藤の屋文具店

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猿でも書けるエッセイ教室




        【猿でも書けるエッセイ教室】

           まず書いてみよう


 通信を始めたが、CB無線のようにべちゃくちゃしゃべっている
だけでは物足りなくなってきたあなた、小説を書きたいとまでは思
わないけど、何かひとさまに読んでもらえるものを書きたいぐらい
には自己顕示欲のあるあなた、そんなあなたにぴったりなジャンル、
「エッセイ」の書き方をおけいこしてみましょう(^^)。

 タウン誌や、宣伝広告の多い雑誌なんかを読むと、まるで中学生
の作文のようなエッセイにお目にかかる事がありますね、どうして、
あんなにつまんなくって情けないものが、活字になってみんなの目
に触れるのでしょう? それは、広告収入に頼る事で、事の本質を
見失ってしまった編集者が、良いものをつくろうという情熱を放棄
してしまったからです。はした金で使い捨ての作品を乱造する二流
のプロや、活字にしてもらえることで有頂天になる素人さんを安易
に利用する事で経費をおさえたり、きちんとしたものを書ける人材
を発掘する事を放棄した、手抜きのせいなのです。

 エッセイは、誰にでも簡単に書けます。問題は、他人に読んでも
らえるものが書けるかどうかという事ですね(^^)。文章のテクニッ
クばかり身につけても、けっして良いものは書けません。優等生の
弁論大会みたいなもんです。あくびがでてきます。どうせ書くのな
ら、読んだ人の心にちくちくと刺激を与えるようなものを書きたい
ですね。それには、ただ漠然と気の利いた言い回しを並べていても
だめです。週間プレイボーイの、乳と尻をぺろんと出した写真の余
白に書かれた文章を見れば、一目瞭然ですね(^^)。

 まず、今日一日を振り返ってみて、感動したことを思い出してみ
ましょう。なにも、「暴走族のあんちゃんが、ばあさんの手をひい
て横断歩道を渡らせてやった」等というたぐいのものばかりが感動
ではありません。
 腹の立った事、悲しかった事、気持ち悪かった事、うれしかった
事、とにかく、心になにか残っている事を思い出してみます。何も
ないはずはありません。そんな平常心で超然と生きている人は、通
信なんかしませんね(^^)。感受性のするどい、傷つき易いハートを
もったおっさんやおばさまおねーさまおにーちゃんだけが、CRT
に向かって一人ぱこぱことキーを打てるのです(^^)。

 今回は、運転マナーを取り上げてみましょう。あなたは今日、ク
ルマを運転していて、ベンツにのったじじいに横着な仕打ちをされ
て、とても腹が立ったことにしてみます。こういうことはよくあり
ますね。では、例文を書いてみましょう。

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 本県の交通マナーはたいへん悪い。僕は今日、ウィンカーも出さ
ずに前に割り込んできたクルマのために、急ブレーキを踏んだ。と
てもあたまにきた。

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 はい、たいへん分かりやすい文章ですね。でも、どうしようもな
くつまんないです。書いた人はあるていどうっぷんばらしになって
満足できますが、ごまめのはぎしりというかなんというか、横断歩
道で停車しなかったばばぁのクルマのヘッドライトを睨みつけてい
る気弱なおっさんを見るようで、読んでいるだけで情けなくなりま
す。こんなおそまつな文章でも、ネットワーカーはいろいろとコメ
ントをつけてくれたりしますが、だまされてはいけません。彼らは、
たんに社交辞令で相手してくれているだけです。何度も続けていれ
ば、そのうち陰で笑いものにするか、読まなくなるかのどちらかで
す。

 では、少しこれを掘り下げてみましょう。まず、この文章の主旨
は、「自分は悪くないが、他の運転手は悪い」あるいは、「本県の
ドライバーは悪いが、自分は違う」ですね。とても傲慢な意見です
(^^)。朝日新聞の投書覧をみれば、じじいやばばあがこういうこと
をいっぱい書いています。いまさら読んでも、何の感動もないです
ね。ようするに、陳腐なのです。
 だいいち、みんな自分だけは違うと思っているのです。割り込ん
だ運転手にしてみれば、ウィンカーを出しても入れてくれないから
こそっと割り込むわけで、入れてやらないやつだって、右折レーン
からダッシュしてアタマをとって直進することをやってたりします。

 心に響く文章というものは、ようするに、心に刺さるものを持っ
ているという事だと思います。自分では気がつかなかった、自分の
心の中にある醜さや脆さを、他人の書いた経験の中に見つけたとき、
読者はその文章に深い感銘を受ける事があるわけです。そこらへん
を刺激するように、少し書き加えてみます。

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 僕は今日、ウィンカーをつけずに割り込むクルマに出会った。隣
のレーンを勢いよくダッシュし、僕の前の空間めがけて突っ込んで
きたのだ。どうして、高級車に乗っているドライバーほど、こうい
う横着な運転をするのだろう。等と考えながら、交差点を右折した。
 道は比較的すいていたが、トラックが邪魔で前方がよく見えない。
車間距離を多めにとって走る事にした。と、後ろから若い男の乗っ
た軽自動車がパッシングしてくる。うるさいな、と思いながら少し
速度をあげると、軽自動車は追い越しをかけてきた。
 カチンときた僕は速度をあげ、トラックぎりぎりまで車間をつめ
た。行き場のなくなった軽は、ふたたび僕の後ろにおさまった。
 ルームミラーに映る若い男の表情を見て、僕は、それが、さっき
の自分の表情と似ていることに気がついた。
 ふと信号機の脇を見ると、黄色い大きなポスターが貼ってあった。
真新しいそれには、「めざせ、交通マナー日本一」というスローガ
ンが、高らかにうたわれていた。

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 何となく、いかにも深そうな印象を与える文章になりましたね(^^)。
都会から田舎に帰ってきた田舎者が、やたらと自分の街の悪口を言っ
て得意になることがありますが、誰にでもそういう部分はあるわけで
す。他人の事を脳天気に批判しているだけの文章では、誰も気にもと
めませんが、少しだけわが身を振り返ってみせる事によって、そうい
うお調子者のみっともなさを、自分もどこかでやっているのではない
かという心配な気持ちを、ちょびっと刺激するのです。

 第一回は、こんなとこで終わりますが、いかがでしょう。今のうち
におことわりしておきますけど、これは、めかごじら流のエッセイの
書き方教室であって、決して一般的なものではありません。爽やかな
秋の朝に太陽の光を浴びてきらきらと輝く草露のようなエッセイを書
きたい方にとっては、くその役にもたちませんので、くれぐれもお気
をつけくださいませませ(^^)。




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