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なまけいぬ
自作の小説を載せています。ツッコミどころ満載ですが…
2006年05月05日
テーマ： 連載小説を書いてみようｖ(10175)
カテゴリ： 楽園に吼える豹
橘は手始めに、アスカの上官である担当教官に会ってみることにした。
が、ものすごく不機嫌な相手の顔を見て、彼がアスカに思いっきり殴られた苦い経験を持っていることを思い出した。
「何か用か？」
三十代半ばぐらいの厳格そうな男性教官の顔は、苦々しげに歪んでいる。顔に殴られた跡はない。もう治ったのだろう。
「あのう……アスカ・清里さんのことについてお聞きしたいんですが…」
「それはもう聞いた。あいつの何について聞きたいんだ」
けんもほろろである。アスカについて尋ねる橘を、彼女に見立てて八つ当たりしているのだろう。よほど彼女に痛い目に遭わされたらしい。
「あの…彼女の様子がおかしくなったのはいつ頃からでしょうか」
「…態度が反抗的になったという意味なら、今から大体一年くらい前だ。まったくわけがわからん。こっちはいい迷惑だよ」
マリエの言っていたことと一致する。
だが教官は、原因まではわからないようだ。これはやはり、アスカに直接会って聞いてみるしかなさそうだ。
（でも…）
“いい迷惑”。
橘はこの教官の言葉が何となく気に入らなかった。彼はアスカに殴られているのだから仕方ないのかもしれないが、いかにも「厄介者を抱え込んでしまった」とでも言いたげなこの物言いはいかがなものか。
「―――心配じゃないんですか、彼女のこと」
彼は、そう言った橘を奇妙なものでも見る目で見つめた。
「あいつは仮にもSクラスのGSだぞ。死にゃあしないだろ」
「………」
自分を非難するような橘の視線にぶつかると、教官は更にうっとうしそうな顔をして見せた。
「あのな、一回あいつに会ってみろ。俺の態度が異常でないってことがわかるよ。あいつがいかに始末の悪い生き物かってこともな」
（これだけ当たってみても誰も知らないなんて……）
S・Aクラスの関係者を中心に尋ねて回ってみたのだが、そのほとんどがアスカの名前を聞いただけで困惑したような表情を浮かべた。
（親しい友達とかいなかったのかな……？）
よく考えてみれば、彼女が同世代かつ同性の友人を作ることなど不可能なのではないか。
周知のようにアスカは唯一の女性GSだ。それに、GSに選ばれれば公立の学校に通うことは許されず、必要な教育は全て実行総合本部で行われる。ただでさえ行動範囲の狭い子供であるアスカが、そのような状況下で友人を作ることができる可能性は極めて低い。
だが首を振って即座にそれを振り払う。
本部がGSの子供をその他の子供と隔離するのは、彼らの口から機密情報が一般人に漏れることを防ぐためだろう。そうとは意識していなくても、彼らは本部で多くの機密情報を見聞きしている。何かの拍子に口を滑らせ、国家に危機をもたらすとも限らない。
そのくらいのことは橘にも分かる。
だがそれは「大人の論理」だ。アスカをそのような鋳型にむりやり押し込めることが果たしていいことなのか。
（今回だって、友達がたくさんいたらこんなことにならなかったかもしれないのに……）
橘の胸は痛んだ。
だが、そんな暇はない。ともあれ、早くアスカと会って話をしなければ。
（あとは、ご家族に聞いてみるしかないかな）
清里家の住所は、上司から聞いて知っている。
橘は一縷の望みをかけて、アスカの家へと向かった。
つづく
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が、ものすごく不機嫌な相手の顔を見て、彼がアスカに思いっきり殴られた苦い経験を持っていることを思い出した。
「何か用か？」
三十代半ばぐらいの厳格そうな男性教官の顔は、苦々しげに歪んでいる。顔に殴られた跡はない。もう治ったのだろう。
「あのう……アスカ・清里さんのことについてお聞きしたいんですが…」
「それはもう聞いた。あいつの何について聞きたいんだ」
けんもほろろである。アスカについて尋ねる橘を、彼女に見立てて八つ当たりしているのだろう。よほど彼女に痛い目に遭わされたらしい。
「あの…彼女の様子がおかしくなったのはいつ頃からでしょうか」
「…態度が反抗的になったという意味なら、今から大体一年くらい前だ。まったくわけがわからん。こっちはいい迷惑だよ」
マリエの言っていたことと一致する。
だが教官は、原因まではわからないようだ。これはやはり、アスカに直接会って聞いてみるしかなさそうだ。
（でも…）
“いい迷惑”。
橘はこの教官の言葉が何となく気に入らなかった。彼はアスカに殴られているのだから仕方ないのかもしれないが、いかにも「厄介者を抱え込んでしまった」とでも言いたげなこの物言いはいかがなものか。
「―――心配じゃないんですか、彼女のこと」
彼は、そう言った橘を奇妙なものでも見る目で見つめた。
「あいつは仮にもSクラスのGSだぞ。死にゃあしないだろ」
「………」
自分を非難するような橘の視線にぶつかると、教官は更にうっとうしそうな顔をして見せた。
「あのな、一回あいつに会ってみろ。俺の態度が異常でないってことがわかるよ。あいつがいかに始末の悪い生き物かってこともな」
（これだけ当たってみても誰も知らないなんて……）
S・Aクラスの関係者を中心に尋ねて回ってみたのだが、そのほとんどがアスカの名前を聞いただけで困惑したような表情を浮かべた。
（親しい友達とかいなかったのかな……？）
よく考えてみれば、彼女が同世代かつ同性の友人を作ることなど不可能なのではないか。
周知のようにアスカは唯一の女性GSだ。それに、GSに選ばれれば公立の学校に通うことは許されず、必要な教育は全て実行総合本部で行われる。ただでさえ行動範囲の狭い子供であるアスカが、そのような状況下で友人を作ることができる可能性は極めて低い。
だが首を振って即座にそれを振り払う。
本部がGSの子供をその他の子供と隔離するのは、彼らの口から機密情報が一般人に漏れることを防ぐためだろう。そうとは意識していなくても、彼らは本部で多くの機密情報を見聞きしている。何かの拍子に口を滑らせ、国家に危機をもたらすとも限らない。
そのくらいのことは橘にも分かる。
だがそれは「大人の論理」だ。アスカをそのような鋳型にむりやり押し込めることが果たしていいことなのか。
（今回だって、友達がたくさんいたらこんなことにならなかったかもしれないのに……）
橘の胸は痛んだ。
だが、そんな暇はない。ともあれ、早くアスカと会って話をしなければ。
（あとは、ご家族に聞いてみるしかないかな）
清里家の住所は、上司から聞いて知っている。
橘は一縷の望みをかけて、アスカの家へと向かった。
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