宝石の豆知識4(工具編)


宝石の豆知識4
(ジュエリーの工具)

【3 ジュエリーの製造・加工・修理の基礎知識】
■工具のいろいろ

 貴金属加工のための主な作業には、切る作業(糸ノコなど)、
 削る作業(ヤスリなど)、ろう付作業(ガス・バーナーなど)、
 そして宝石を留める作業(ヤットコ、タガネなど)等があります。
 作業を快適に効率よく行う作業机も必要です。これらの基本的な
 ジュエリー用具とその使い方を説明していきます。


1)切る:糸ノコ
 貴金属の切断の多くは糸ノコを用います。
 ノコ・フレームに糸ノコの刃をつけて切りますが、
 目の方向をつけ変えて、
 押し切りでも引き切りでも使えます。
 糸ノコの刃のサイズは色々ありますが、
 ジュエリーの製作には#06~#1を用います。
 番数が小さくなると目が細かくなります。

2)削る:ヤスリ
 ヤスリは削る工具で、使用頻度の高い基本工具の一つです。
 ヤスリは、その長さ・大きさから分けると
 インチ・ヤスリと組ヤスリがあります。
 インチ・ヤスリとは大きめのヤスリのことで
 6インチ、8インチ、10インチほかいろいろありますが、
 ジュエリーで主に使うのは6インチです。
 (1インチは約2.5cmで、ヤスリの目の切ってある部分をインチで呼びます)
 組ヤスリには5本組、8本組、10本組、12本組などがあり、
 5本組が一番長くて大きく、順に短く小さくなります。
 ヤスリの形は作業目的に応じて各種あり、
 それぞれ削る部分の形に合わせて使い分けます。
 断面の形から、平、甲丸、丸などと呼んでいます。
 ヤスリの目には荒いものから細かいものまで、
 荒目、中目、小目(または細目)、油目とがあります。

3)曲げる:ヤットコ
 貴金属を曲げるための代表的な用具はヤットコです。
 ヤットコは使用目的に応じて平(ひら)ヤットコ、
 口細(くちぼそ)ヤットコ、石留めヤットコ、
 時計ヤットコなどがあります。
 ヤットコを使うときは、利き手にヤットコを持ち、
 もう一方の手でしっかりと金属をつかんで曲げます。

4)曲げる:芯金(しんがね)と木槌
 リング状にきれいに丸める場合や厚い地金を曲げる場合などは、
 鉄製の丸い芯金に金属をあてがって、木槌で打ちながら曲げます。

5)ろう付:バーナー
 貴金属と貴金属を接合したい箇所にろうを置き、
 バーナーの炎で熱して金属同士を接合することを「ろう付」といいます。
 「ろう」とは接合用の合金のことで、
 主となる素材は融点の低い合金を使います。
 シルバーには銀ろう、ゴールドには金ろう、
 プラチナにはプラチナ用ろう(P用ろう)というように、
 素材に合わせて使い分けます。
 それぞれのろうは融点の低いものから高いものまで何種類かあります。
 ろう付するときは、
 ろう付の箇所にフラックス(溶剤)と呼ばれる酸化防止剤を塗ります。
 フラックスを塗るとバーナーで加熱しても金属は酸化しにくくなり、
 ろうが流れやすくなります。
 バーナーにはガス・バーナーと酸素バーナーがあります。
 シルバーとゴールドのろう付には主にガス・バーナーを、
 高温が必要なプラチナには酸素バーナーを使います。
 バーナーの中心部にあるコック(弁)で、
 ガスの量と空気(酸素)の量を調節し、炎の大きさと強さを加減します。
 空気はガス・バーナーではエア・コンプレッサーと接続し、
 酸素バーナーでは酸素ボンベと接続します。
 なお酸素バーナーを使用する場合、
 厚生労働省指定の「ガス溶接技能講習」の受講(終了証)が必要です。

6)酸で洗う
 ろう付の後、加熱した金属は酸化膜ができていますので、
 それを除去するため酸洗い液に入れます。
 酸洗い液は10~20%の希硫酸液で水の中に濃硫酸を入れますが、
 逆に濃硫酸に水を入れると発熱して危険です。

7)仕上げる:キサゲ、ヤスリ、ヘラ
 キサゲは刃の部分で貴金属の表面についた
 キズやヤスリ目などを削り落とす工具です。
 ヘラ(磨き棒)は、金属の最終仕上げに使う鋼鉄製の棒で、
 表面がよく磨いてあります。
 紙ヤスリ、キサゲをかけた後ヘラを貴金属にこすりつけて表面を磨きます。
 又、ヘラ作業は金属の表面を堅くする効果もあります。

8)測る:ノギス、サイズ棒、サイズリング、質量計
 品物の長さを測ったり、リングのサイズを決めたり、
 出来上がった製品の重さを量ったりする用具です。

9)延ばす:ローラー、線引板など
 ローラーは貴金属地金を薄くしたり、細くしたりする用具です。
 線引板やダイスは、細い丸線材や角線材、甲丸線材、
 パイプ状の材料を作る時に用います。
 線引板を万力などで固定し、エンマで線材を引き抜きます。
 太い穴から順々に入れ、求める太さまで引いて延ばします。

10)叩く:金槌、木槌、金床など
 叩いて形を作ったり、延ばす時に使うのが金槌や木槌です。
 貴金属を金槌や木槌で打つ時は、金床(かなとこ)の上で打ちます。

11)穴をあける:ドリル、ドリル刃
 貴金属に穴をあける時はドリルやボール盤を使います。
 また穴をあける時は位置決め用としてセンターポンチも必要です。

12)刻印を打つ:刻印
 貴金属の種類と品位を表すには刻印を用います。
 「SILVER」、「K18」、「Pt900」など、いろいろな刻印があり、
 またメーカーの名前が入った刻印やダイヤモンドなどを使用した場合、
 そのカラット数を刻印で入れます。
 また刻印には、直刻印と曲がり刻印があります。
 曲がり刻印はもっぱらリングの打刻に使います。
 打刻はヤニ台、金属の打刻台などの上で行います。
 ヤニ台とは松ヤニに地ノ粉をまぜたヤニをピッチ・ボールという
 鉄製のボールに入れた台です。
 ヤニを弱い火で加熱して柔らかくし、
 製作物を固定して石留めや刻印を打つ工具です。
 尚、さんご、コハクなどの有機質の宝石や、オパール、エメラルドなどの
 大変熱に弱い宝石がついたまま刻印を打つ場合は、細心の注意が必要です。
 これらの宝石の場合はヤニではなく、  歯科材料で常温で固く、お湯やドライヤーの熱で柔らかくなる
 コンパウンドを固定材として用います。

13)光らせる:白棒、青棒、赤棒
 貴金属の研磨剤には白棒、青棒、赤棒などがあります。
 白棒、青棒、赤棒は円盤の形状をしたバフ布を回転モーターに取り付けて、
 モーターの回転力で磨きます。
 白棒(アルミナ)、青棒(酸化クロム)、赤棒(酸化鉄)は、
 それぞれの仕上げ工程によって使い分けます。
 ほかに練り状研磨剤があり、セーム皮や布につけて使います。
 これでヘラがけの後のシルバーやK18を磨きますと、
 ヘラムラが取れて均一な輝きが出ます。

14)光らせないで仕上げる:金剛砂、古美液(ふるびえき)
 貴金属はピカピカに光らせる仕上げの他、
 光らせない仕上げや本来と違う色に仕上げる方法があります。

 a.梨地(なしじ)仕上げ
 光らせない仕上げの代表は、梨地仕上げです。
 仕上げ面が梨の皮に似ているのでこの名があります。
 金剛砂(こんごうしゃ)と呼ばれているガーネットの粒で、
 貴金属の表面に無数の小キズをつけることによって得られる
 テクスチャー(表面仕上げ)です。

 b.ホーニング
 金剛砂の作業を機械で行うのがホーニングです。
 ガラスや微細な金属片を高圧空気とともに、
 素材の表面に吹き付け、非光沢面を作ります。

 c.サティーナ(サテン仕上げ)
 ペースト状の固形化する研磨剤を専用のバフ布等の外周に塗布し、
 素材の表面に細かいラインをつけます。

 d.その他の仕上げ
 タガネで一面に模様をつける方法、硬質ゴムで表面をこする方法、
 ダイヤモンド・ポイントで表面に均一な筋をつける方法等があります。

 e.いぶし仕上げ
 シルバー製品の表面を黒色に仕上げることをいいます。
 古美液をハケにつけ、2~3度製作物に塗り、
 自然乾燥させると黒色になります。

15)電動工具類:ハンドモーター、バフ、超音波洗浄器
 作業を効率よく行う為に、いろいろな電動工具や機器がありますが、
 その中で最も使用頻度の高いものは、
 ハンドモーターとバフ(バッファー)、
 そして超音波洗浄器です。
 ハンドモーターは加工にも仕上げにも、
 ワックス加工にも使えてとても便利です。
 バフは仕上げ専用工具です。
 超音波洗浄器は、仕上げた後に製作物の隅々に残っていた汚れや、
 貴金属面や裏にこびりついた研磨剤をきれいに落とすことができます。



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