進学?就職?

new【進学?就職?】

              彼の家に居候していた友達が、
              十一月下旬に実家に帰っていった。

              実家で勉強を頑張るんだって言って。

              もちろん、正直私は嬉しかった。

              友達Hが彼の家に居候してから、
              私と彼の時間は急激に極端に減ったから。

              一ヶ月に二人だけの時間が24時間もない。
              彼の家に行って、二人で話をしたいなと思っても、
              Hは彼の家にいる。
              でもね、私達は二人とも、出てけなんて言わない。
              普通言えないものでしょう?

              だって、彼の家はHの家でもあるんだもの。

              Hは「遠慮しないで邪魔だったら言ってね」
              そうやって居候を始める前から言っていた。

              でもHの居場所をなくしたくないし、
              そんな小さな私のワガママで、
              中学の時から仲の良いHとの関係を歪ませたくなかった。

              『Hはなぜ彼の家に居候してきたのか?』

              理由はね、Hは看護士になりたくて、
              必死に本気で勉強して大学に進学したいから、
              予備校に近い彼の家に居候する事に決めたんだって。

              「実家では集中できないから、タカ(彼)の家で本気で勉強したいんだ」
              Hは私にも彼にもそう言って居候を始めた。

              けれども、Hの行動はひどいものだった。

              彼の家に住んでるんだったら、家の仕事をするのも当たり前。
              なのにHは少しも家事を手伝わずに汚すだけの毎日。

              彼も注意を何度もするんだけど聞かないし、
              見かねた私が「家のことを協力してやるのは最低限のマナーだから」と注意をしても、
              Hは態度を改めることをしなかった。

              じゃあ勉強は?

              Hはもともととても頭が良く、
              高校もトップの学校に行っていた。
              だから私も安心していたんだ。

              Hは彼の家ではほとんど勉強などしていなかった。
              四月、五月は行っていた予備校も、
              「簡単だし自分でやった方がいいから」と、
              ほとんど行かなくなった。

              大丈夫かな?とは何度も思ったけれど、
              HはHの考えがあってやっていることだから、
              Hのペースを乱してはいけないと思って、
              私も彼も「予備校はちゃんと行きなさいよ?」
              「受験生って事自覚して遊びは程ほどにね?」くらいにしか言わなかった。

              でも、Hは彼の家ではゲームばかり。
              夜は週にニ、三度は地元の友達に誘われて、
              朝まで遊びに行ってしまう。

              私と彼はお互いにHの不満を溜め込んで、
              お互いを傷付け合っていくようになっていった。
              何度も何度も、もう嫌だと思って別れを話し合ったこともあった。

              そんなにまでして私達が悩んでいたのにも拘らず、
              Hが彼の家を去って数週間したある日。
              私はある友達にHの一言を聞いた。

              『Hが「俺、就職するわ」って言ってたよ』



              …は?
              ……なにそれ?

              あの半年強の私達の我慢はなんだったの?

              Hは、進学をやめて就職することにしたらしい。
              理由?
              詳しくは聞いてない。
              けれど自ずとわかること。

              Hは遊びすぎてたんだって。

              もちろん、私は不満爆発。

              けれど彼以外には口にはしてない。
              だって口にすると悔しくなるから。

              Hが決める道。
              だから私はHを否定する言葉は言えない。
              だってHの歩く道だから。

              でも私、そんな答え…
              信用してたHから聞きたくなかったよ。


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