Loving Spoonful  ~エリーより愛をこめて

Loving Spoonful ~エリーより愛をこめて

電車

電車

                  ラッシュアワーのホームで
                  なだれ込む人ごみに流されるようにして
                  乗り込んだ電車
                  やっと座れた席
                  後から後から
                  人が押し込まれてくる
                  向かいの座席に座った男の人が
                  乱れた髪をかきあげている                   
                  あまりの会いたさに              
                  あなたの姿とオーバーラップする
                  ”あなたに会いたい”

                  ドアの方から押されてきた
                  白髪の混じったおばさんが
                  私の前の吊り革をやっと握る
                  大きな溜め息をついて
                  壁によりかかっている
                  きのう
                  背中の曲がったおじいさんに
                  席を替わってあげた
                  でも
                  きょうは座っていたいのです
                  荷物が重くてつらいのです

                  いつか満員電車にあなたと乗りましたね
                  吐息が聞こえるほどの距離で
                  あのときわたしは
                  このまま電車がどこにも停まらず      
                  いつまでも
                  いつまでも
                  走り続ければいい、と願っていました

                  おばさんはとうとうしゃがみ込んでしまった
                  わたしはいたたまれない気持ちになりながら
                  それでも席を立たず
                  思わず目をつぶって下をむいてしまった
                  ”あなたに会いたい
                   あなたに会いたい”
                  目を開けるのが怖い
                  周りじゅうから責められている気がして......
                  涙がこみあげてくるのは    
                  罪悪感からなのか
                  それともあなたへのせつない想いのせいなのか

                  電車はさらに込んできた
                  おばさんは立ったりしゃがんだりしている
                  ごめんなさい
                  ごめんなさい
                  きょうはどうしても座っていたいのです
                  私の荷物はどうしてこんなに重いのでしょう
                  夕陽はあんなにきれいなのに
                  あなたはどうして遠いのでしょう


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