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悪名 高き ギルバレスの笛の音
行き場を失ったトロールの雄叫び
ウンディーネの舞い降りる風音
数々の異名を欲しいままにする
村で評判のクシャミが響く
『ヘップラ・ボッフェン・スホー』
犯人はモルドーロだ。
先日の雨で、すっかり風邪をひいてしまい
寝込むほどではないが、とにかくクシャミがひどい
ひどいクシャミというか
小さい頃から少し変わったクシャミである
それが原因で悩んだ時期もあったが
別段、今となっては気にも止めない
そんな事より、かすみ目が気になるのである
それも決まってひどくなると
柱時計の辺りに黒い影がみえるのだ
それが日に何度も。
その内、病床が長引いたせいなのか
他に身寄りのない寂しさからなのか
柱時計の黒い影に愛着を憶え始め
『オゲゲ』
と名前までつける始末
しかし、その黒い『オゲゲ』
朝昼晩といつも決まってモルドーロの様子を
伺いにやって来るのである。
そんなある日、『オゲゲ』を見る事もなく
夕涼みの為 窓を開け放ったまま
うとうと とベッドに腰掛けたまま夢見に入る
聖霊や妖精の夢見には定評のあるモルドーロ
しかし今晩は、ちがった
『オゲゲ』だった
妖精ではなく妖怪だった
もう、この年になると
明も暗も分別がなくなるものだと思い
そっと観察してみる事にした
背丈は自分の腰のあたりまで、髪は長くボサボサ
目はパッチリ 鼻は無く 口は大きく耳まで裂けている
典型的な ヤマンバ である
だが、柱時計の黒影と同様
なぜかその ヤマンバ に愛着が沸くのである
『オゲゲ だね。』
モルドーロがやさしく問い掛ける
耳まで裂けた大きい口を頭の後ろまで広げて
ニヤッと笑った 『オゲゲ』が笑った
なんとも屈託のない いい顔だった
『ヘップラ・ボッフェン・スホー』
モルドーロはクシャミをしてしまう
オゲゲは、それに応えるかのように
その場で右足を軸にクルリと回り
『ホップラ・ヘッフェン・ボホー』
モルドーロの真似をしてみせる
しばらく、こんな二人のおかしなクシャミの会話が続く
どのくらい経ったのだろう
柱時計が十二時を告げる頃には
モルドーロは、一人でクシャミをしていた。
もう『オゲゲ』の オの字 も見当たらない
かすみ目も気にならない
そういえば今日は若くに亡くした妻との結婚記念日
この柱時計も妻が買ったもの
この柱時計から出て来てくれた オゲゲ の屈託のない笑顔と
妻の姿が、いやがうえにも重なってしまうのは
いい事なのだろうか。
『ヘップラ・ボッフェン・スホー』
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