(十年間・・・か。)
彼にとって十年間は地獄だった。
いったいこの手にどれだけの血を滲ませてきたことか。
彼にとっては生きるためにやってきたことだ。
あの日、彼があの人と交わした約束だった。
彼はその約束を果たすためだけに生きてきた。
ギュッと拳をつくり、顔を上げた。そして、重々しい足を校門に踏み入れた。
彼の瞳には決意が込められていた。鋭い光を瞳に宿していた。

順位が落ちると落ち込んでいた生徒達は転入生を見て、一変した。
「順位なんてどうでもいい」と男も女も言い出し、転入生・桐生陵を取り囲んだ。女も男も容赦なしにどんどん口を開き、答えを求める。
「ねぇねぇ、全科目満点って本当!?」
「肌のお手入れってしてるの?」
「彼女いる?」
「なんで楠ノ宮を受けたんだ!?」
「どんな頭の構造してんだよ!?」
など、質問攻めにさらされた。
頭の構造などみんな一緒なのではないかと真面目に考えた陵の方が惨めというものである。そ
んな稜に鶴の一声があった。
「なぁ。秀才さん。俺とペア組まねぇ~?」
軽々しいその声の持ち主は橘川充。
分からない人のために説明しておく。楠ノ宮学園では二人一組のペアをつくる。
楠ノ宮では、授業は選択性なわけで、ペア同士行動を共にする。
もちろん、部屋も相部屋。授業もペアで受けるということで、
大体似たような成績の者とがくっついている。
その場にいた者が「私が!」と志願したかったが成績がとてもかけ離れていた。
この場には、いや、この学校には桐生稜と並ぶ者は橘川充しかいない。
それを分かっていた。
だから、誰も反論する者がいない。もし、反論すれば、
橘川充を認めないということとなり、敵に回すには不利で、命を落としかねない。この男はそれを分かっている。つくづく陰険な男だ。
「・・・ペアか・・・」
手を口元に当て、一拍を置いた。
そもそも、稜はペアをつくる気などさらさらない。
だが、ここではそれが当たり前みたいなので、この話しを聞いたとき、
少し悩んでいた。
「ペアって作らないとダメなのか?」
誰もが、その言葉に息を飲んだ。
皆ごく自然のようにペアを作っていったので、誰も不思議に想わなかったのだ。
ただ、一人を除いては。
「ん~。作らないとってことはないと想うぞ?けど、それはペアがいないときの話しだな。偶数のときは作ってもらわなきゃ、先生たちも困るだろ。」
稜が考えていることをいいことに充は話しを続けた。
「それに、秀才さんが来てからちょうど偶数だぜ?ま。奇数だったし、俺様は頭が良かったからな。だから、俺にはペアはいない。な?組もうぜ。」
と言ってのけた充だったが、その場にいた誰もが頭が良いせいだけぢゃなぃ!
と心の中で叫んでいた。

橘川充という男はなにかと謎が多かった。


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