がちゃ☆がちゃ

父との別れ　2005.6.29

母が喪服を着る用意をしていた。
私も起きて、用意する。

雨は降らないはずなのに、朝から大雨。
父は、朝起きて水撒きをするのが日課だった。
涙雨と言うよりも、きっと父が水撒きをしているんだと思った。
母は、「涙雨よ。お父さん泣いてるんだよ」といっていた。

しかし、30分ほど降った後、雨はぴたりとやんだ。
やっぱり、弔問客を気遣って水を撒いてくれたんだと確信した。

母の友達に、喪服を着せてもらいながら思う。
嫁入り道具で買ってもらった喪服を、初めて着るのが今日とは・・・・
ボーっと立っているだけでどんどん着物が着せられていく。
気が付くとできあがり。

こんなに簡単だったかな？
気持ちは落ち着いているのか？
ボーっとしているだけなのか？？？

自分では分からなかった。
昨日のお通夜ではいのぴーが大暴れして困ったが、今日はおとなしくしてくれている。
雰囲気で何か察しているのかもしれない。

葬儀が始まる前に、葬儀屋さんから説明がある。
焼香の順番とか、葬儀の進め方について・・・・
聞いているつもりが頭には何も残っていなかった。

やがて葬儀が始まり、お経が聞こえてくる。
なれない正座がしんどくなるかと思いきや・・・・
意外に座っていられるものだと感心した。
気が付くといのぴーは、昨夜の寝不足からか寝てしまっていた。
パパが抱っこして焼香を済ませた。

私は、相変わらずボーっとして違うことを考えていた様に思う。

司会の人が「最期のお別れです。お花をもって別れを惜しんでください」
みたいな事を言う。

父の顔を見ると、嬉しそうな顔のままだった。
顔の周りや、足元にも花がたくさん置かれた。
弔問してくださった人たちにも、最後の別れをしていただく。

「ありがとうございました」
「お世話になりました」
「助けていただきました」

こんな言葉をいろんな人からかけていただいた。
お父さん、みんなに頼りにされてたんだね。
口は悪いけれど、本当は優しいお父さんだったよね。
それは、私たち家族だけに向けられたものではなく、お父さんの知っている人みんなに
向けられた優しさだったんだね。

父の大きさを、ここでまた知ることになる。

いのぴーが「鶴は？」
と言うので、せっかく折った鶴だからお父さんに持っていってもらおう。
800羽もあった。

みんなの思いが詰まった鶴を、父の足元においた。

そして出棺。

家の外に出ると、思った以上の弔問客に驚いた。
私は弟の車で斎場へと向かった。

斎場までの道のりは、父が入院していた病院を通り過ぎていく。
このルートは父が、職場に行く通勤経路でもあった。
「お父さんは毎日、この道を通って仕事に行っていたんだなぁ」
そう思いながら、外の景色を眺めていた。

もう、通ることもないのか・・・

そう思うと泣けてきた。

斎場は友引明けで混雑していた。
父と本当に最期の別れ。

お父さん、今までたくさんの愛情をありがとうね。
親孝行できなくてごめんね。
私は今までも、これからもお父さんのこと、大好きだよ。

最期に触った父の頬。
解っていたけれど・・・冷たかった。

お棺のふたが閉められる。
胸が苦しくなってくる。

何度も来たことがある斎場なのに、今日はいつもと違う。
父がいない。
当たり前か・・・はは・・・

私はおかしくなってしまったのかもしれないと、自分でおもう。
再び父に会うまで、約2時間。
食事して、親戚のおばちゃんと他愛のない話して・・・
そうしている間に時間は過ぎていく。

館内放送で名前を呼ばれたので、移動する。
そこには変わり果てた父の姿。

驚くほどきれいに形が残っていた。
力仕事をしていたので、骨は鍛えられていると自慢げに言っていたっけ。
このとき私は、もう泣けなかった。

小さくなった父を連れて実家に帰る。
帰りは遺影を持ってバスに乗った。
窓の外を見ていると、突然睡魔に襲われた。
自分でも解らないうちにぐっすり眠ってしまったようだった。
辺りを見ると、みんな同じでよく寝ていた。
体はもちろん、ココロも疲れたよね。

家はすっかり片付けられていた。

いつもと同じ家。
いつもと同じはずが、父がいない。
この現実を受け入れられるまでにはきっと、まだまだ時間がかかると思う。

母は、いつの間にか泣かなくなっていた。
「だってお父さん帰ってくるような気がするから」

私もそう思っていた。

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