放課後、稜の荷物の整理を手伝っている充はやる気なさそうに声を出した。
「ああ。」
となま返事をもらった充は荷物を置いて、座り込んだ。
「おい。座るなよ。まだあるんだぜ?」
と言ってのけた当の本人・稜は全くといっていいほど、何もしていない。
荷物を運んで来たのは、何の関係もない充(ペアということを除けば)だった。
とうとうキレた充が叫んだ。
「なんで俺がこんなことしなくちゃなんないんだ!?
 考えてみればすっごくおかしいぞ!説明してくれ。俺はお前の召使か!?」
「・・・ほ~。やっと分かったのか。随分時間かかったな。
 教えてやるよ。お前がバカなだけだ。」
「くあぁ~。ムカツク!
 なんで俺はこんな奴とペアなんか組んじまったんだ!」
そのぼやきも稜が一刀両断してのけた。
「お前が言ってきたんだ。バカ」と。
充じゃなくてもキレるのは当然というものだ。

暴れている充はほっぽいて、稜は別のことを考えていた。
今日一日、充の行動・言動を見ていたが、
学校一秀才だったのはダテじゃなかった。
頭の回転が驚くほど早い。
自分にここまでついてくる者など、ごくまれだった。
充はそれに値する興味深い男だ。
「それにしても、荷物多いな。」
さっきの怒りはどこへいったのか。
急に話しかけてきた。
「なんか、女みてぇだなぁ~。」
ハハ・・・と笑っていたが、瞳は確信を帯びていた。
だから、稜はすんなりと認めた。
「・・・しかたないでしょ。」
いつから気づいていたのかは、稜にも分からない。
だが、彼から彼女の声に変っていた。自分でも驚いた。
なぜ、会ったばかりの男に・・・。
気づけば、女ということを認めていた。
「解せない」
稜の頭にその言葉が浮かんだ。
これほど慎重な桐生稜が、初めて「無謀」
という言葉に値する行動をとっていた。
充もすんなりと認められて、呆気にとられている。
そして、稜の切り替えの早さに感心し、興味深げに目を細めた。


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