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なまけいぬ
自作の小説を載せています。ツッコミどころ満載ですが…
2007年04月19日
テーマ： 連載小説を書いてみようｖ(10175)
カテゴリ： 楽園に吼える豹
レオンは首に手をやった。
“あの時”のことを話していたら、母に首を絞められたときの感覚がありありと蘇ってきたのだ。
軽い吐き気を覚えた。
それは過去だ。現在（いま）じゃない―――自分にそう言い聞かせる。
なぜ自分は目の前の少女にこんなことを話しているのだろう。
誰かに“あの時”のことを話したのは初めてだった。
もしかしたら自分はずっと、誰かに聞いてもらいたかったのだろうか。
「…それで？」
アスカは尋ねる。
「……その後のことは大体分かるだろ？ 母親は即病院行き。それ以来ずっと会ってない」
会えるような状態ではない。
風の噂で母親の様子を聞き知っただけでも、そう思った。
どこにもいない“レオン”を捜し求めて、しょっちゅう病院をうろうろし、酷いときには病院の外に出て道行く人々にわが子の行方を尋ね歩いているらしい。
症状は、レオンと暮らしていた頃より悪化していた。
女好き。女嫌い。
アスカのレオンに対する印象は、短期間のうちに激しく変化したが、今またそれが変わりつつあった。
たぶん彼は、女性が怖いのだ。
母親に愛されなかった過去を思い出すから。
殺されかけた悲しみを思い出すから。
だから、女性と関係を持つときは、自分が優位に立たずにはいられないのだ。
レオンの場合、女性との関係に思いやりや愛情は存在しない。
優位に立てるか立てないか、それだけだ。
だから強迫観念に駆られるようにそれに集中し、それが成し遂げられたあとは何のためらいもなく相手を捨てる。
彼の心の根底には、愛されないことへの恐怖が潜んでいる。
母親から拒絶されたことへの、悲しみが。
「―――お前のせいじゃ、ない」
愛情を受けられなかったからといって、レオンは悪くない。
「お前が悪いわけじゃないだろ……」
レオンはアスカの顔を見上げた。
整った顔に、雨が点々と落ちる。
なぜか彼女のほうが、泣きそうな顔をしていた。
（俺は悪くない……）
心の雲を、一条の光が差す。
（俺は、ずっと責めてたんだろうか……俺自身を）
“あなたはレオンじゃない！！ レオンはどこ！？”
悪いのは、向こうだ。
憎むべきなのはあの女だ。
自分を責めるいわれなど、どこにもないのに。
「―――そうだ…俺は、憎んでた。あの女を……ずっと」
「でも、愛してただろ？」
アスカの目はまっすぐにレオンに届いて、心まで見透かしているようだった。
「どんなに嫌われたって……子供は親を求めるんだ。愛してるからこそ……死ぬほど憎んでしまうんだよ」
違う。
俺は憎い。
母親が。あの女が。
俺は―――……
『オ母サン、コッチ向イテ。
イイコデ、イルカラ』
どうして、今になってそんなことを思い出すんだ。
「―――た」
幼い日、ひたすら母の愛を求めていたことを。いや……
「愛してたよ………」
愛されたいのは今もだ。
ずっとずっと、そう叫んでいた。
レオンは顔を手で覆う。
柔らかな金髪にしとしとと雨は降り続く。
アスカはそっとかがんで、レオンを抱きしめた。
赤い傘の上を、雨音が弾けて溶けていく。
顔を覆った手に水の感触があった。
それは顔に落ちた雨粒だったのか、レオンの涙だったのか。
優しい雨の音が墓地を包んだ。
つづく
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“あの時”のことを話していたら、母に首を絞められたときの感覚がありありと蘇ってきたのだ。
軽い吐き気を覚えた。
それは過去だ。現在（いま）じゃない―――自分にそう言い聞かせる。
なぜ自分は目の前の少女にこんなことを話しているのだろう。
誰かに“あの時”のことを話したのは初めてだった。
もしかしたら自分はずっと、誰かに聞いてもらいたかったのだろうか。
「…それで？」
アスカは尋ねる。
「……その後のことは大体分かるだろ？ 母親は即病院行き。それ以来ずっと会ってない」
会えるような状態ではない。
風の噂で母親の様子を聞き知っただけでも、そう思った。
どこにもいない“レオン”を捜し求めて、しょっちゅう病院をうろうろし、酷いときには病院の外に出て道行く人々にわが子の行方を尋ね歩いているらしい。
症状は、レオンと暮らしていた頃より悪化していた。
女好き。女嫌い。
アスカのレオンに対する印象は、短期間のうちに激しく変化したが、今またそれが変わりつつあった。
たぶん彼は、女性が怖いのだ。
母親に愛されなかった過去を思い出すから。
殺されかけた悲しみを思い出すから。
だから、女性と関係を持つときは、自分が優位に立たずにはいられないのだ。
レオンの場合、女性との関係に思いやりや愛情は存在しない。
優位に立てるか立てないか、それだけだ。
だから強迫観念に駆られるようにそれに集中し、それが成し遂げられたあとは何のためらいもなく相手を捨てる。
彼の心の根底には、愛されないことへの恐怖が潜んでいる。
母親から拒絶されたことへの、悲しみが。
「―――お前のせいじゃ、ない」
愛情を受けられなかったからといって、レオンは悪くない。
「お前が悪いわけじゃないだろ……」
レオンはアスカの顔を見上げた。
整った顔に、雨が点々と落ちる。
なぜか彼女のほうが、泣きそうな顔をしていた。
（俺は悪くない……）
心の雲を、一条の光が差す。
（俺は、ずっと責めてたんだろうか……俺自身を）
“あなたはレオンじゃない！！ レオンはどこ！？”
悪いのは、向こうだ。
憎むべきなのはあの女だ。
自分を責めるいわれなど、どこにもないのに。
「―――そうだ…俺は、憎んでた。あの女を……ずっと」
「でも、愛してただろ？」
アスカの目はまっすぐにレオンに届いて、心まで見透かしているようだった。
「どんなに嫌われたって……子供は親を求めるんだ。愛してるからこそ……死ぬほど憎んでしまうんだよ」
違う。
俺は憎い。
母親が。あの女が。
俺は―――……
『オ母サン、コッチ向イテ。
イイコデ、イルカラ』
どうして、今になってそんなことを思い出すんだ。
「―――た」
幼い日、ひたすら母の愛を求めていたことを。いや……
「愛してたよ………」
愛されたいのは今もだ。
ずっとずっと、そう叫んでいた。
レオンは顔を手で覆う。
柔らかな金髪にしとしとと雨は降り続く。
アスカはそっとかがんで、レオンを抱きしめた。
赤い傘の上を、雨音が弾けて溶けていく。
顔を覆った手に水の感触があった。
それは顔に落ちた雨粒だったのか、レオンの涙だったのか。
優しい雨の音が墓地を包んだ。
つづく
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