天の道を往き、総てを司る

天の道を往き、総てを司る

後編



アークエンジェルの火器が放たれ、近づいてくる敵機を牽制する。
敵もやはりダメージが一番大きいアークエンジェルに戦力を集中させてきている。
弱いところから潰していくのは基本中の基本とも言える戦術だ。

『艦長! あまり連発しすぎないでくだせぇ! 修理したっつっても殆ど応急処置なんですから冷却が追いつきませんよ!』

通信機からマードックの悲鳴のような声が聞こえてくる。
先遣隊の残骸から回収した部品での修理にはやはり限界があり、早々連射できる程には回復していない。

「バジルール少尉!」

「そんな事を言われても困ります! イーゲルシュテルンやコリントスだけで対応できる数ではありません!」

最初の主砲一斉射で数はそれなりに減らせた物の敵の数は多い。
とても機銃やミサイルだけで対応出来る数では無い。

「でも、酷使しすぎて爆発しては元も子もないわ。使用は極力抑えて!」

「……了解。ゴットフリード二番を収納。一番も連続使用は押さえろ。コリントスとイーゲルシュテルンで敵機を牽制」

マリューの指示に従い、ナタルはゴットフリート二番を収容させる。
代わりにコリントスとイーゲルシュテルンを掃射し、近づく敵機を牽制する。

「D-2とD-3……アークラインは何をしている! 艦に敵を近づけさせるな!」



「幾らなんでも抜かれすぎだってば……これは!」

甲板から飛び上がり、移動しながらの攻撃に切り替えたアークラインのコクピットでクレアがぼやく。
前衛に出ているのがストライクとD-1のみと言うのもあるのだろうが、それを抜きにしてもこちら側まで敵機に抜かれすぎだ。
作戦の為とは言え、ムウが前衛にいないのが少なからず影響しているのだろう。

「ブリッジ。私も前に出た方がいいんじゃない?」

『なっ……レナード少尉。今の貴女に前衛は……』

「キラ君とケーン君だけじゃキツイですよ。病み上がりでも二人の援護ぐらいは出来ます」

クレアの言葉に、マリューは若干渋る。
彼女の怪我は完治した訳ではない為、本調子という訳ではない……前衛に回しても何処までやれるか解らない。
しかし、キラやケーンだけでアークエンジェル正面の前衛を勤めるのは厳しい物があるのも事実。

『……わかったわ。ただし、無茶はしないで』

「言われずとも、無茶はしませんよ」

ブリッジとの通信を切り、すぐにライトとタップへ通信を繋ぐ。

「タップ君、ライト君、前に出るからこっちお願いね」

『姉さん、体大丈夫なんですか?』

「大丈夫よ。そっちこそ、二人だけになるけど大丈夫?」

『こっちはこっちでなんとか持たせますよ』

「OK。それじゃ、任せるわよ」

通信を切り、アークラインを移動させる。
それを確認したタップとライトは深呼吸をし、それぞれの機体の武装をチェックする。

「タップ、姉さん抜けても大丈夫か?」

「そりゃこっちの台詞だっての」

冗談を言い合い、D-3はハンドレールガンを連射しながらアークエンジェルに近づく敵機を牽制する。
D-2も背中の240mmレールガンを放ち、手近にいたジンを攻撃する。

「最初に言っとくぞ! 今日のD-2はご機嫌だぜぇ!」

二機の攻撃とアークエンジェル自身の火力でこの場はなんとかなる事を確認しつつ、クレアは機体を前衛へと急がせる。
途中、アークラインに気付いた二機のジンがマシンガンを向け追いすがる。

「チッ……うざったいわね!」

弾丸を放ってくるジンを確認し、振り向き様にプラズマランチャーを連射。
一機のコクピットを撃ち抜き、すぐさまもう一機へと狙いを定める。

「照準……いただき!」

引き金を引き、放たれたビームがジンのコクピットを貫き破壊する。
撃墜を確認し、クレアはすぐにアークラインを加速させ前衛へと回る。

「こうも敵が多いと前衛に回るのも一苦労ね……っと!」

更に右方向から銃撃が襲いかかり、それを避ける。
撃ってきたのは3機のジン……その中の一機はオレンジ色に塗装されたカスタム機。

「あのオレンジ……ヘリオポリスの時の!?」

「アイツ……フンッ、俺にも運が回ってきたか!」

アークラインの姿を発見したミゲルは笑みを浮かべ、機体を向ける。

「あの白い奴は俺がやる! お前らは足つきを潰せ!」

マシンガンをアークラインへと放ちながら、ミゲルのジンが突撃する。
クレアは左腕の三連装マシンガンで牽制しつつ、ジンとの距離を取る。

「ヘリオポリスの時の借りは返させて貰うぞ!」

「しつっこいわね……この、オレンジなんだから全力で見逃しなさいよ!」

前衛に回るだけでこうも面倒が連続する事に苛つきを覚えながら、クレアはミゲルのジンへ向け、プラズマランチャーの引き金を引いた。



シーブックのF91はビルギットのヘビーガンと共にスペースアークの防衛についていた。
こちら側も敵機が多く、MS2機と練習艦の火力で防ぐのは少々骨だ。

「敵が多すぎる……どうしろってんだ!?」

ビームランチャーでジンの胸部を撃ち抜きながらシーブックが叫ぶ。
アークエンジェルやナデシコへの攻撃も激しく、こちらへ応援を回す余裕は無いだろう。
故にここは自分達だけで押さえるしか無いのだが……。

「レーダーに反応? 新手か!」

即座に機体を反応があった方へと向ける。
その方向から、デュエルとバスターがこちらへ接近してくる。

「あの機体……この間の!」

「奴は……この間のガンダムか!」

F91の姿を確認したイザークはデュエルのビームサーベルを抜き、F91へと襲いかかる。

「この間の続きだ!」

「クソッ! しつこい!」

デュエルのビームサーベルを左腕のビームシールドで受け止め、マシンキャノンで牽制。
十分距離を取った所でビームランチャーを発射し、デュエルを狙う。

「チィッ!」

イザークは放たれたビームをシールドで受け止め、ビームサーベルをビームライフルに持ち替え反撃する。
それを左腕のビームシールドで受け止めながら、シーブックはビームランチャーを放つ。

「イザーク、援護しようか?」

ディアッカが通信機越しに茶化すような口調で言う。

「フンッ! コイツは俺がやる! キサマは敵艦でも狙っていろ!」

「へいへい。全く、血が上りやすい事で」

この間の戦闘で突然の引き上げ命令の為に決着がつけられなかった事が余程不満なのだろう。
意地でもF91との決着を自分一人で付けるつもりなのだろう。
こういう時のイザークに下手にちょっかいを出すとこっちまで巻き添えを食いかねない。

「大人しく戦艦狙っときますか」

ディアッカはバスターをスペースアークへと向かわせる。
これ以上イザークにちょっかいを出すのは辞めて、自分は大人しく文字通りの大物狙いといこう。



三隻がザフト、ギガノスとの攻防を繰り広げている間……ムウの乗るメビウス・ゼロは戦場から離れた宙域をゆっくりと移動していた。
敵の注意が戦艦三隻に向いている隙にムウが単機で隠密行動を取り、敵艦の一隻……ヴェザリウスを直下から攻撃するというのが彼の考えた作戦だった。

「さぁて……あと少し。あと少しだ……」

ヴェザリウスまであと少しの距離まで来ている。
このまま行けばあと1~2分で到着し、ヴェザリウスへの攻撃が可能となる。
しかし、そう簡単に物事は運ばなかった。

「っ!?」

不意に気配を感じ、機体を捻らせる。
直後、さっきまで機体が移動していたポイントへ直上から弾丸が連続して撃ち込まれる。

「くっ……この気配は……クルーゼ、キサマか!」

「フンッ。戦場に姿が無いと思えばこういう事か……私も出撃していて良かったよ」

クルーゼの駆るシグーはメビウス・ゼロへマシンガンを向け、引き金を引く。
弾き出された弾丸がメビウス・ゼロを襲う。

「クソッ! こんな時にばかり出てきやがって!」

弾丸を避け、ガンバレルを展開。
シグーの動きを追いながら、ムウはアークエンジェルへと電文を送る。

「作戦は失敗か……クソッタレ!」



「フラガ大尉より電文! 敵隊長機の襲撃にあい、敵艦への到達不可能。作戦失敗です!」

「何だと!?」

ダグラスが悲鳴のような声をあげる。
敵の旗艦を狙うという作戦自体無謀ではあったが、成功すれば一気に流れをこちらに引き寄せる事が出来る作戦だった。
それが失敗したとなれば、この状況を正攻法……力押しで切り抜けるしかない。

「フラガ大尉をこちらに呼び戻して。単独だと危険だわ!」

「全機、作戦は失敗した! 繰り返す作戦は」



「作戦失敗!? マジかよ!」

ダインをレーザーソードで真っ二つに切り裂きながら、ケーンが叫ぶ。
出撃前にムウが「絶対成功させてやるさ」と意気揚々と出撃していただけに失敗の二文字は痛い。

「キラ、こいつぁヤバイぞ!」

「解ってる! クソッ……数が多すぎる!」

ビームライフルでジンを撃ち抜き、破壊しながらキラはレーダーとモニターに映る敵機に苛つく。
一体どれだけ戦力を持ってきたのか倒せど倒せど敵機の数は一向に減らない。
ストライクのエネルギーはイエローラインに差し掛かってきている。

「俺達二人じゃ押さえきれねぇぞ! どうすりゃいいんだ!」

重斬刀で斬りかかってきたジンの攻撃をシールドで受け止め、即座に腹部を蹴り飛ばす。
ストライクもイーゲルシュテルンで近づいてくるゲバイを牽制し、D-1と合流する。

「ここから下がるとアークエンジェルが危ない……どうにか、僕達で持たせないと」

「持たせるってどーやってだよ!? いくらなんでも多勢に無勢だろ!」

「そりゃそうだけど……っ!? ケーン、上!」

ストライクのレーダーに反応が捉えられ、直上から砲撃が来る。
弾かれるようにそれを避け、二人はビームを撃った相手……キャットゥスを構えたシホのジンを確認する。

「避けられた……? クッ!」

やはり対艦戦はともかくMSやメタルアーマー相手では、キャットゥスは取り回しが悪すぎる。
シホはそれを投げ捨て、腰にマウントしていたマシンガンへと持ち替えD-1へと攻撃を仕掛ける。

「メタルアーマーは私が押さえます! アマルフィ先輩はガンダムを!」

「解りました! 気を付けてください!」

通信機で行われたやり取りの直後、ストライク目掛けて何もない空間からビームが放たれる。

「なっ!?」

咄嗟にシールドで受け止め、ビームを防ぐ、
その直後、目の前の空間にミラージュコロイドを解除したブリッツが姿を現す。

「恨みはありませんが……落とさせて貰います!」

「コイツはっ!」

ブリッツのビームサーベルをシールドで受け止め、ストライクもビームサーベルへ武器を持ち替え斬りかかる。

「なんだあのMS、いきなり出てきやがって……うおあ!?」

ストライクとブリッツに気を取られている隙にシホのジンがD-1へとマシンガンを連射しながら重斬刀を振り下ろす。
咄嗟に避け、レーザーソードを振るい間合いを離す。

「戦闘中に余所見……馬鹿にして!」

「クソッタレ! もうちょい手加減しろってんだ!」

左手に握るシールドを投げ捨て、ハンドレールガンを構え、シホのジンへと弾丸を連射する。



ワイバーンのヒートクローがファルゲンの放ったミサイルを薙ぎ払い、叩き落とす。
ファルゲンは負けじとハンドレールガンを連射。それをシールドで防ぎながら、ライルは腰のグレネードを放つ。

「チッ……大型の割には素早い反応だ。パイロットの腕が良いのか」

ワイバーンの動きを見て、舌打ちしながらマイヨは呟く。
運動性、機動性に置いてはこちらが上なのは明らか……しかし、こちらの攻撃や動きを的確に読み、反撃してくる。
パイロットの腕が余程良いのだろう。

「フッ、面白い。久しぶりに本気になれると言うものだ!」

レーザーソードを引き抜き、ワイバーンとの間合いを詰める。

「接近戦かよ!」

胸部のビーム砲を放つが、ファルゲンはそれを軽々と避けワイバーンの懐へ肉薄する。

「貰うぞ!」

「チィッ!」

ファルゲンのレーザーソードがワイバーンの脇腹を焼き切る。
ライルはヒートクローを振るうが、俊敏に動くファルゲンを捉えきれず、空振りに終わる。

『接近戦は不利だ。距離を取れ』

「言われなくてもわかってんだよ、糞AI!」

右腕の龍の頭部を模した武装を向け、顎を開く。
内部に取り付けられた銃口にエネルギーが集中し、一気に放たれる。

「むぅっ!?」

マイヨは機体をそらし、それを避ける。
だが放たれたビームの余波で左肩の装甲が溶解し、内部のフレームが一部顔を覗かせる。

「なんという出力だ……しかし、連射は出来まい!」

ハンドレールガンでワイバーンを牽制し、再びレーザーソードを構える。

「クソがっ! ちょこまかと動きやがって!」

接近してくるファルゲンに悪態をつき、ライルはワイバーンを下がらせながら、ビーム砲とグレネードランチャーを発射する。



アークラインのプラズマランチャーから放たれたビームがミゲル機の右肩を掠め、ミゲル機が放ったマシンガンの弾丸がアークラインの左足を掠める。
そのまま2機は互いの横をすり抜け、距離を取って再び銃撃を開始する。

「くっ……この……ウロチョロしてんじゃないわよ!」

しつこくまとわりつくミゲルのジンに悪態をつきながら、クレアは機体のエネルギー残量を確認する。
ギリギリでブルーゾーンだが、何時イエローゾーンに入ってもおかしくない。
ミゲルを振り切るか倒すかして早いところ前衛に回らねば成らないのだが、そう簡単にはいかないようだ。

「どうした、白い奴! この程度かぁ!?」

重斬刀を抜き、ミゲルのジンが接近戦を仕掛けてくる。
クレアは左腕の三連装機関砲で牽制しつつ、接近されまいと距離を取る。

(接近されたら結構キツイわね……なんとか距離を取っておかないと)

脇腹を押さえながら心の中で呟く。
やはり怪我が治りきっていない体での戦闘はキツイ……振動が傷に負担を掛ける。
ただでさえ接近戦は苦手な上に怪我が治りきっておらず、病み上がりな今の状態では押し切られて負けるのは目に見えている。

「ヘリオポリスの時より動きが悪いな……本調子じゃないのか、パイロットが違うのか……まぁ、どっちでも良いさ」

以前戦ったときよりも動きが妙に悪いアークラインをミゲルは疑問に思うが、大した問題ではないと考え直す。
この機体にやられた雪辱を晴らせればそれで良い。

「迂闊に接近してはあの隠し武器にやられるからな……隙を見て一気に決める!」

空いている右腕でマシンガンを構え、トリガーを引く。
以前は迂闊に接近した結果、この機体が隠し持っていたデリンジャーにより敗北を喫した。
二度も同じ失態を繰り返すほどの馬鹿ではない。

「今回は勝たせて貰う!」

「くぅ……コイツ、ちょこまかと!」

持久戦に持ち込まれればこちらが不利だ。
機関砲の残弾数も残りは余裕があるとは言えず、エネルギーもイエローラインに差し掛かり始めている。
デリンジャーは一か八かの切り札で、迂闊には使えない。
かといってこのまま何時までも戦闘を続けているわけにもいかない。

「……こうなったら!」

クレアは機関砲を近くに浮遊していた戦艦の残骸……エンジン部へと向けて放つ。
撃ち抜かれたエンジンは爆発を起こし、ミゲルのジンの動きを僅かに鈍らせる。

「うおっ!」

思わず機体を下がらせ、アークラインとの距離を離すミゲル。
その隙にクレアはプラズマランチャーの銃身を引き延ばし、スナイパーモードへと変形させ、両手で構える。
狙撃用スコープを引き出し、照準をミゲルのジンのボディへと合わせる。

「……照準セット、撃つ!」

トリガーを引き、スナイパーモードの銃口からビームが放たれる。
放たれたビームは真っ直ぐミゲルのジンへと向かい、その胸部を撃ち貫く。

「何ぃ!? うわああああああっ!」

エンジンを撃ち抜かれたジンから脱出する暇も無く、ミゲルの体は機体の爆発に飲み込まれ燃え尽きる。
撃墜を確認し、クレアはプラズマランチャーをライフルモードへ戻し、一息ついて機体を反転させる。

「ふぅ……時間掛けすぎたわね。さっさと前衛に……っ!?」

すぐに前衛の二人の援護へ回ろうとするが、そこへ高出力のビームが放たれアークラインの動きを止める。
ビームが飛んできた方を見やると、MA形態のイージスが高速でこちらへと接近してくるのが確認できる。

「次はイージス!? ったく、こっちは病み上がりなんだから手加減してよ……」

プラズマランチャーを放ちながら、イージスとの距離を取る。
イージスもMS形態へと変形、シールドでプラズマランチャーの攻撃を防ぎながら周囲に浮かぶオレンジ色のジンの残骸を確認する。

「これは……っ! ミゲルがやられたのか! クソッ!」

アークラインを睨み付け、ビームライフルを放ちながら接近する。
クレアはプラズマランチャーをマシンガンモードに変形させ、左手でコールドメタルナイフを抜く。
プラズマランチャーを連射、アスランはそれをイージスのシールドで受け止めながら右足裏からビームサーベルを伸ばし振り上げる。

「くぅっ!」

機体を下げ、ビームサーベルを避ける。
コールドメタルナイフを振るうがイージスのPS装甲に弾かれ、防がれる。

「ミゲルの仇、取らせて貰うぞ!」

シールドを投げ捨て、左腕のビームサーベルを展開しアークライン目掛けて振り上げる。
咄嗟に機体を右へ逸らすが、左肩を切り裂かれる。
カウンターで左腕の三連機関砲を至近距離から連射し、強引にイージスとの距離を開かせる。

「がぁっ! コイツ……ッ!」

「ったく……病み上がり早々、運無いわね私!」



「でえやああああっ!」

「なんとぉぉぉっ!」

デュエルとF91がすれ違い様にビームサーベルを振るい、互いに斬り付ける。
すれ違った直後、即座に振り向き、その勢いで更にビームサーベルを叩きつける。

「なかなかしぶといが、そろそろ終わらせて貰うぞ!」

「ここで終わるわけには!」

頭部バルカン砲をデュエルの頭部目掛けて発射。
一瞬、アイカメラを破壊するには至らなかったがイザークを怯ませるには十分だった。
そこを付き、F91の右足でデュエルを蹴り飛ばす。

「ぐぅっ! 小癪な真似を……っ!」

ビームサーベルをビームライフルに持ち替え、発射。
F91のビームシールドでそれを受け止めつつ、シーブックは思考する。

(このままじゃ押し切られる……どうする? 考えろ!)

MSに乗り始めたばかりの自分よりも相手の方が確実に実力は上だ。
機体性能についてはよく解らない……少なくとも、エネルギー容量にはまだ余裕がある。
内蔵と外付けとでバッテリーを二個搭載していると軽く読んだカタログに書いてあったので、それが理由だろう。

(なんとかしてコイツを行動不能に出来れば……っ!?)

思考の最中、不意に頭の中へデュエルがビームライフルの銃口の下に取り付けているグレネードを放つ光景が浮かび上がる。
直感に近いそれに従い、反射的にビームランチャーを放つ。デュエルがグレネードを放ったのはその一瞬後。

「なっ!?」

正面からグレネードとビームがぶつかり合い、爆発。
爆炎が二機の間に広がり、視界を塞ぐ。

「一か八か……今だぁっ!」

爆炎の向こう、デュエルの位置が限りなく確信に近い直感で頭に浮かぶ。
シーブックは迷うことなくビームランチャーを投げ捨て、機体を爆炎の中へ突撃させる。

「クソッ! 視界が……っ!?」

爆炎に視界を塞がれ、僅かに動揺するイザーク。
その結果、爆炎の中から飛び出してきたF91への反応が僅かに遅れた。

「何ぃぃ!?」

「おおおっ!」

左腕に握るビームサーベルを振るい、デュエルのビームライフルを切断。
イザークはデュエルのビームサーベルを抜こうとするが、シーブックの行動が僅かに速かった。
F91右腕のビームシールドを展開し、そのままデュエルの脇腹をビームシールドで斬り付ける。

「うおああああっ!?」

脇腹をビームシールドで切り裂かれ、内部で小爆発が起こる。
爆発はコクピットにも及び、爆発した機器の破片がイザークのヘルメットを直撃し、破損させる。

「があぁっ! 痛い、痛い、痛い、痛い、痛いぃぃぃぃぃ!」

「イザーク!?」

デュエルの異変に気が付いたディアッカが両肩のミサイルをF91へ放ちながら、デュエルへ接近する。

「くっ!」

ミサイルをマシンキャノンで迎撃しながら、F91はデュエルから離れる。
バスターはデュエルを庇うように前に立ち、通信を開く。

「イザーク、無事か!?」

『ぐぅぁ……痛いぃ……っ』

「怪我してんのか!? チッ、こちらバスター、パイロットが負傷しデュエルが行動不能。牽引の為に一時戦線を離脱する!」

デュエルの機体を抱え、バスターはそのままスペースアークから離れる。

「撤退した……やったのか……」

二機の撤退を確認したシーブックはふぅとため息をつき、すぐに機体をヘビーガンへと向かわせる。
厄介な機体は退けた。後はスペースアークやアークエンジェル、ナデシコを防衛するだけだ……それが最も厄介なのだが。



「アークエンジェル! まだ生きてたか!」

ムウのメビウス・ゼロがリニアカノンをシグーへと放ちながら、アークエンジェルとの合流を果たす。
クルーゼとの戦闘を行いながら此処まで逃げ延びるのは流石に少々骨が折れた……ここから、更に骨が折れるのだが。

「母艦と合流したか、だが逆に好都合と言う物だ! このまま一気に戦艦もろとも沈めてくれる!」

シグーのコクピットでクルーゼが吠え、ガトリング砲をメビウス・ゼロへ向け連射する。

「チッ! クルーゼ!」

ガトリングの弾丸を避け、機体をシグーに向けてリニアカノンを放つ。
リニアカノンの弾丸を後退しながらマシンガンで撃墜し、すぐさま反撃に移る。
メビウスへと突撃しながらガトリング砲を連射。右方向へと機体を捻らせ、ムウはそれを避ける。

「ええい! しつっこいんだよ、お前ら!」

ガンバレルを展開し、リニアカノンと合わせ一斉にシグーへ砲撃する。
その最中に現在の戦況を軽く確認……アークエンジェルの護衛に付いているD-2、D-3はなんとか持ちこたえているが敵の数が多く、時期に押し切られるだろう。
他2隻はここからでは確認できないが恐らく似たような状況に陥っている事は推測できる。
そして後方の戦艦へ流れてきている敵機の数から察するに、前衛も相当厳しい状況に違いない。

「俺が作戦ミスらなけりゃちったぁマシになったかもしれねぇってのに……クソッタレ!」

自分の不甲斐なさに憤怒しつつ、ムウはクルーゼのシグーへの攻撃を続ける。



戦況はすでにザフト・ギガノス軍の優勢となっていた。
元より戦力差がありすぎたこの戦闘、ムウの無謀とも言える作戦が成功していれば何とかなったかもしれないが今更悔いても仕方がない。
このままでは、完全に押し切られて敗北するのは時間の問題であろう。

「くっ! このままでは全滅です、艦長!」

「わかってるわ! だけど、どうすれば……っ」

この状況をひっくり返す手段があるのなら教えて欲しいとマリューは心の中で吐き捨てる。
そんな中、ナタルだけは一つだけこの戦況をひっくり返す事が出来るかもしれない作戦を思いついていた。
しかし、それは非常に後味の悪い作戦な上に艦内の空気を悪くさせかねない。かといって、このまま座して死ぬわけにもいかない。
数秒の思考の後、ナタルは決断した。

「借りるぞ」

座席を離れ、マリューの後ろの席に座っているサイから通信機を奪い取り全周波数放送に合わせる。

「ナタル、何を……?」

「私に考えがあります……ザフト・ギガノス、両軍に伝える!」



「なんだ……全周波通信だと?」

「アークエンジェルから? 何やってんの?」

戦闘中、突然アークエンジェルから流される全周波数通信に一瞬、全軍の動きが停止する。
そうして、通信機からナタルの声が端的に流される。

『こちらは連邦軍所属艦、アークエンジェル。現在、当艦はザフト最高評議会議長シーゲル・クライン令嬢、ラクス・クラインを保護している』

その一言はこの戦況をひっくり返すには十分すぎる程の威力を持った言葉だった。
更に駄目だしのつもりか、艦内の……恐らく士官用の個室にいるラクスの映像まで流している。
念の為にとダグラスが取り付けていた監視カメラの映像である。

「ラクス!?」

「嘘……そんな大物がいたわけ?」

一人、何も知らなかったクレアは少々呆気にとられてしまう。

『救命ポットを偶発的に発見し、人道的立場から保護したものであるが、これ以降の我々への攻撃は彼女に対する責任放棄と見なし、自由意志でこれを処理する事をお伝えする!』

「何だと!?」

「おのれ……卑怯な!」

ザフト、ギガノス両兵士から吐き出される罵倒。
無論、アスランも例外ではなく怒り任せに計器を叩き、八つ当たりをしている。

「キラ、お前はこんな連中と一緒にいるって言うのかよ……っ!」

一方、クルーゼとマイヨはお互いに苦い表情を浮かべていた。

「クルーゼ、ここは引き上げるしかないようだな」

「そのようだ……まさかラクス嬢が足つきにいるとはな……とんだ番狂わせだ」

「全軍、先の放送を聞いたな! 即座に攻撃を中止し、撤退せよ!」

マイヨが全周波数放送で撤退を促し、ザフト、ギガノスの機体が後退していく。
しんがりとしてクルーゼとマイヨが最後に続く。

「この屈辱……忘れぬぞ」

(全く……厄介な小娘だ、ラクス・クライン)

そうして、両軍の全機動兵器が撤退していった。



「オイオイ、どういうこったコイツは!?」

「人質……どういうつもりなんだ、ナタルさんは!」

コクピットの中で、キラとケーンが吐き捨てる。
あの放送のお陰で助かったのは確かだが、それでもやり方が納得できない……否、納得できるほど、彼らは大人じゃない。

「ま……当然っちゃ当然だけどね」

クレアもヘルメットを取り、汗を拭いながら呟く。
復帰早々、後味の悪い戦いと鳴ってしまった物だ。
彼女もこういうやり方は嫌悪感を覚えるが、半ば軍人であるが為に納得も出来てしまう。

「ホント……嫌な職業やってるわね」

誰にでも無く、クレアは呟いた。


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