第4章 『離盃』



“どういう事だ?!”
ガラテアが怒鳴り声にも近い声で問いただした。


“SaintCrusadersの生存者らしき者からギルド連合に連絡があったらしい。しかし、会話の途中で息絶えたかもしくは・・・・・・それから連絡がないらしくギルド連合も俺も全く詳細がつかめていない”
“くっ・・・それでギルド連合は何て?”
“直轄のしかも中心的なギルドの一つが壊滅なんだ、今は指示も出せない位にパニックになっているよ。”
“くそっ・・・今から現場へ向かう!”
“そう言うと思って今PTの編成中だ。PTメンバーが決まり集まり次第すぐに後を追う。だから無理はするなよ。”
Stojikovicの根回しの良さにガラテアは感謝すると共に現地へむかう覚悟をきめた。


“現地はそれでいいとして・・・・連合本部のある古都は?”
“うむ、それも友好ギルドに協力要請して何があっても対処できる様にしている。”


“さすがやな。こっちはこれから用意してむかう。”
“了解。”
ミコトとガラテアは何とも言えない不安を拭う事が出来なかった。


「ミコト君、これから用意して行こう。」
「用意はしておきました。すぐに行きましょう。」
友の在籍するギルドの壊滅。急いでいるのはミコトも同様だった。
「よし、とばして行くからちゃんとつかまっといてや!」
そう言うとガラテアは自分の荷物の中から一冊の本を取り出した。
そして本を開き静かに目を閉じ何かを唱え始めた。


フォン


一瞬だったが本が黄色い光を発した。
そしてその光はそのまま上空へと放たれた。
ガラテアは目を開け本を荷物の中へと戻した。
しばらくすると上空から一体のドラゴンが舞い降りた。
「よしミコト君、こいつの背に乗ってくれ。」
「はい!」
ミコトとガラテアを背に乗せたドラゴンがゆっくりと羽を伸ばし上空へと羽ばたく。


事の真相を、友の安否を確かめる為にガディウス大砂漠目指し一体のドラゴンと2人の男が雪舞い散る寒空の中へと消えていった。










『真説RS: 赤石 物語』 第4章 『離盃』-1







「片付いたか・・・・。」
そうつぶやく男の足元にはおびただしい量の血と数多くの死体が転がっていた。
「失礼します。すべて片付きましたのでご報告に。」
男の元に1人の男が近寄ってきた。
「ふん、少し前までまさに愚の骨頂とでも言うべき“小隊長殿”の参謀役についていた者の言う事が信用に値するものかどうか。」
「失礼ながら・・・私をふくめ数名の者はこの時の為にギルドに潜入しておりました。まずはそれをご理解いただきたい。」
「ふん、それ位理解している。言ってみただけだ。それで・・・結局のところこっちは何人残ったんだ?」
「はい。私達を含め全員で10人です。」
「思ったより少ないな・・・。」
「命ほしさに助けを求めるものは全員殺しましたので。元々こちら側にいた者と強い私念を持った者のみを残しました。」
「で、これからどうするつもりだ?」
「表立った活動をするにはまだ準備不足です。来るべき時に向け準備を整える事が先決です。」
「それ以上は動き様がないか・・・・では行くか。」
「はっ!ではすぐに招集をかけます。」


「ミコト君、大丈夫か?」
「はい。防寒具多めに持ってきましたから。」
ガディウス大砂漠へと向かう一行の体へ上空の冷たい風が容赦なく吹き付けていた。
「この地方で雪が振る事はめったにないんやけどな・・・。」
砂漠地帯に雪という珍しい現象がさらに2人の不安を掻き立てていた。


「確かにこの辺やったと思うけど・・・・」
ガディウス大砂漠の任務地付近にミコトとガラテアを乗せたドラゴンが辿り着いた。
「えっと・・・・・・!!」
ドラゴンの背から状況を確認しようと身を乗り出しながら下を覗き込んだ2人の目に凄惨な光景が飛び込んできた。
地面一杯に横たわる死体の山。
雪の白化粧によって幾分か隠されているも逆に見えている以上の骸が眠っている事を証明していた。
その光景には過去に数多くの任務をこなしてきているガラテアでさえ息を飲み込むほどだった。
「これは・・・・」
ミコトに限っては言葉すら出ない様子であった。


「ふっー、落ち着いていこう。」
ガラテアが先にドラゴンから降り周りを確認した。
「降りられるか?」
「・・・・はい。」
地に降りたった2人の前により現実味を帯びた光景が映った。
「戦争と言ってもこんなに悲惨な・・・・・ん?」
目を背けたくなる様な光景を前にガラテアが違和感を感じた。
「この装備・・・この人数差・・・・・」
「どうしたんですか?」
ミコトが問う。
「うん。SCがこの相手に負けたとは思えない。元々おかしいとは思ってたけど相手の装備や人数が全然違うし、筋肉のつき方はまるで戦士のものじゃない人もいっぱいいる。」
落ちている武器を手にとりガラテアは答えた。
「どういう事ですか・・・・・?」
「確証を得た訳ではないけどひょっとしたら・・・・・内部から裏切り者が・・」
「!?」
ミコトが目を丸くあけ驚いた。
「可能性があるだけの話やで。でも間違いなく生存者はいる。」
「さて・・・」
ガラテアが静かに目を閉じた。
「・・・・・・」
何か喋ってはいけない雰囲気を感じ取ったミコトが黙ってガラテアを見ていた。
「・・・・・!!」
「ここから・・・北東の方角に・・・5Km位離れた所で・・・・10人位が固まって移動しているな・・・。」
「ご、5Kmですか?!」
「うん。潜在的な能力でね、相手の気と同調したり気を読む能力に長けてるんよ。こんだけ離れていると詳しくは掴めないけどね。」
「気の同調ですか・・・。」
少し耳を疑う様な事を聞きミコトはまた驚いた顔をした。
「調べておきたい事もあるけど今は反応を追おう。」
「はい。」
再び2人を背に乗せたドラゴンは現場を離れ北東を目指し飛び立った。


“あーあー、スト聞こえるか?”
“うむ、聞こえているぞ。”
道中、ガラテアが“チャット”でStojikovicと交信し現地の状況等を伝えた。
“了解。こっちもやっと出発の用意が出来た。これから後を追う。”
“了解。”


「ガラさん、どれ位まで近づいたんですか?」
「もうちょっとで1Kmきる位かな。そろそろ相手の状況も・・・・!!」
話の途中でガラテアの表情が一気に曇った。
「ガラさん?」
「ん・・・すまん・・・集団の内の一つが少し印象変わったけど知り合いの気と似てたからビックリして・・・。」
「って事は話しやすいじゃないですか。」
「うーん、本人と決まったわけではないんやけど・・・・」
「大丈夫ですよ。」
ミコトはバアルの安否を気遣う自分自身を落ち着かせる様な口調でガラテアに話した。
「やな。とりあえず今は急ごう。」
そう言い、2人で進行方向を見つめた。


「ん?・・・・私達を追っている者がいる様ですね。」
「この気は・・・・おっさんずギルドのガラテアの物・・・ですね。」
「私達の存在に気付き後を追っている様ですね、何人か残してあとの者は先を進みましょう。」
男が後ろを振り向き口を開いた。
「ほう・・・来ているのがガラテアなら俺が残る。」
背に背負っていた巨大な斧を地に乗せ大型の男が言った。
「おっさんず・・・・・ふん、なら俺も残っておっさんずとやらの力を見せてもらおう。」
「ふむ・・・・では私と私の付き人を足した4人でここに残り後の者は先に進んでもらいましょうか。


「ん?」
「どうしたんですか?」
「こっちに気付いたな・・・・集団が4,6に分かれた。4人の方が俺らを待っているみたいだ。」
ドラゴンの背中で2人が話す。
「どうなるかわからんけど戦闘の可能性もある。その心構えだではしとけよ。」
ガラテアの言葉を受けミコトの手に力が入った。


ガディウス大砂漠から北東へ進む事数十分、クェレスプリング湖の上流、いたるところに木々が生い茂るグレートフォレスト地方はネイブ滝付近
「あれか?!」
2人の目が4つの影を捕らえた。
「行くぞ。」
「はいっ!」


ドンッ


ドラゴンから地面へと勢いよく飛び降りた。
「・・・・やっぱりお前やったか・・・。」
ガラテアの瞳に1人の戦士が映る。
「けけけ・・・・久しぶりだな。俺の事なんか忘れたと思ったぞ。」
その戦士がガラテアむけて言葉を放った。
「・・・・・!!」
ガラテアの横ではミコトもまた瞳に1人の戦士を映していた。
しかし目の前にいるのは自分の記憶に残っている彼とは全く異質の印象を与えていた。


グレイトフォレスト地方独特の寒気を帯びた風といまだに止む気配のない雪、そしてネイブ滝の水飛沫が対峙する6人の戦士に吹き抜けていた。




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