3つとなったガンバレルとリニアカノンを連射する。
ランスローは咄嗟に機体を下がらせ致命傷は避けるが、右腕と右足、そしてガトリング砲を破壊されてしまう。

「ぐうっ!!」

フラガはその隙に機体を転回させアークエンジェルへと向かって撤退する。
ランスローはそれを視線だけで追いながら先程のゼロの行動を思い出していた。
背後から撃った攻撃をまるで背中に目でもあるように避けた。あのパイロットは何者だと。

「まさか・・・ニュータイプとでも言うのか・・?」

15年前の戦争で、地球連合軍、宇宙革命軍の双方で最強の戦士と呼ばれた特殊能力を持つパイロット。
ランスローの脳裏にふとその単語が浮かんだ。確かにそうならば、あの回避も納得がいく。
その事を彼は誰よりも知っている。かつては自分もそのニュータイプだったのだから。
この後、ゼロはドラグナー3機と共にアークエンジェルへと着艦。アークエンジェルはローエングリンを放ち敵部隊の動きを封じた後、最大船速でランスローの部隊を振り切った。


「こちらクレア。アークエンジェル、ストライク、聞こえる?」

アークラインの通信機で仲間との通信を試みるクレア。
しかし、帰ってくるのは雑音のみで仲間からの声は全く聞こえてこない。

「妨害されてるか・・・ったく、友軍のコロニーで遭難なんて冗談じゃないわよ」

通信機を乱暴に切り、シートに背を預けて愚痴る。
ひとまず敵の見あたらないフロンティア1の中に隠れ、味方に通信を試みたのだが妨害され繋がらない。
外に出ても、敵だらけで何処にアークエンジェルやはぐれたストライクがいるのか見当もつかない。
早い話が遭難したのだ。何処の世界に味方のコロニーで遭難する軍人がいるだろうか?
クレアはヘルメットを取り、パイロットスーツのロックを外して胸元まで開けると非常用バックにはいっている携帯用食料を取り食べる。
スティック状のこれは味がほとんど無く・・・・・・ってか、不味い。まぁ、栄養はあるし見た目のボリュームの無さとは裏腹に腹持ちするので文句は言えない。

「さて・・・とりあえずは移動かなと」

いつまでも此処にいても仕方がない。
とりあえず、今いる森の向こうに工場のような建物が見えるので其処を目指して機体を歩かせる。
其処へ行けば、簡単な補給ぐらいは叶うだろう。味方との合流はその後でも遅くはない。
が、そうはさせぬと言わんばかりのタイミングで真上の太陽光を取り込むためのミラーが割れたかと思うとミサイルの雨が降り注ぐ。

「っ!?」

機体を下がらせ、ミサイルの雨を避ける。
ミサイルの着弾による爆発で森は焼かれ、焦土と化す。

「敵!?」

「妙な電波を拾ったが・・・・これはこれは、獲物がいたか」

割れたミラーから純白の装甲に包まれた人型機動兵器がゆっくりと降下してくる。
両腕からブレードが伸びており、背中にはその細身の機体形状には不釣り合いな重武装を持つ。
その機体、ガイリーズが駆る色欲の魔王、アスモデウスがアークラインの前に降臨する。
彼は適当に見つけた連合の機体を狩っていた最中にクレアが発した通信を偶然にも傍受しアークラインを発見したのだ。

「こんな時に敵に見つかるなんて・・・・ついてないわね」

クレアは機体のチェックを行いながら悪態をつく。
左腕部は完全に動かない・・・・・・残りの武装は可変型プラズマランチャーと2連装プラズマデリンジャーのみ。
残りのエネルギーも少し心許ない、オマケに相手の性能は未知数・・・・・・状況は自分に不利な方向へと流れている。

「こんなに不利な状況に追い込んでくれて泣けてくるわね」

こんな状況では逃げることもかなわないだろう。
クレアはアークラインのプラズマランチャーを構える。

「戦うか、いいねぇ・・・そういう悪あがきをする奴は大好きだ」

ガイリーズは笑みを浮かべ、アスモデウスの右腕ブレードを中央から開く。
開かれた刀身からエネルギーが迸り、紫電が走る。

「さぁっ!!足掻け!!」

刀身から高出力のエネルギー弾が放たれる。

「っ!!」

アークラインを右に走らせ回避。マシンガンモードのプラズマランチャーを連射し牽制する。
アスモデウスはそれを避け、チャージを最小に設定しエネルギー弾を連射する。
それと同時に左腕のブレードも展開させ、エネルギーをチャージ。最大出力になった時点でそれを放つ。
クレアはアークラインの左足を軸に無理矢理に機体を捻らせそれを避けマシンガンを連射する。

「ほおっ、良い動きだな!」

マシンガンを避け、パックバックからミサイルを放つ。
発射口から垂直に撃ち出されたミサイルはホーミング性能もあるのだろう、正確にアークライン目掛けて飛来してくる。

「チッ!!ウザイ武器積んでんじゃないわよ!!」

マシンガンをミサイル目掛けて連射。いくつかのミサイルを撃墜し、残りも爆発に巻き込まれ消滅する。

「ハハハハッ!!なかなかやる、最高だよお前!!」

両肩のガトリング砲を連射しながらアークライン目掛け突撃をしかけるアスモデウス。
舌打ちし、マシンガンをライフルモードに変形させながら後退し相手の間合いから離れる。
接近戦に持ち込まれればこっちが不利だ。

「おっと、嫌でも接近戦をしてもらうぞ!!」

右腕の手首からワイヤー状のスタンビュートが射出される。
それはアークラインの右腕に巻き付き、拘束する。

「なっ!?」

スタンビュートが放電を開始する。
巻き付かれたアークラインの右腕は放電のエネルギーに耐えられず内部から吹き飛び破壊される。

「うあっ!!」

更に左腕からもスタンビュートが射出され、アークラインの右足に巻き付く。
今度は放電せずに、そのまま足を引っ張りあげバランスを崩させる。
為す術無くアークラインはバランスを崩し、仰向けに倒れる。

「あうっ!!」

倒れた衝撃で頭を強くうち、クレアの意識が遠のく。

「う・・・っ・・」

何者かが機体のコクピットハッチを外から開け放ち、中を覗き込む様が見えた後、彼女の意識は闇へと沈んだ。

「・・・ほぉ、これはこれは・・」

コクピットを開け放った何者か・・・・・・ガイリーズはコクピットの中で意識を失っているクレアを見て笑みを浮かべる。
動かなくなったので戦っていた白い機体のコクピットを開け、パイロットの顔でも拝もうと思ったのだが・・・・・・中にいたのは見た目、10代後半の少女だ。
顔もスタイルも自分好み、見るからに嬲りがいのある女だ。此処に来る前から感じて良い予感は見事に的中した。

「さて、仕事は一時中断・・・・・・お楽しみに入らせてもらおうか」

ガイリーズはクレアをコクピットから連れ出すと、すぐ近くにあった工場へと足を運ぶ。
此処ならば誰にも邪魔はされずに楽しめるだろうとどす黒い欲望に忠実に従い行動する。
仕方なかったとはいえ数年もの間、女の泣き叫ぶ姿で楽しんでいないのだ。誰にも邪魔はさせない。
ガイリーズの顔は、醜く下劣な笑みを浮かべていた。


ストライクとレヴィアタンの戦闘は激しさを増していた。
互いのビームサーベルがぶつかり合い火花を散らす。桁違いの出力のレヴィアタンのサーベルがストライクのサーベルを押し切り吹き飛ばす。

「くっ!!」

レヴィアタンのサーベルがストライクの装甲を溶かし、斬撃の後を残す。
キラはもはや使い物にならないであろうシールドを投げ捨てビームライフルを構え、連射する。

「当たれぇぇぇっ!!」

叫びながらビームを連射するキラ。
ミスティックはフンと鼻で笑うと全てのビームをサーベルではじき返し、胸部のビーム砲を放つ。
キラは歯がみをしながら機体を下がらせ、ビームを避ける。
ミスティックはレヴィアタンを加速させ、その勢いを上乗せした膝蹴りをストライクの頭部に決める。

「うわああああっ!!」

そのままコロニーの外壁に叩きつけられる。
ミスティックはレヴィアタンをストライクを見下ろせる位置で停止させ、落胆の表情を浮かべていた。

「弱すぎる・・・弱すぎるぞ」

ここまで張り合いがないとは思わなかった。
この程度の腕前では殺す価値すら無い。ため息をつき、ストライクに背を向ける。

「・・・どういうつもりだ?」

「その程度では殺す気にもなれん・・・興ざめだ。次に会うときまでに腕をあげておくんだな」

そう言い残し、レヴィアタンは宇宙の闇へと消えていく。
その場には呆然とその後を眺めるストライクとキラが取り残された。


「先程の戦闘で艦の戦闘力は65%にまで低下・・・・・・各機も現在、整備中。今襲われたら確実に沈むわね」

報告書に目を通しながらマリューが言う。
たった一隻と4機の戦力であの艦隊から逃げおおせれただけでも御の字だが、敵艦隊に与えたダメージに比べればこちらが受けたダメージがやはり大きい。
去り際にローエングリンのキツイ一撃をお見舞いしたと言っても与えられたダメージなど、敵の規模に比べれば微々たる物だろう。

「ふぅ・・・アークラインとストライクはまだ見つからないの?」

「はい、レーダーはジャミング酷く・・・・・・通信も妨害電波が飛び交っており繋がりません」

「状況は最悪だな・・・泣けるぜ」

マリューの横に立っているフラガがため息混じりに言う。
何時出撃となるかも解らない状況であるためパイロットスーツのままブリッジに上がっている。

「フラガ大尉、ドラグナーの三人は?」

「ブリーフィングルームで休ませてる。今は休める時に休んでおかないとな・・・と言うことで、今の状況も聞いたことだし、俺も一眠りしてくるよ」

そう言い、フラガは手を振りながらブリッジを後にする。
こんな状況でも一眠りするという当たり、かなり図太い神経をしていると言うか、肝が据わっているというか・・・・・・・。

「しかし艦長・・・・・・これからどうするのですか?レナード少尉とキラ・ヤマトを探すにしても長くとどまればこちらが沈みます」

ダグラスが言う。
彼の言うとおり、長居をしているとこちらが敵にやられ、沈んでしまう。
本来なら二人を見捨て、フロンティアサイドから逃げるべきなのはマリューにも解っているが二人を見捨てるという事に引け目を感じ、決断できずにいる。

「とりあえず、このままでいるのはどのみち危険ね。まだ生き残っている友軍が何処かにいるはずよ、それとの合流をまずは最優先に行動するべきね。二人の捜索と並行して友軍との合流を目指します」

「了解」

マリューの指示に従い、友軍との合流を目指しエンジンを始動させるアークエンジェル。
友軍との合流前に敵襲を一度でも受ければ一巻の終わりという危険な宙域の航海が始まる。


同時刻、アークエンジェルより少し遅れてフロンティア4を脱出したスペースアークの格納庫では一人のパイロットが愚痴を漏らしていた。

「たった一隻、オマケに練習艦で逃げ切れるのかよ・・」

そのパイロット、ビルギット・ビリヨはミネラルウォーターの入ったボトルを飲み干し格納庫を見渡す。
練習艦であるこのスペースアークの格納庫に搭載されているMS二機のうち戦力となるのはたったの一機、彼の乗る時期連合軍主力候補MS、ヘビーガンだ。
先月ロールアウトしたばかりの機体で性能も良いが、たった一機だけではどうにもならない。
オマケにスペースアークの武装は貧弱そのもの・・・・・・これほど素晴らしく悲劇的な状況が他にあるだろうか。

「頼みの新型はパイロット未定のままときたもんだ・・・・・いいねぇ、こういう状況」

皮肉を言いながら格納庫の奥で寝かされているメンテナンスベットを見やる。
その上に固定されているのは、白い装甲に身を包んだ新型、F91というコードネームのMSだ。
モルゲンレーテが開発しているという新型MSに対抗しサナリィが総力を挙げて開発した機体らしい。
その開発には15年前、連合が開発した最強のMSガンダムのデータを参考にしたとか聞いている。すでに完成はしているが肝心のパイロットが未定なのだ。
パイロットのいないMSなど、ただの鉄くず人形でしかない。スペースを無駄に取る邪魔なガラクタだ。

「ん?」

ふと、一階の出入り口から格納庫に入ってくる民間人の少年が目に入った。
整備員達は仕事で忙しく気がついていない。民間人の格納庫の出入りは禁止となっている。
「やれやれ」とため息を突きつつ、壁を蹴って少年に近づく。

「おい、民間人の格納庫への出入りは禁止だぞ」

「あ、すいません。暇つぶしにぶらついてたら迷っちゃって」

「まぁ、暇なのはわかるがこっちも忙しくてな。避難民に宛われてるスペースは其処の階段をあがった四階だから・・・」

ビルギットが少年に道を教えていると、艦中に警報のサイレンが鳴り響いた。
それと同時にアナウンスが流れる。

『総員第一戦闘配備、パイロットは出撃準備願います』

「マジかよ!!オイ、お前はとっとと艦の中央に避難しろ!!」

こんな練習艦の一隻ぐらい見逃せよと心の中で悪態をつきながら自分の機体であるヘビーガンのコクピットへと潜り込む。
中に放り込んだままのヘルメットを被り、コクピットハッチを閉じると同時にブリッジにいるレアリー艦長代理から通信が入る。

『敵はMS5。偵察中の部隊のようだが油断するな』

「たった一機で五機も相手にしろってのか!?』

『こちらからも援護はする。逃げ切れれば良い』

「無茶言ってくれる」

ヘビーガンを起動させ、ビームライフルとシールドを手に持ちカタパルトへと移動する。

「ビルギット機、出るぞ!!」

カタパルトからヘビーガンが射出され出撃する。
すぐに敵機を確認、ジェニスが二機と新型らしきランサー型武器を持つ機体、デナン・ゾン二機にベルガ・ギロスが一機。
新型とは言え量産型でしかないヘビーガン一機で何とか出来る相手では無いのは明らかだ。

「チッ、俺もついてねぇな!!」

牽制の意味も込めビームライフルを放つ。それをデナン・ゾンがビームシールドで受け止める。
そして、ジェニスがヒートホークでヘビーガンに襲いかかり、デナン・ゾンとベルガ・ギロスがスペースアークへと迫る。

「抜かれた!?くっ!!」

シールドでヒートホークを受け止めジェニスの腹部を蹴り飛ばす。
もう一機のジェニスがヒートホークを振り上げ襲いかかる。それを機体を下がらせることで避け頭部バルカンで牽制し間合いを取る。

「チッ!!此奴らっ!!」

二機のジェニスにビルギットが手間取っている隙に二機のデナン・ゾンとベルガ・ギロスはスペースアークへとショットランサーに内蔵されているマシンガンの銃口を向け、引き金を引いた。


3機のMSのマシンガンの応酬が容赦なくスペースアークを襲う。
激しい振動により、艦内の人々は悲鳴をあげ備品が飛び散る。

「うわっ!!」

格納庫にいた少年、シーブック・アノーは振動によりバランスを崩し壁に背を打ち付ける。
さっき出たパイロットは何をやっているんだ、このままではこの戦艦は沈んでしまう。
ふと、メンテナンスベットに固定された白いMSの姿が目に入った。このMSは出撃する様子がない。

「そこの白い機体は出ないんですか!?」

思わず近くにいた整備員に問いかける。
整備員は怒気を含んだ声で言い返す。

「パイロットがいないんだよ!!うおわっ!!」

再び襲いかかる振動。
シーブックは壁にもたれかかり舌打ちする。

「こんな所で死んでたまるか!!」

次の瞬間、シーブックは白いMSのコクピットへと向かっていた。
誰も乗らないのなら自分が乗って動かしてやる。何もしないまま死ぬよりはマシだ。

「おい、お前何してる!!」

整備員が止めるのも聞かず、コクピットに潜り込む。
シートの上に置かれていたマニュアルを開き、それを読みながら機体を起動させる。
ハッチを閉じ、計器に火を入れていく。

「このMS、F91って言うのか・・・行ける・・・動かせるぞ!!」

レバーを引き、固定器具を引きはがしながら立ち上がらせる。
完全に立ち上がり、アイカメラに光が灯る。

「よ・・よし、行くぞ!!」

ぎこちない動きでカタパルトへと向かい、壁に掛けられていたビームバズーカを手に取る。
そして、そのまま格納庫の外に続くカタパルトの上へと出、甲板を蹴り宇宙へと飛び出した。
出撃したF91に気がつき、3機のMSがマシンガンを構え向かってくる。

「く・・来る!!」

シーブックはビームバズーカを構え、トリガーを引く。
バズーカから放たれたビームは真っ直ぐにデナン・ゾンへと伸びる。
デナン・ゾンはビームシールドを展開するが、その出力を受け止めきれずに左腕がビームに飲み込まれる。

「F91だと、誰が乗ってる!?」

ジェニスと戦っていたビルギットはスペースアークの側で起きた敵機の爆発と起動しているF91を見て驚く。
確か、あの機体はパイロットが決まっていないはず。それにスペースアークにいたパイロットは自分だけのはずだ。
ビルギットはジェニス二機に向けビームライフルを適当に連射、牽制しながらF91へと近づく。

「おい!!F91、誰が乗ってる!!」

「その声、さっきのパイロットの人ですか!?」

「お前、さっきの民間人か!?何でそれに乗ってる!!」

「話は後でしょう!!俺だってこんな所で死にたくないんですよ!!」

そう言ってシーブックはビームバズーカを放つ。
それは見事にジェニスを捉え、その機体をビームの奔流に完全に飲み込み破壊する。

「後で話は聞かせてもらうからな!!」

ビルギットもビームライフルを撃ち、ビームシールドを失ったデナン・ゾンの胸部を撃ち抜き破壊する。
ぎこちない動きながらも見事にF91を操縦するシーブックの腕に目を見開きつつビルギットは彼のフォローに回る。
F91がジェニスに向けビームバズーカを放つ。それを避けたジェニスに向けヘビーガンのビームライフルが放たれ撃ち抜き破壊する。

「よし、残り二機!!」

「逃げ切れればいいんだ!!無茶はするなよ!!」

その時、レーダーが新たな反応を捉える。
何事かとレーダーを見ると敵機らしき反応が十数ほど、レーダーに映し出されていた。

「敵の増援・・・クソッ!!」

敵の応援、戦艦2隻にMS12機の大軍。
いくらなんでも圧倒的すぎる戦力差だ。完全に勝ち目も、逃げ切る事も出来ないだろう。

「ここまでか・・・」

レアリーが諦めの言葉を漏らす。
もはや打つ手は無い。今からでは逃げ切る事も不可能だ。
クルー全員に絶望感が漂い始めていた時、一方的な通信が入る。

『そこの戦艦、衝撃に備えてください』

「な・・何?」

その通信はヘビーガンとF91にも繋がっていた。

『そこのMS二機は下がってください、巻き込まれますよ』

「何!?」

「一体どういう・・・」

二人が思考しつつも言われるがまま機体を下がらせた直後、敵艦隊の真横から突如として莫大なエネルギーの奔流が放たれた。
それは敵艦隊を飲み込み、一瞬にして撃墜。全滅させる。

「なっ・・・」

目の前で起こった出来事に声を失い唖然とするシーブック。
そんな彼らの前に一隻の戦艦が姿を現した。白と青のカラーリングが施された独特の形状をしている戦艦。
それは連合軍ではあまりにも有名な戦艦。

「あれは・・・・・・ナデシコBか」


「敵部隊の全滅を確認しました。友軍は無事です」

「そうですか、すぐに合流しましょう。格納庫の二人にはそのまま機体で待機していてもらうよう言っておいてください」

ナデシコBのブリッジでオペレーターの少年の報告を受けた艦長席に座る銀髪の長髪をツインテールにまとめた金色の目の少女がすぐに指示を出す。
少女の名はホシノ・ルリ。電子の妖精と呼ばれる16歳の連合軍最年少艦長。


続く


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