ぎょう乃介雑記

ぎょう乃介雑記

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2006年05月06日
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カテゴリ: 古典日記


517「神木にも手は触るといふをうつたへに人妻といへば触れぬものかも」
  (巻4 「相聞」 大伴安麻呂)

訳「御神木にだってちょっとさわってみることがあるのに、人妻には、むやみには近づいてちょっと
手を出してみるなんてできないよなぁ」

3115「息の緒に我が息づきし妹すらを人妻なりと聞けば悲しも」
  (巻12 「問答歌」)

訳「命のある限りずっと恋しくて、ついため息をついちゃうようなかわいい、あの子なのに、あの子
  は人妻だよ、なんて聞きたくなかった。」



   但馬皇女の高市皇子の宮に在しし時穂積皇子を思ひて作りませる御歌一首

114「秋の田の穂向きの寄れる片寄りに君に寄りなな言痛くありとも」

訳「秋に実る稲の穂が片方にばかり寄るように、(もう片方の)あなたにずっと寄り添っていたい、
  まわりが何だっていうの」

   穂積皇子に勅して近江の志賀の山寺に遣はしし時に但馬皇女の作りませる御歌一首

115「後れ居て恋ひつつあらずは追ひ及かむ道の隈廻に標結へ我が背」

訳「じっとしてここに残っていたって、恋しくって仕方がないから、追いかけていくわ、道の曲がり
  角ごとに印をつけてってね、あなた。」

   但馬皇女の高市皇子の宮に在しし時、竊(ひそか)に穂積皇子に接ひて事すでに形あら)は
   れて作りませる御歌一首

116「人言を繁み言痛みおのが世にいまだ渡らぬ朝川渡る」


  いまだかつてしたことないけど、朝の川だって渡るわよ(ふたりのためなら)。」


   但馬皇女の薨(かむあが)りましし後穂積皇子の冬の日雪の落るに遥かに御墓を見さけまし
   て悲傷かなし)み涕(なみだ)を流してつくりませる御歌一首

203「降る雪はあはにな降りそ吉隠の猪養の岡の塞なさまくに」

訳「雪よ、降ってくる雪よ、そんなにたくさん降らないでおくれ、吉隠の猪養の岡のふさぎとなって


※末句「寒からまくに」(寒いだろうに)とする説もあります。

題詞によってわかる通り、「高市皇子」と暮らしている「但馬皇女」が、「穂積皇子」と不倫をしている歌です。

「・・・朝川渡る」なんて、ものすごい事です。
「朝の川」か「浅い川」か「朝川(川の名前)」か、という議論もありますが、本来、妻問婚は男性が夜にやってきて、朝にならないうちに帰るのがしきたり。全くその逆を歌っています。但馬皇女は行動的な女性と思われている所以です。

でも、どうでしょう。本来、女性が「恋のかけひき」をしようとしたら、実際には行動をしないで、言葉でもって、うまく男性を動かすようにするんじゃないでしょうか。

「この意気地なし!あなたがまわりばかり気にして、そんなことだったら、わたしがあなたのもとにいくわ。そして朝帰りするのよ。ふん、川だって渡れるんだから。いい?」

こう言われて、「じゃぁ、渡れよ!」って言える男性がどれだけいるでしょう。そういった、恋のかけひきの歌であって、実際に渡ったという事実の歌ではない、と思うのです。
逆に渡ってしまったら、次の「かけひき」はもっとすごい事を持ち出さなくてはなりません。それは女性にとって、とても自分を不利にしてしまうことになるからです。
ですから「朝川」は「朝の川」と解釈しなければならないと思うのです。

人柄か、恋のかけひきが上手だったのか、穂積皇子の優しさでしょうか、但馬皇女が亡くなった後も、恋い悲しんで涙を流すところは、女冥利に尽きるといえるでしょう。

以上4首は「但馬皇女物語」があったかも、と思われるくらい、ストーリーができあがっています。

これらとは、離れた場所に

   但馬皇女の御歌一首[一書云く子部王作なり]

1515「言繁き里に住まずは今朝鳴きし雁にたぐひて行かましものを [一云 国にあらずは]
   (巻8 「秋雑歌」)

訳「ああ、もううるさい、こんな里(国)には住むんじゃなかったら、今朝、おもてで鳴いた雁にま
  じって、ずっと遠くに飛んでいくのに。」

と言う歌も残っていますが、「一書(別な本)では子部王の作とある」と但し書きがありますので、先ほどの「物語」に引き寄せられて「但馬皇女作」とされたのかもしれません。

   穂積親王の御歌一首

3816「家にありし櫃にかぎさし蔵めてし恋の奴のつかみかかりて」
   右の歌一首は、穂積親王の、酒酣(たけなは)なる時に好みてこの歌を誦して以ちてつねの
   賞(めで)と爲したまひき
   (巻16 「雑歌」)

訳「家の置いてあったおひつに鍵までしめて、しかも蔵にしまって、封じ込めておいた、恋ってや
  つが、いつのまにかぬけだして、俺につかみかかってきちまった。」

  右の歌は、穂積皇子が宴たけなわになって酒に酔うと、好んでこの歌を愛唱しておりました。

これも、物語の後日談ぽっいですね。

今も昔もスキャンダルは耳目を驚かせます。

あ、それと、3人全て「天武天皇」の子供ですが、それについてはまた別の機会に。





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最終更新日  2006年05月07日 01時00分46秒
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