『始動』 5

この一ヶ月間、数こそ少ないが様々なMOBを見てきた。
弓で攻撃してくるMOB、二廻り以上も大きなMOB、中のは火の玉を放つMOBもいた。
さらについ先ほどは不死身のMOBまでも目撃している。


しかし、今目の前にいるMOBはそれらをはるかに越える存在感と恐怖感をPTに与えていた。
成人の約3倍近くはある身丈にそれだけで1Mはあろうかという巨大な手、そしてそれを覆う篭手はそれだけで一つの鎧の様にも見える。


大型骸骨の様に肉体を持っておらずその体は骨格で形成されていた。しかし先ほど戦っていた大型骸骨の様な脆さはそのどこからも見当たらない。


人語を操る事もそうだが何よりも一切の感情を感じさせない真っ赤に光る目がより一層の恐怖感をPTに与えていた。











『真説RS: 赤石 物語』 第2章 『始動』-5







「ここで一体何をしている?!」
部屋にakariの声が響いた。


「貴様ラニハ関係ナイ・・・
 ト言イタイトコロダガドウセスグ死ヌ運命ダ・・・
 冥途ノ土産ニ教エテヤロウ・・・・
 クックック・・・
 死者ハ実ニヨク働イテクレルヨ」
「死者・・・・・まさかっ!!」
akariは何かに気付いた様子であたりを見回した。
「そういう事ね・・・・死者に反魂の秘術を使う事で自分の操り人形に・・・あなたは神にでもなったつもり?」
akariの声が怒りで震えていた。
「クックック・・・・
 コレハ神ノ意思ナノダヨ
 クックック・・・・・」


“ガガッ・・・・・・akariさんがネクロマンサーの気をそらしいている間に2,3伝えておくね”
耳元のチャットからAndrsenの声がした。
“あれ系のMOBは火属性の攻撃してくるけど抵抗ないとかなりキツイからakariさんを除いた4人にはミラータワーをかけるね。これで火ダメの大半が僕にくるから多少は楽になるはずだよ。”
“こいつ倒したらQuestも終了のはずだしみんな頑張ろう。”
““““はい!””””


「神の意思か何か知らないけど死者を愚弄する事は私が許さない。」
横目でミラータワーが一通り行き届いた事を確認し剣をネクロマンサーの方へと傾けた。
「クックック・・・
地下ハイイ・・・負ノ力ニ満チテイル
我ガ闇ノ力 ソノ身デ味ワウガヨイ」


一瞬の静寂が広間を覆ったがすぐにそれは壊された。
まず先手をとったのはネクロマンサーだった。
ボッボッボッ
ネクロマンサーが発した火柱がPT向けて直線状に拡がる。
いっせいに左右に避けるが避けきれずにいたバシパーとグレイツをネクロマンサーの炎が襲う。
「ぐあぁ・・・なんだこの痛さ・・・何発もきたらやばいですよ。」
ミラータワーにより代わりにダメージを受けているAndrsenの全身に激痛が奔る。
「この部屋のせいね・・・火の精霊の気配を感じるわ。私達の火抵抗が減らされている可能性高いわね。」
akariが部屋を見渡し答えた。


「せやっ!」
「おらっ!」
攻撃後のわずかな隙を狙ってネクロマンサーの両サイドからミコトとバアルが攻撃を仕掛けた。


ガガガキーーーーン


しかし攻撃虚しく放った本人ごと両腕のぶ厚い篭手によって弾き返された。
ネクロマンサーはおかまいなしに第二波を逃げ遅れたバシパーとグレイツむけて放った。
「うわぁぁぁぁぁぁ」
2人は恐怖と勢いからか身動きがとれずにいた。
その2人を激しくうなる炎が飲み込もうとした瞬間、一つの影が2人と炎の間に割って入ってきた。
勢い止まる事を知らない炎はそのままの勢いで影を飲み込んだ。
「akariさん!!」
影の正体はakariで2人の盾となり炎を防いだのだ。
しかし、さらに容赦のない攻撃がバシパーをグレイツをそしてakariを襲っていった。
「クッ・・・・」
攻撃を受け続けたakariの片膝が地につく。
ネクロマンサーの攻撃は確実にakariの体力を奪っていった。
バシパーとグレイツの被害はミラータワーのおかげで大した事はなかったがその分Andrsenへの被害は甚大な物になっていた。


「ちょ・・・調子に乗るな!!ファイアーボール」
そう言うとバシパーの頭上に現れた複数の火の玉がネクロマンサーめがけて一斉に発射された。
ドドドドドッ
火の玉はネクロマンサーに命中するも黒煙を上げるのみで大したダメージを与える事が出来ていない様子だ。
「パラレルスティング!」
黒煙の中から隙を見つけ8体に分身したakariが満身創痍の体ながら渾身の一撃を放った。
さらに左右からミコトとバアルもこれに続いた。
ガガガガガガ
鉄と鉄がぶつかり合う音が部屋中に響く。
黒煙が晴れ、姿を現したのはakariの攻撃のほとんどを腕の篭手で防ぎミコトとバアルの攻撃もさほど苦になっていない様子のネクロマンサーがだった。


「クックック・・・
サッキマデノ威勢ハドウシタ」
攻撃を受けきったネクロマンサーが不敵な笑みを浮かべていた。
が、すぐにその笑みは消えうせた。
ミシミシ・・・・ガシャーン
大きな音と共に両手にはめられていた鋼鉄製の篭手が崩れ落ちたのだ。

「グオオォォォォ
コレハ防具破壊・・
 貴様生カシテオカヌ!」
一気に気性を荒立てたネクロマンサーが咆哮と共にakariめがけて火を吐いた。
「きゃっ」
攻撃を受け続けていたakariの体がゆっくりと地面に崩れ落ちた。
「はぁはぁ・・・もう嫌だ、死にたくない!」
その光景を見たグレイツがそして
「待ってくれ!俺も死にたくない」
バシパーが一斉に部屋の入口むけて走り出した。


「逃スカ!」
背をむけ逃げ出す2人を炎が襲う。
しかしその炎は2人を襲う前にAndrsenにより防がれた。
「ぐうぅぅぅ」
Akariがした様にAndrsenもまた2人をその身を挺して守ったがすでにミラータワーにより受けていたダメージもありakariと同じ様に地面に崩れ落ちた。
「クックック・・・
防具破壊ニハ些カ驚カサレタガ
コノ2人サエ消エレバアトハ雑魚ノミ」
「誰が雑魚かどうか試してみなよ。」
そう言うとバアルがネクロマンサーめがけ走り出した。
「雑魚ホドヨク吠エル・・」
攻撃は最大の防御と言わんばかりにバアルめがけ火柱が迸る。
「ふぅ・・ふぅ・・」
間一髪のところで攻撃をかわしたバアルはその場で止まり小さな深呼吸を挿み息を落ち着かせ静かに目を閉じた。
〔落ち着け・・個にとらわれるな、体で全体の流れを感じろ・・・〕
心の中で自身に言い聞かせ体の隅々まで気を張った。


「クックック・・・
モウ諦メタノカ
ナラ死ヌガヨイ」
目を閉じ動く事のないバアルに向かい次々と炎が奔る。
ザッ ザッ
驚いた事にどのタイミングでどこに攻撃が来るのが先にわかっているかの様に全ての攻撃を軽快なステップでかわしていた。
「ホウ・・・サイドステップカ
雑魚ニシテハヤルガ
ソレダケデハ反撃ナンゾ出来ンゾ」
反撃してくる気配のないバアルに対しネクロマンサーはさらに攻撃の手を強めた。


“バアル、akariさんもアンさんも無事だ。すぐ向かう”
サイドステップで攻撃をかわすバアルのチャットからミコトの声がした。
“了解”
一旦後ろに下がりなおし答えた。


「諦メロ・・攻撃出来ナイ
貴様ニ勝算ナド・・・・」
そこまで言うとネクロマンサーはあたり一面を見渡しさっきまで倒れていたはずのakariとAndrsenそしてもう一人の剣士がいなくなっている事に気付いた。
「今頃気付いたのね。akariさんもアンさんもすでにミコトが安全な所に連れて行ったよ。俺にばっかり集中しているから気付かないんだよ。」
「さて・・・改めて行きますか」
バアルはふぅーっと一つ深呼吸をいれ体全体でリズムを刻み始めた。
睨み合うバアルとネクロマンサーの間の空気がピリピリと張り詰めていく。
しかしすぐにその空気は本人達の意思とは別の事で切り裂かれた。


ザクッ
「グオォォ」
ネクロマンサーの背部に衝撃が走る。
ネクロマンサーに振り下ろした剣を抜きバアルの元に飛び降りたのはミコトだった。
「ごめんごめん、待たせたね。」
「遅いよ。苛められるとこやったし。」
「そう言うなよ。でもakariさんの防具破壊が効いてるから攻撃がちゃんと届くね。」
「だな。決めるぞミコト」
「了解。」


ミコト、バアルとネクロマンサーが睨み合う。
本当に最後の戦いが始まった。


ボッボッボッ
ネクロマンサーが狙いを定め火柱を放つ。
ヒュン
襲ってく火柱をなんとかかわし
ザクッ
もう一方がその隙をつきネクロマンサーに対し攻撃を加える。
しばらくはその戦法で確実にネクロマンサーにダメージを与えるもすでに体力的に限界を迎えてる2人にネクロマンサーの攻撃が少しずつ当たり始めていた。


そうする事数分、戦場には満身創痍ながら気力でやっと立てている状態のミコトとバアルそして今にもその身を崩しそうなネクロマンサーがいた。
「はぁはぁ・・・ミコト、俺が囮になるから最後決めてくれ」
「わかった。」
そう言うとバアルは大声で雄叫びを上げネクロマンサーに突撃をかけた。
ネクロマンサーがバアルめがけ火を放つ。
それを見計らいミコトが背後に回りネクロマンサーに攻撃を仕掛けた。
「ぐあぁぁぁ」
部屋に悲鳴が拡がる。
ネクロマンサーの攻撃をかわしきれずにいたバアルが膝をつけ倒れこんだ。
「くっ」
止めを刺す事が出来なかったミコトが一度後方に下がったのをネクロマンサーは見逃さなかった。
ゴオォォォ
炎に飲み込まれミコトの意識は少しずつ薄れていった。


―ミコト、あなたはまだここで倒れてはいけないわ。
―ネクロマンサーの体も崩れつつあります。最後の力を振り絞って。


ミコトの頭の中で何か懐かしい声が響いた。
その声のおかげで薄れかけていたミコトの目に再度力が戻る。

「コレデ終ワリダ」
倒れこみ起き上がらないバアルと確実に炎に巻き込まれたミコトを見てネクロマンサーが呟いた。
キラッ
ネクロマンサーが何か炎の中から光った様に感じた直後その光は一直線にネクロマンサーの頭部にむけはしった。
「はぁはぁ」
炎の中から満身創痍のミコトが姿を現す。
ミコトが最後の力を籠めて放った一撃は自らの剣を力を前方の敵めがけて投げつけるシューティングスターと呼ばれる剣士のスキルだった。
ザクッ!!
ミコトの剣は見事にネクロマンサーの額を貫いた。
「グオォォォオォォォォオオオォ」
断末魔の叫びと共にネクロマンサーの体が崩れていく。
「馬鹿ナ・・・
私ハネクロマンサーダゾ
コンナ事ハアリエナ・・・・」
「よし・・勝ったぞ・・・」
崩れいくネクロマンサーを確認したミコトの全身から力が抜けミコトも地面に崩れ落ちた。
「コレデハ“アノ方”ニ顔向ケ出来ン
セメテ貴様ラヲ 道連レニシテクレヨウ・・」
そう言うとネクロマンサーの指が一瞬光った。そしてすぐにネクロマンサーの全身から生気が失せた。


カチャ カチャ


ミコトは薄れいく意識の中部屋の隅々にあった骨が動きだし大型骸骨になっていくのを目で確認した。
「ち・・・く・・しょ・・・う・・・」
しかしそこでミコトの意識はなくなった。



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